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第三章:予兆と岐路の火曜日

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「……あ、そうだ酒井さん、ちょっとこれ見てください、はい」
 コーヒー休憩を終え、一同が手分けして人形を片付け始めた時、思い出したように蒲田が酒井を呼んだ。
 そもそもこの倉庫は独立系の引っ越し業者か何かが車両置き場と、荷さばき場兼一時保管庫として利用していたらしく、分調班でもそれをそのまま流用し、移管された押収品や証拠品のうち、大物は一階の柵で仕切られた一時置き場に、小物は二階の小口倉庫に分別して収納している。
 蒲田は、その小口倉庫に人形を詰め込むため、倉庫に作り付けられた貨物リフトに縛り上げられた首無しヤクザ人形の部品一式を積もうとしていたところだった。
「これなんですけど、はい」
 猫車に人形を積んで運んでいた酒井が、蒲田の示す先、綺麗に切断されたヤクザ人形の肩口の断面ををのぞき込む。
「……これは……」
「さっき縛ってる時に気付いたんですが、話に気を取られて忘れるところでした、はい」
「西条精機の刻印、だよな?」
「です、はい」
「って事は、この人形は、西条精機の部品を使ったオートマータって事か?」
 酒井の脳裏に、確保時の東大あずままさるの姿、両腕を切断されたオートマータの胴体に生身の首が乗ったその姿が思い出される。
「部品だけ使ったって可能性もアリですが、多分、はい」
 もっと他にも同様の錬金術師とやらは居るのかも知れないが、これほどのオートマータを作れる錬金術師を、酒井は一人しか知らない。
「西条精機にも聞くとして、まずは緒方いおり、だっけ?話聞いてみるべきだな」
「井ノ頭邸の、ですね、はい」
「そういや、これの首から上って……鰍さん、巴さん」
 言いながら、酒井は二階で倉庫に人形を仕舞う手伝いをしてくれている巴と鰍を見上げ、大声で尋ねる。
「これの首って、持って行かれたって証言あるんですが、お持ちですかー?」
「あー、それ、持ってますー、てか、銀座大本営にあるはずですー」
 二階の手すりから身を乗り出すようにして、鰍が大声で答え返す。
「なんか手がかり吸い出せるかと思ったんだけど、イマイチ役立たなくて……要るなら渡せると思いますけどー?」
「あー……」
 一瞬、酒井は考える。現場で正体不明の暴漢に持ち去られたはずの被害者、じゃなくて証拠物件の頭部だから、今更入手したとしてその出所はどう説明しよう?そのまま報告書に書いていいのか?そこまで考えて気付く。いや、分調班に移管された段階で情報は基本的にもう外に出ないから、ありのまま書いても気にしなくてもいいのか。だったら、頭部もあった方が井ノ頭邸の緒方いおりに話聞くのに都合が良いか?
「お願いしまーす、いつ頃貰えますかねー?」
「んー……今日中は流石に無理だろうけど……早けりゃ明日の昼には何とかなるんじゃないかなー……」
「じゃあ、明日、井ノ頭邸、御存知ですよね、お手数ですが持ってきて貰えますかー?これも」
 言って、酒井は足下の首無しヤクザの部品セットを軽く蹴る。
「持ち込んで調べて貰おうと思ってるんでー」
「分かりましたー。巴お姉、明日頼める?アタシ、明日実習あって抜けらんないから」
 手すりから二階の奥を振り返って鰍が聞く。
「午後なら授業ないからいいわよ、信仁、あんたも午後空いてるでしょ、乗せてって」
「うーい」
「じゃあ、そう言うことでー。大本営に話通しときますー」
 巴と信仁の即答を確認し、鰍が階下に向き直って酒井に声を投げる。
「大本営って……ホントにそう呼んでるんですねぇ、はい」
 酒井の横で、蒲田が苦笑していた。
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