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6章 二人の戦闘と取逃
アースの書~戦闘・3~
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施設内の通路を走る俺とエイラ。
人型サソリは……今の所は追って来ている気配はないな。
それにしても、俺の記憶が確かだとすればこの通路を通った記憶がない。
だとするとこれはまずいぞ、明らかに出口から離れている事になる。
窓から外に出ようとしても、どれも瓦礫に塞がれていて出ることは出来ない。
やはり、意図的に窓を塞いでいる感じがするな。
これをやったのが、あの人型サソリだとすれば何か意図が……。
「アース! どうするの!?」
ラティアを背負い走るエイラが俺に聞いてくる。
どうすると言われてもな。
『どこか、剣を振れるような広い場所があれば……あっ』
あるじゃないか。
どこでもいいから、この施設にある部屋の中に入ってしまえばいいだけの事。
逃げる事で頭がいっぱいだったとはいえ、どうしてそんな簡単な事を思いつかなかったのか……。
『エイラ、あそこの部屋に入るぞ!』
俺は目の前にあった扉に指をさす。
「あっうん! わかった!」
俺は素早く部屋の前に立ち扉を開けた。
そしてエイラが部屋の中に飛び込み、俺もその後に続いて扉を閉めた。
「ふぅ~これでひとまずは安心かな」
『だといいがな』
この施設はあいつの住処になっている。
なら、俺達が見つかるのも時間の問題かもしれん。
警戒をしておくに越したことはない。
『ラティアの容体はどうだ?』
「ん~……駄目だね。まだ目を回しているよ」
『そうか。そういえば、エイラは回復系魔法は使えないのか?』
使えたらラティアを治療してほしいとこなんだが……。
「あ~回復魔法は使えない。あ~しも全ての魔法が使えるわけぢゃないよ」
だよな。
使えたらとっくに使用しているわな。
んーこのままエイラにラティアを背負われたままなのもあれだし、寝かせた方がいいよな。
けど、この部屋にはベッドなんてない。あるのは物がのった机のみだ。
かといって、床に寝かすわけにもいかないし……仕方ない。
『そこの机の上にある物をどかして、その上にラティアを寝かせよう』
今出来るとすればそれしかない。
机の上にもホコリが積もってはいるが、床よりはマシだ……。
「了解~――あっ! アース!!」
突然、エイラが俺の方を見て驚きの声を出した。
『何だ!? 人型サソリが出たか!』
俺は剣を鞘から抜き構えた。
そして、後ろを振りかえる。
『……?』
しかし、背後には人型サソリの姿は無かった。
扉が破られた感じもない。
『いないじゃないか』
「違う違う、あ~しが驚いたのはアースの頭だよ。頭の部分が凹んぢゃっているよ」
なんだ、そんな事か。
まったく……驚かすんじゃないよ。
俺はやれやれと肩をすくめ剣を鞘に戻した。
『エイラ、そんな事くらいで大声を……って、何だと!?』
頭が凹んでいるだって!?
俺は、恐る恐るアーメットに手を伸ばして擦ってみる。
『……嘘……だろ……』
エイラの言う通り、俺の頭の一部が凹んでいた。
しかも、その場所はレインに殴られて修理したところだ。
恐らく、さっき人型サソリに襲われた時の一撃で凹んでしまったのだろう。
『……ショックだが、俺が受けて良かったと思うべきか』
金属のアーメットが凹むほどの威力があったんだ。
それがラティアの頭に当たっていたかもと思うと……想像するだけで恐ろしい。
タンコブ程度では済まされないぞ。
「よっほっはっ」
俺が落ち込んでいるのを気にせず、エイラが机の上にあった書類等を雑に払い落としている。
おいおい、いくら放置された物とはいえ、そんなに雑に扱うと研究者たちに失礼だろう。
『まったく、仕方が無い奴だな』
俺は落ちた書類を拾い、ついでに中身も読んでみた。
しかし、専門用語が書かれていて良くわかない。
ここは一体何の研究をしていたのだろうか。
そう思いつつ書類を集めていると、見覚えのある名前が目に入った。
『……ベリオーブ・セイジの人工妖精論について?』
ベリオーブ・セイジって、あの錬金術師ベリオーブの事か?
