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3章 虚構の偶像

よからぬ訪問者

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 朽ちたマークディランはそのままに、ジャルールとヱラウルフは教会付近で停止させ、入口付近にて、一部の奴隷を含む全員がレジャーとハーレーを取り囲むように集まっている。
 ユリウスが「縛っておくか?」とクリスに聞いたが、これを彼女は必要ないと言う。
 廃人手前の形相で静かに、ただ虚ろに砂面を見つめている彼には、抵抗などする必要も体力も残っていない事は、誰の目から見ても明らかであった。

「クリス、説明を求めても?」
「わかったわ」

 ユリウスの問いかけに、クリスは自分たちが見てきた事。
 更に、ハーレーとレジャーがここに来た経緯を要点をまとめて語った。
 
 全員、それを聞き終えた後は一様に何とも言えない表情をしている。

「お父さんとお母さんなの?です」
「ええ。ごめんなさい、フェルミナ……」

 答えると同時に、ハーレーは三度泣き崩れる。
 ユリウスの近くにいたフェルミナは、敵と思っていた人間が実は両親だったと言う事実を受け止めきる事が出来ずにいた。
 だがハーレーとレジャーの姿を見た彼女は、そっと二人の側へ近付く。
 あえてフェルミナは、取り囲まれる状況を望んだのだ。

 一方のレジャーは、小さく頷くに留まったかのように見えたが、それは誰にも伝わらなかった。

「今後の事もある……今日は休んで、明日また全員で話そう」

 しばしの沈黙の後、ユリウスが提案する。
 が、それを拒否したのは、レジャーであった。

「もう、遅いんだ」
「……聞こう」
「1時間後には定期便が来る。在庫を全て足しても納品数には届かないんだ」
「なるほど」

 絶望の懸念材料を、たった1言でいなしたユリウスに、レジャーは顔をあげユリウスを見つめる。
 ユリウスは、しっかりとレジャーを見つめ直し、今の自身の発言が茶番で無いことを示した。

「サンド、まだ動けるか?」
「おうよ! 1時間もありゃジャルールも回復するだろうし大丈夫だろ」
「そこじゃないのよ、サンド」
「え? どういうこと?」

 戦闘により解決する。今この場で抱えている問題はそれだけではないと、クリスはサンドに教える。
 クリスもまた、レジャー同様に何故ユリウスがそれほどの自身があるのか分からずにいた。

「爆弾よ」
「あ、そうか。物がなけりゃそう言う話になるよな」

 そう、奴隷達には爆弾が仕掛けられているのだ。
 恐らくいつも通りであれば、サンド達には『今日』爆弾を植え付けられるのであろう。
 クリスは、その爆弾とやらを全員分解除するには、自身の才能を持ってしても到底時間が足りないのは予測がついていた。

「その事なんだが……ネルソンは『禁忌』と言った。間違いはないな?」

 ユリウスの問いかけに、深く首肯するレジャー。

「ユリウス、あんた何か知ってるの?」
「ああ、チャムのニュースで見たんだけど、ネルソンは死んだんだ。アールで……ね」
「それ、何か関係があるのか?」

 サンドや奴隷達のには、ユリウスが何故その情報で深く自信を持っているのか理解出来なかったが、クリスだけは目を大きく見開き、あらゆる可能性を模索している。

「もし……ネルソンが死んだら、真っ先にここは口封じの為に全員殺されていたはずだ」
「あー、なるほどね」
「何か、スイッチがあるはずね」

 そこで、ユリウスとクリスはもう一度ナンシーとトミーが死んだ状況を、聞き出した。
 必ずそこに答えがある。そう確信していたのだ。
 レジャーは最初、話すのを躊躇っていたが、ポツポツと当時の状況を語りだした。

 レジャーの話が終わると同時に、クリスとユリウスは1つの仮説を打ち立てた。
 子をなす事すら禁忌でないとしたら、きっと凄く単純で1つや2つのスイッチが起爆への禁忌であるはずである。

「「標高か?」」
「割と信憑性はあるわね」
「実験は……出来ないけどね」

 今から来る定期便に何かしらの細工はあるにせよ、それさえ制圧してしまえば、ある程度の時間稼ぎは出来ると踏んでいた。
 これが、ユリウスが出していた結論であった。

「じゃあ、明日……」
「なにか、お空がピカーッ! です」
「!!!」

 再度号令をかけようとしたユリウスの発言を遮る形で、空を見つめていたフェルミナが上空を指差し、何かの接近を告げる。
 一同に緊張が走ると同時に、クリスは奴隷達全員自宅に避難するよう呼びかけた。
 その声を聞いた奴隷達は蜘蛛の子が散るように退散する。
 が、クリスはチャムがここに戻ると言っていたため。
 レジャー達は、体が動かないレジャーを一人にしておけないためその場で待機している。
 
「サンド!」
「分かってる」

 サンドとユリウスは早足で各機体に搭乗し、その原因が近付くのを待っていた。
 その発光体はどんどんと超絶的なスピードで教会へと接する。

「たった一機で? どう言うつもりだ?」

 ジャルールから発光体を見ていたサンドは驚愕する。
 見たこともないクライドンが、たった一機でこちらへ向かってきたからである。
 それはとてつもないプレッシャーを携え、心の底から冷えた群青色のクライドンであった。

「サンド、クリス……逃げろ」
「は? ユリウス何言ってるんだ」

「いいから逃げろ! クリスもだ、戦ってはいけない!」

 サンド達は言葉の意図が理解出来ず、しばし固まってしまう。
 しかし、あの戦闘のプロで天才であるユリウスが真剣な剣幕でいる状況に、先程経験した死の恐怖以上の恐れがサンド達を襲った。

ーーズゥウウウウン

 その群青色クライドンは教会近くに降り立ち、キョロキョロと辺りを見渡す。
 目の前には、明らかにそこに居ては異常な機体が2機いるというのに、お構いなく、まるで起きたら知らない場所に居たぐらいの素振り見せていた。
 
 そして、サンドは直感的に勝てない事を悟っていた。
 あまりに無防備に見えるそのクライドンではあるが、全く隙がないのである。
 
『なんて、圧だ。こいつ何者なんだ?』

 その答えは直ぐにわかる事となる。

「ハァハァ……逃げろ。サンド、クリスッ! 聞こえないのか!」
「お前を置いて逃げる訳ないだろ!」
「そうよ! さっき見たいにバーっとやっちゃってよ」

「ハァ……ハァ……ング」

 ユリウスは、自分が生唾飲み込む音すら知覚できない程のプレッシャーに耐えていた。
 全てをなげうってでも、サンドとクリスを生かす!
 これが、ユリウスが今出来る精一杯の感情であった。

「何故だ……何故そこにいる?! 父さん!」
「ム、何か腑抜けた声が聞こえると思ったら……愚息ではないか。貴様、ここで何をしている?」

 ユリウスの父親。
 アーサー=グラッデンがそこに居た。
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