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第三章:予兆と岐路の火曜日
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「もしもし、井ノ頭様のお電話でよろしいでしょうか、日販自動車の北条です、あ、菊子さんですか、お世話になっております」
昼休み時間。北条柾木は、早めに昼食を切り上げ、会社の整備工場裏手でスマホ片手に電話をしていた。
「はい、はい、いえあの……はい、はい、承知しました。ところであの、緒方さんはいらっしゃいますでしょうか?」
井ノ頭家の二人、井ノ頭菊子と緒方いおりは、双方ともスマホその他の携帯端末を持っていない。理由は明快で「使わないから」だと言う。
「はい、ところで、すみませんが、緒方さんに、電話を替わっていただけるよう、お願出来ますでしょうか……」
なので、柾木がかけた相手は井ノ頭家の黒電話、電話に出たのは井ノ頭菊子その人であった。
微妙にスローペースかつ絶妙にマイペースの菊子の応対の切れ目をピンポイントで突いて、柾木は緒方いおりに電話を替わって貰えるよう頼む。ぱたぱたと、菊子が廊下から地下に降りるスリッパの音が遠ざかるのを通話口越しに聞きながら、井ノ頭家の不思議なテクノロジーのギャップ、実験施設やセキュリティ面では現代科学のその先を行くハイテクノロジーと、家電を筆頭に実用品はむしろ時代遅れのローテクノロジーの落差を思い、少し可笑しく思う。
菊子さんだけじゃなく、緒方さんもそこそこ長生きみたいだし、そういうところ、こだわらなくなるのかな……
「あ、緒方さんですか、どうも、北条です」
待つことしばし、電話を替わった緒方いおりに、北条柾木は語りかける。
「こんにちは。北条さん、何か御用ですか?」
「いえ、ちょっと、用と言いますか、相談がありましてですね」
「相談?どのような?」
「えっと、緒方さん、夢を分析したり判定したり、そんなような事って出来たりします?」
「夢、ですか?あの、寝てる時に見る?」
「そうです、その夢」
「さて、そのものズバリの装置は持ってませんが、とりあえずデータ押さえればオフラインで分析出来る、かな?どうだろう?」
「出来るんです?」
「何を録れば何が分かるのか、確約は出来ませんが。どこまで出来るか、やってみないとなんとも」
「それでも良いです、実は……」
柾木は、自分が昨日と一昨日に見た夢について、緒方に話した。
「……という夢を、続けて見まして。いやな感じがするとか、そう言うことではないんですが、あんな事もありましたし、気になってまして」
「なるほど、お話しは分かりました。夢そのものを分析出来るかどうかは分かりませんが、寝ている間でも生体の反応としてのバイタルとオーラ、キルリアン、その他大体の指標は計測出来ますから、何か変化があれば後解析で推測くらいは出来ると思います。今夜、計測しますか?」
「今夜、ですか?」
緒方なら話が早かろうとは思っていたが、柾木は、今夜早速、というのは予想していなかった、が。
「……そうですね、明日は仕事オフですし、分かりました。何か僕の方で用意するものはありますか?」
「う~ん……」
少し考え込んでから、緒方は、
「泊まりになりますから、身の回りのものを持ってきていただければ」
「分かりました。じゃあ、仕事終わったら一度家に帰って、必要なものとってから伺います、出がけにまた連絡します」
「じゃあ、計測器の用意しておきますね」
挨拶をして、柾木は電話を切る。
何をどう測るのかは分からないが、緒方の錬金術は現代科学と医学の少し先を行っているから、その意味ではそこいら辺の医者やカウンセラーよりマシだろう。柾木はそう判断し、とりあえずの安心を得る。
緒方いおりは、受話器を黒電話本体に戻し、さて、何を用意するかと考えながら実験室に戻る。とりあえず普通の脳波トポグラフィとfNIRS、心電は録るとして、キルリアン・トモグラフィも併用するか。オーラ・パワースペクトルも……中継器のコネクタ足りるかな?
