【完結】僕は今、異世界の無人島で生活しています。

コル

文字の大きさ
上 下
62 / 66
終章 僕は今

5、鱗の主

しおりを挟む
 今からベッドを作る時間は無し、シェルターなんてもっと無理だ。
 今日の所は簡易的な屋根とベッドを作って夜を過ごすか無いか。

「ア、アリサ……さん、火をおこすのを頼んでもいいかな?」

「いい、けど。なにか、するの?」

「シェ、シェルターの中にはクラムが寝ているだろ? 起こすとうるさいだけだから、とりあえず今夜は簡単な屋根を作ってそこで寝ようかと思って」

「そっか。もうすぐ暗くなるから、今からだと新しいシェルター、作る時間はないものね」

「そ、そういう事。じゃあ、よろしく」

「うん、まかせて」

 火おこしをアリサに任せ、僕は作業に取り掛かった。
 作業と言っても、これまでやってきた事に比べたらすぐに終わるけどな。

 まずは葉が密集した木の枝を探す。
 見つけたらある程度曲げてみて、幹や途中で折れずにしなりが良いか確認する。
 大丈夫そうなら枝の先に蔓を固く結ぶ。
 そして、蔓を引っ張って枝を曲げてからもう片方の蔓の先に重い石を結ぶ。
 こうすれば枝が曲がった状態で固定される。
 それを繰り返して密集させれば葉っぱの屋根の完成だ。
 流石に強い雨風だと防ぎきれないけど、無いよりは全然まし。
 で、後はその下に大量の葉っぱを敷き詰める。
 これがベッド代わりだ。

「ふー……こんなもんかな」

 即席にしてはいい感じに出来たかな。
 まったく、本来なら必要ない労働をさせやがって。

「出来たの?」

 火おこしを済ませたアリサが様子を見に来た。

「う、うん。とりあえずは……」

「なるほど、木の枝を曲げて、屋根にしたのか……じゃあ、うちはこの上で、寝ようかな」

「え? あ、あいつが寝ているのは僕のベッドだから、アリサ……さんは別に野宿をする必要は……」

「いや、普通にあの男の隣で、寝たくないし」

「……そ、そうだよね」

 それはごもっとも。
 僕もあいつの隣で寝るのは断固拒否するわ。

「それじゃあ、夕ご飯を食べよっか。今日は食料、採っている暇がなかったから、干物を焼いておいたわ」

 火おこしだけじゃなくて、夕ご飯も作ってくれていたのか。
 それはありがたい。
 にしても、クラムは干し肉を食って僕達は小魚の干物か。
 なんか悲しくなってきた。



 やっぱり、ベッドは作らないと駄目だな。
 朝日が昇り辺りが明るくなった頃に、僕は上半身をおこして心底そう思った。

「ふああ……久々だな……まともに寝れなかったのは……」

 葉っぱの量が足りなかったのもあるだろうけど、思った以上に地面の上は堅かった。
 堅くてもまだ木の上の方がマシと感じてしまった。

「んーーーーー! ……ア、アリサ……さん、朝だよ」

 僕は凝った体をぐーっと伸ばして、火おこしの準備をしつつ木の上で寝ているアリサに声をかけた。
 イビキをかいているクラム……は起こさなくても良いよな。
 そう思いシェルターの中には入らず、外のかまどの火を入れる作業にとりかかった。



「あー……よく寝た」

 朝ご飯の干物を焼いていると、頭をかきながらクラムがシェルターの中から出てきた。

「…………おい、肉はどうした?」

 起きた早々の一言目が肉ってか?
 こいつ、どれだけ肉が好きなんだ。
 あーも―仕方がないな。

「肉が食べたいのなら、干し肉を……」

「ちげぇよ! 俺様は猪鹿蝶が獲れたのかを聞いてるんだ!」

 そういう事か。
 だったら肉とか言わずに猪鹿蝶って言ってくれ。

「探したけど、見つからなかった」

「……それは本当か? 俺様の見えない所で、サボっていただけなんじゃないのか?」

「なっ!?」

 なんたる言い草!
 自分は貴重な干し肉食べて、酒を飲んで、寝ていただけのくせに!