俺も昔話でしか聞いた事がないが、遥か昔に存在した人物。
当時、まだ謎の鉱石だった魔石と魔晶石を独自に研究していたらしい。
そして加工技術に成功し、その手法は一般人にまで普及した。
ベリオーブが居なければ、今の俺達の生活は無かっただろう。
「ベリオーブ・セイジ? また懐かしい名前が出て来たわね」
机の上にラティアを寝かせたエイラが、後ろから覗き込んで来た。
『エイラもベリオーブの話は知っていたのか』
まぁ当然と言えば当然か。
歴史の中でもかなりの有名人だしな。
「知っているも何も、ベリオーブの家で居候させてもらった事があるし」
『……はい!?』
嘘だろ! ベリオーブはかなり昔に……あ、そうか。
長生きをしているエイラなら、ベリオーブと出会っていてもおかしくはないのか。
つか、居候って……。
「いや~懐かしいな~……あっそうそう、ベリオーブと言えば――」
――バーン!!
エイラがベリオーブの事を話そうとした瞬間、破壊音と共に扉が勢いよく砕け散った。
俺は即座に書類を投げ捨て、剣を鞘から抜き構えた。
あの人型サソリめ、随分と荒っぽい事をするな。
「やっと見つけたわよ!!」
『へっ?』
女の声が部屋中に響く。
さっきはシャーとかとか言っていたのに、まともにしゃべれたのか?
それにしても、この声……妙に聞き覚えのある様な……。
「もう逃がさないわよ! デュラハン!!」
そう言いながら、扉を破壊したと思われるメイスを握った女性が部屋の中に入って来た。
紅色の髪で、右目の泣きぼくろのある女性……それは――。
『……レイン!?』
俺達の目の前に現れたのは人型サソリではなく、レイン・ニコラスだった。
人型サソリは……今の所は追って来ている気配はないな。
それにしても、俺の記憶が確かだとすればこの通路を通った記憶がない。
だとするとこれはまずいぞ、明らかに出口から離れている事になる。
窓から外に出ようとしても、どれも瓦礫に塞がれていて出ることは出来ない。
やはり、意図的に窓を塞いでいる感じがするな。
これをやったのが、あの人型サソリだとすれば何か意図が……。
「アース! どうするの!?」
ラティアを背負い走るエイラが俺に聞いてくる。
どうすると言われてもな。
『どこか、剣を振れるような広い場所があれば……あっ』
あるじゃないか。
どこでもいいから、この施設にある部屋の中に入ってしまえばいいだけの事。
逃げる事で頭がいっぱいだったとはいえ、どうしてそんな簡単な事を思いつかなかったのか……。
『エイラ、あそこの部屋に入るぞ!』
俺は目の前にあった扉に指をさす。
「あっうん! わかった!」
俺は素早く部屋の前に立ち扉を開けた。
そしてエイラが部屋の中に飛び込み、俺もその後に続いて扉を閉めた。
「ふぅ~これでひとまずは安心かな」
『だといいがな』
この施設はあいつの住処になっている。
なら、俺達が見つかるのも時間の問題かもしれん。
警戒をしておくに越したことはない。
『ラティアの容体はどうだ?』
「ん~……駄目だね。まだ目を回しているよ」
『そうか。そういえば、エイラは回復系魔法は使えないのか?』
使えたらラティアを治療してほしいとこなんだが……。
「あ~回復魔法は使えない。あ~しも全ての魔法が使えるわけぢゃないよ」
だよな。
使えたらとっくに使用しているわな。
んーこのままエイラにラティアを背負われたままなのもあれだし、寝かせた方がいいよな。
けど、この部屋にはベッドなんてない。あるのは物がのった机のみだ。
かといって、床に寝かすわけにもいかないし……仕方ない。
『そこの机の上にある物をどかして、その上にラティアを寝かせよう』
今出来るとすればそれしかない。
机の上にもホコリが積もってはいるが、床よりはマシだ……。
「了解~――あっ! アース!!」
突然、エイラが俺の方を見て驚きの声を出した。
『何だ!? 人型サソリが出たか!』
俺は剣を鞘から抜き構えた。
そして、後ろを振りかえる。
『……?』
しかし、背後には人型サソリの姿は無かった。
扉が破られた感じもない。
『いないじゃないか』
「違う違う、あ~しが驚いたのはアースの頭だよ。頭の部分が凹んぢゃっているよ」
なんだ、そんな事か。
まったく……驚かすんじゃないよ。
俺はやれやれと肩をすくめ剣を鞘に戻した。
『エイラ、そんな事くらいで大声を……って、何だと!?』
頭が凹んでいるだって!?