そんな事を考えながら実験室に入った緒方いおりは、作業台の上に仰向けになった、右手を天井に向けたままの整備中のエータの姿を見て、声をあげる。
「……あ!」
緒方いおりの頭の中で、何かの仮説が、瞬時に組み上がった。
昼休み時間。北条柾木は、早めに昼食を切り上げ、会社の整備工場裏手でスマホ片手に電話をしていた。
「はい、はい、いえあの……はい、はい、承知しました。ところであの、緒方さんはいらっしゃいますでしょうか?」
井ノ頭家の二人、井ノ頭菊子と緒方いおりは、双方ともスマホその他の携帯端末を持っていない。理由は明快で「使わないから」だと言う。
「はい、ところで、すみませんが、緒方さんに、電話を替わっていただけるよう、お願出来ますでしょうか……」
なので、柾木がかけた相手は井ノ頭家の黒電話、電話に出たのは井ノ頭菊子その人であった。
微妙にスローペースかつ絶妙にマイペースの菊子の応対の切れ目をピンポイントで突いて、柾木は緒方いおりに電話を替わって貰えるよう頼む。ぱたぱたと、菊子が廊下から地下に降りるスリッパの音が遠ざかるのを通話口越しに聞きながら、井ノ頭家の不思議なテクノロジーのギャップ、実験施設やセキュリティ面では現代科学のその先を行くハイテクノロジーと、家電を筆頭に実用品はむしろ時代遅れのローテクノロジーの落差を思い、少し可笑しく思う。
菊子さんだけじゃなく、緒方さんもそこそこ長生きみたいだし、そういうところ、こだわらなくなるのかな……
「あ、緒方さんですか、どうも、北条です」
待つことしばし、電話を替わった緒方いおりに、北条柾木は語りかける。
「こんにちは。北条さん、何か御用ですか?」
「いえ、ちょっと、用と言いますか、相談がありましてですね」
「相談?どのような?」
「えっと、緒方さん、夢を分析したり判定したり、そんなような事って出来たりします?」
「夢、ですか?あの、寝てる時に見る?」
「そうです、その夢」
「さて、そのものズバリの装置は持ってませんが、とりあえずデータ押さえればオフラインで分析出来る、かな?どうだろう?」
「出来るんです?」
「何を録れば何が分かるのか、確約は出来ませんが。どこまで出来るか、やってみないとなんとも」
「それでも良いです、実は……」
柾木は、自分が昨日と一昨日に見た夢について、緒方に話した。
「……という夢を、続けて見まして。いやな感じがするとか、そう言うことではないんですが、あんな事もありましたし、気になってまして」
「なるほど、お話しは分かりました。夢そのものを分析出来るかどうかは分かりませんが、寝ている間でも生体の反応としてのバイタルとオーラ、キルリアン、その他大体の指標は計測出来ますから、何か変化があれば後解析で推測くらいは出来ると思います。今夜、計測しますか?」
「今夜、ですか?」
緒方なら話が早かろうとは思っていたが、柾木は、今夜早速、というのは予想していなかった、が。
「……そうですね、明日は仕事オフですし、分かりました。何か僕の方で用意するものはありますか?」
「う~ん……」
少し考え込んでから、緒方は、
「泊まりになりますから、身の回りのものを持ってきていただければ」
「分かりました。じゃあ、仕事終わったら一度家に帰って、必要なものとってから伺います、出がけにまた連絡します」
「じゃあ、計測器の用意しておきますね」
挨拶をして、柾木は電話を切る。
何をどう測るのかは分からないが、緒方の錬金術は現代科学と医学の少し先を行っているから、その意味ではそこいら辺の医者やカウンセラーよりマシだろう。柾木はそう判断し、とりあえずの安心を得る。
緒方いおりは、受話器を黒電話本体に戻し、さて、何を用意するかと考えながら実験室に戻る。とりあえず普通の脳波トポグラフィとfNIRS、心電は録るとして、キルリアン・トモグラフィも併用するか。オーラ・パワースペクトルも……中継器のコネクタ足りるかな?
そんな事を考えながら実験室に入った緒方いおりは、作業台の上に仰向けになった、右手を天井に向けたままの整備中のエータの姿を見て、声をあげる。
「……あ!」
緒方いおりの頭の中で、何かの仮説が、瞬時に組み上がった。
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