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3章 虚構の偶像

新しい朝

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ーーーークリス=ジャル

『しくじったわね』

 ジャルールから見た奴隷服の男に辟易する。
 勢いに任せてここまで来ちゃったけど、どうやらあの『あんぶれら』とか言う馬鹿薬の存在がありそうね。

「チャム、ちょっといい?」
「アンブレラデスカネ」

「ブレインブロッカーは何錠ある?」
「残リ1錠デス。ユリウスニ使イ過ギマシタ。ソシテ効クカドウカハ不明デス」

「ああ言う馬鹿の薬は脳さえ無事なら大丈夫よ」
「了解シマシタ」

「それと、もし私がーー」
「……」

 最悪の最悪を考慮したお願いをチャムにしといた。やっぱりちょっと怒ってるわね。ごめんなさい。

 さぁーて、後はその働く場所とやらに行ってみてと言うところかしら。
 ま、最悪チャムがどうにかしてくれるし、大丈夫よ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「え? 100人?」

 レオーネと言う男からとんでもない情報を聞き出した。
 フェルミナの話を聞いた感じではせいぜい20人くらい居れば良い方と思ってたけれど、そんなに居るとは想定外ね。

「なんとか、ピラミッドに入らないと」

 教会内部には大勢の中毒患者が居た。
 私のユグドラシルをこんなのに使う奴がいるなんてね。
 レジャーとか言う糞ピエロは絶対に許さないモード確定ね。

 そんなことより、この教会の雰囲気は異常だわ。
 さっきサンドが教会なのに巫女がどうとかアホな事を言ってたけど、実際にヤバイのはそうじゃない。

 この教会…微かに腐敗臭がするのよ。
 職業柄、医療の現場にも携わった事もあるけれど、あの独特なあの『甘ったるい』匂いがする。

 何処かしら? 此処は危険だけど、今暴れたら確実に殺される。そんな気配がプンプンするわ。

 洗礼とか言う儀式が近付けば近付くに連れてその匂いは濃くなってくる。

 どこ? ドコ? 何処?

 ーーーーーーッ!!!
 段々と巫女に近づいた瞬間に、私のヤバセンサーがけたたましい警報音を上げた

『ここだわ! ヤバイ逃げたい!』

 自分の番になり、祭壇へ上がった瞬間に私は悲鳴を上げるのを必死に抑える。

 祭壇にある棺……あそこから強烈な匂いを発してる!
 あの棺に何かある? いや、居るの?

 そして何より、この巫女とか言う女は感染していない!?
 何かされるならここ以外無いわ!

「アンタさぁ、さっきから何言ってるの?意味わかんないんだけど」
「ちょっとクリス、やめとけよ」

「え? なんで?」

 よし、サンド良くやったわ! 後ろを振り向く事が出来た!
 これで死角が出来たわ!
 私は咄嗟に『ブレインブロッカー』を口に仕込む。

「こちらは洗礼のパンです。儀式的なものですがどうぞお食べ下さい」

「なるほどね」

 これがトリガーだわ。間違いない。
 ねじ込まれるように、口に小さなパンを入れられる。

 チラッっとサンドを見る。仲間を人身御供にするみたいで非常に気分が悪い…
 サンド、ごめんなさい。

 段々とサンドの目が変わっていく。まぁ、ここまでお膳立てされればそりゃあそうよね。

 私は口の中で、ブレインブロッカーを噛み砕く。後は、このパンをーーー

『怖い怖い怖い怖い怖い! 助けてチャムッ!』

ーーガリ……ガリ……

「あなた達はレジャーの元で働いて貰います。逆らってはいけません。良いですね?」
「「はい」」

「疲れたら私の言葉を聞けばとてもスッキリします。良いですね?」
「「はい」」

 私は

 私は何とかサンドに合わせることが出来た!
 フン! 私は天才よ! こんな馬鹿薬に負けるような事があってたまるもんですか!

 ああ、ただ今は一刻も早くチャムに会いたいわ…

ーーーーその夜

『流石に、寝たら駄目そうね』

 巫女から奴隷服を手渡された。きっと余計な物を持ち込めないようにするのが目的なのかな?

 教会に付属している仮眠室を充てがわれ、今日はここに泊まるよう命じられる。

 サンドは巫女から何かを言われる度に恍惚の表情を浮かべ、全ての指示にイエスと返事をする。

 自分のやった事は最低だが、お手本がいるのがここまで心強く感じたことは無かった。

 そして現在、

『思考以外の感覚が非常にだるいわね』

 手の指を1本ずつ折り曲げて、自分の意識と折られた指が会うたびに安堵のため息が出てくる。

 レジャーとか言うピエロもヤバイかもしれない、ただ私は、あの巫女の異常性に耐え難い恐怖を感じていた。

 何より、あの腐敗臭のする棺。

 そして、支配と異常性の恐怖に怯えた私は、一睡もする事は出来ずに朝を迎えた。

ーーーー翌朝

「おはようクリス。今日からレジャー様と巫女様の為にがんばろうな」
「ええ、そうね」

 やっと、朝が来たわね。
 さぁ、正念場ね。ここが踏ん張りどころよ!

 奴隷服に着換え、サンドと共に外へ出る。非常に強い日光を浴びながら、続々とゾンビウォークのようにピラミッドへ向けた行列が作られている。
 私は彼らと同化するように、歩幅、歩調を合わせる。

 ピラミッドの入り口は開いており、その扉付近では禍々しい顔をしたピエロが働きに来た者たちを迎え入れる。

「さぁ! さっさと中に入るのよ! ボサっとしないのよ!」

『こっちの悪魔とも対峙していかなきゃならないなんてね』

 初対面のピエロに悪意を隠しつつ、工場内部へと足を運んだ。

「まずは朝礼がある。工場前の広場で整列するんだ」

 レオーネが昨日に引き続き絡んできた。教育係的なのかしら?
 整列が終わると、レジャーが先頭に立ち、全員の顔を見渡す。

「はい、惑星体操第一ッ! 始めるのよ!」
「は?」

『わーくせーいーのーあーさが来たー♪』

 どういうこと?
 突然始まったラジオ体操に、私の頭は混乱寸前に追い込まれた。
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