俺は、恐る恐るアーメットに手を伸ばして擦ってみる。
『……嘘……だろ……』
エイラの言う通り、俺の頭の一部が凹んでいた。
しかも、その場所はレインに殴られて修理したところだ。
恐らく、さっき人型サソリに襲われた時の一撃で凹んでしまったのだろう。
『……ショックだが、俺が受けて良かったと思うべきか』
金属のアーメットが凹むほどの威力があったんだ。
それがラティアの頭に当たっていたかもと思うと……想像するだけで恐ろしい。
タンコブ程度では済まされないぞ。
「よっほっはっ」
俺が落ち込んでいるのを気にせず、エイラが机の上にあった書類等を雑に払い落としている。
おいおい、いくら放置された物とはいえ、そんなに雑に扱うと研究者たちに失礼だろう。
『まったく、仕方が無い奴だな』
俺は落ちた書類を拾い、ついでに中身も読んでみた。
しかし、専門用語が書かれていて良くわかない。
ここは一体何の研究をしていたのだろうか。
そう思いつつ書類を集めていると、見覚えのある名前が目に入った。
『……ベリオーブ・セイジの人工妖精論について?』
ベリオーブ・セイジって、あの錬金術師ベリオーブの事か?
俺も昔話でしか聞いた事がないが、遥か昔に存在した人物。
当時、まだ謎の鉱石だった魔石と魔晶石を独自に研究していたらしい。
そして加工技術に成功し、その手法は一般人にまで普及した。
ベリオーブが居なければ、今の俺達の生活は無かっただろう。
「ベリオーブ・セイジ? また懐かしい名前が出て来たわね」
机の上にラティアを寝かせたエイラが、後ろから覗き込んで来た。
『エイラもベリオーブの話は知っていたのか』
まぁ当然と言えば当然か。
歴史の中でもかなりの有名人だしな。
「知っているも何も、ベリオーブの家で居候させてもらった事があるし」
『……はい!?』
嘘だろ! ベリオーブはかなり昔に……あ、そうか。
長生きをしているエイラなら、ベリオーブと出会っていてもおかしくはないのか。
つか、居候って……。
「いや~懐かしいな~……あっそうそう、ベリオーブと言えば――」
――バーン!!
エイラがベリオーブの事を話そうとした瞬間、破壊音と共に扉が勢いよく砕け散った。
俺は即座に書類を投げ捨て、剣を鞘から抜き構えた。
あの人型サソリめ、随分と荒っぽい事をするな。
「やっと見つけたわよ!!」
『へっ?』
女の声が部屋中に響く。
さっきはシャーとかとか言っていたのに、まともにしゃべれたのか?
それにしても、この声……妙に聞き覚えのある様な……。
「もう逃がさないわよ! デュラハン!!」
そう言いながら、扉を破壊したと思われるメイスを握った女性が部屋の中に入って来た。
紅色の髪で、右目の泣きぼくろのある女性……それは――。
『……レイン!?』
俺達の目の前に現れたのは人型サソリではなく、レイン・ニコラスだった。
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