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第二章:大忙しの週始め

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「ったく、どうしてこう、東京の地下鉄ってのは……」
 まだまだ都心の移動に慣れない酒井が軽く悪態をつく。
 合同庁舎の最寄りの東京メトロ丸ノ内線霞ヶ関駅から一駅、国会議事堂前駅で電車を降り、そのまま千代田線国会議事堂前駅ホームを経由して、連絡通路経由で徒歩で溜池山王駅まで移動し、12番出口から地上に出る。
「まあ、平日の都心の移動なら、地下鉄が一番ですから、はい」
 当たり前のような顔で、先を歩く蒲田が答える。水平移動ならともかく、上がったり降りたり、あっちこっち曲がったり。酒井の方向感覚は、途中から全く当てにならなくなっている。
「慣れると便利です。慣れて下さい、はい」

「赤坂署の報告書によると、その四人は、ここに停めたワンボックスから降りてきたそうですね、はい」
 外堀通りを挟んで山王パークタワーの反対側の赤坂二丁目、そのさらに一本奥に入った所にある高級料亭の入り口前で、資料を見ながら蒲田が言う。
「という事は、賊は最低、四人プラス運転手、って事か」
「賊って……まあ、はい。秒で車降りて、車は走り去ったそうです」
「ナンバープレート照合しようにもガムテープ貼ってて確認不能、か……レンタカーかな?」
「その線で赤坂署が洗ってるそうですから、まあ、そのうち目星が付くとは思います、はい……あ、女将さん、どうも、警察です」
 酒井と蒲田が話しながら入口の門に近づくと、待っていたように和服を着た女将らしき中年女性が出迎える。
「お手数おかけします。警察庁の酒井です。確認のため、もう一度お話しを聞かせていただいてよろしいでしょうか?」
 既に警視庁の現場検証は終了し、今日の午後から料亭は通常営業に戻るためその準備に追われている。その上で「普通とは違う目線で」状況を確認するため、酒井と蒲田は予備知識を可能な限り排除し、最初から昨夜の状況を教えて欲しいと依頼する。邪魔にならないように気をつける、と付け足して。
 勿論結構です、どうぞこちらへ。女将にそう促され、酒井と蒲田は入口の門をくぐる。

「ここに二人、倒れていた、と」
「はい、大いびきで、よく眠っていらっしゃって」
 その場を確認していた従業員の女性から話を聞く。玄関で客あしらいを担当するその従業員は、門番の構成員が倒された瞬間自体は見ていない。
「お巡りさんがパトカーに運び込むまで、ずっと起きなかったですね」
「その二人は、結局、留置場できっちり八時間寝てたそうです、はい。身体的外傷はなし、供述は共通していて、なんか小さいのに触られた、しか覚えてない、だそうです、はい」
 蒲田が捜査資料を見ながら言う。
「仲居さんは、その賊の姿は見ましたか?」
 蒲田が、女性従業員に聞く。その従業員は、首を傾げつつ、
「ちらっとだけ……黒ずくめで、四人組だった、としか覚えてないです、すみません」

 その後、賊の足取りを確認しつつ、その場を目撃した従業員から話を聞くが、その誰もが、賊に関する具体的な外見情報を覚えていない。共通する印象は、黒ずくめにサングラス。女性だと言う従業員も居たが、男女の区別すら分からないものが大半だった。
 それでも、従業員の記憶を総合すると、素手のような、あるいは何か短い棒状のものを持って先頭を行き、出会い頭に構成員をなぎ倒す髪の長い女、その後ろを悠然と歩いてついてく、どうやら扇子を持っていたらしい髪の短い女、さらにその後ろ、追っ手を木刀で切り払う女、そしてもう一人、遅れてついて行く、今ひとつ性別のはっきりしない、子供にも見える小柄な一人。そんな四人組の姿が見えてくる。
 そして、その薄ぼんやりした印象の中で、ただ、髪の色が黒ではなかった、茶色だった、その印象だけがまた、従業員の間で共通していた。
 少なくとも二人程、容姿と行動が符合する人物に思い当たり、酒井はこめかみのあたりにじんわりとした痛みを感じる。事情に詳しいって、これか……
「……酒井さん、これって……」
「……やっぱり、そうだよなあ……」
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