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第一章:それなりに多忙な日曜日

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 オートスライドを切ったノアの後席スライドドアが手動で一気に開き、栗色のつむじ風が黒衣を纏って流れ出した。
 黒の革靴、黒のスーツ、黒のネクタイ、黒の革手袋、ご丁寧にワイシャツまで黒。復刻版のガーゴイルを揃ってかけた、外連味たっぷりの外見の四人は、体格と髪型こそ違うが、艶やかな栗色の髪の色は、これまた揃えたかのように同じだった。

 明らかにただならぬ雰囲気を感じ、門扉に隠れていた二人の男が歩道に飛び出してくる。何か、恫喝的な言葉を口にし、黒服達を制止しようとした向かって右側の男に、真っ先に車から飛び出した小柄なおかっぱ頭の黒服が軽く掌を当てる。
 ただ掌で触れられただけの男が、その場に崩れ落ちるのを見た向かって左手の男は、てめぇ、とか何とか言おうとしながら、右手を趣味の悪いスーツの左胸に突っ込む。その右手の肘のあたりに、小柄な黒服の左掌が触れる。
 右手をスーツに入れた勢いと、崩れた重心のせいで、半身を回すようにしながらその男も崩れ落ちる。小柄な黒服が車から飛び出してから、わずかに3秒。その間に、他の三人の黒服も車を降り、最後の一人、栗色の髪をワンレングスにした女が運転席の誰かに頷き、スライドドアを勢いよく閉める。
 ハイエース・ノアが発進するのを一瞬だけ目で追った、身長こそ女性として標準だが胸も腰もスーツが窮屈そうなワンレングスの女は、ショートボブの女、少し離れた路肩に駐車する目立たない乗用車に、ガーゴイルのサングラス越しに目を留め、何事か呟いて歩き出したそこそこ大柄な女と、そのつぶやきに頷き、小走りに露払いに飛び出した、スーパーロングを無造作に後ろでおさげに纏めた長身の女に続いて、小柄でスキニーな体型のおかっぱ頭の女が抑える料亭の門扉をくぐった。
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