「ちゃんと、探したわよ!」

 流石のアリサも、今の言葉は頭に来たらしく大声をあげた。

「やっぱり、この島には――」

「俺様に口答えをするなと言っているだろう! ファイヤーボール!」

 クラムの右手の手のひらから火の玉が放たれた。

「――っ!」

「え? うおっ!」

 アリサはサッと身を低くして飛んで来た火の玉を避けた。
 そして、火の玉はかまどに当たりボンッ! と弾け飛んだ。

「あっつ!! あっつ!!」」

 火の玉に直接当たらなかったけど、弾け飛んだ火花が僕を襲った。

「あっ! ごめん! 大丈夫?」

 アリサは慌てて体を起こしてから僕に駆け寄り、羽でパタパタと体を叩いてくれた。

「だ、大丈夫……」

 髪から少し焦げた匂いがするけど、火傷はしていなさそうだ。
 あーこわ、無人島で火傷をしたら大変だったぞ。

「チッ……いいか? 今日こそ猪鹿蝶を獲ってくるんだぞ!」

 クラムは酒を手にしてシェルターの中へと入って行った。
 しばらくすると、イビキが聞こえてきた。
 マジかよ……また寝たのか。

「はあ~……いい加減に、してほしいわ」

「ど、同感……」

 これじゃあ雨期の前にクラムのせいで命を落としちゃうよ。
 そんなの冗談じゃない。
 こうなったら、一か八かイカダを作って無人島から脱出する方がまだいい。
 うまくいくかわからないけど、その方がまだ助かる可能性はある。
 よし、さっそくアリサと話し合おう。

「ア、アリサ……さん、話があるんだけど……」

「……」

 嵐の時みたいにアリサが固まっている。

「ど、どうしたの? また嵐でも?」

「……音、聞こえる」

「お、音?」

 耳を澄ませると、クラムのイビキの他に低いブオンブオンと羽ばたいているような音が微かに聞こえる。
 オオヴァラスかな? いや、また違う感じだな。

「もしかして!」

 慌てた様子でアリサが木に登った。
 僕も嫌な予感がして、曲げた木の枝を足場にして木によじ登った。
 辺りを見わたすと、空中で上下に動く赤いモノが見えた。

「…………まさか……そんな……」

 アリサの顔が青ざめいている。

「な、なに? なんなの、あれ?」

「レッド……ドラゴン……」

「……えっ? レッドドラゴンって、あの山の拓けた場所を作った……マジで!?」

 もう一度レッドドラゴンの方を見ると、その姿がはっきりと見えた。
 大型の爬虫類の様な骨格に、全身が僕が愛用している鱗と全く同じ赤色。
 羽ばたく音が聞こえるほどのコウモリのような大きな翼に長い尻尾。
 まさにファンタジーに出てくるドラゴンが、僕達のいる無人島へと近づいて来ているのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

半神の守護者

ぴっさま
ファンタジー
ロッドは何の力も無い少年だったが、異世界の創造神の血縁者だった。 超能力を手に入れたロッドは前世のペット、忠実な従者をお供に世界の守護者として邪神に立ち向かう。 〜概要〜 臨時パーティーにオークの群れの中に取り残されたロッドは、不思議な生き物に助けられこの世界の神と出会う。 実は神の遠い血縁者でこの世界の守護を頼まれたロッドは承諾し、通常では得られない超能力を得る。 そして魂の絆で結ばれたユニークモンスターのペット、従者のホムンクルスの少女を供にした旅が始まる。 ■注記 本作品のメインはファンタジー世界においての超能力の行使になります。 他サイトにも投稿中

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

異世界チートはお手の物

スライド
ファンタジー
 16歳の少年秋月悠斗は、ある日突然トラックにひかれてその人生を終えてしまう。しかし、エレナと名乗る女神にチート能力を与えられ、異世界『レイアード』へと転移するのだった。※この作品は「小説家になろう」でも投稿しています。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

伯爵令息は後味の悪いハッピーエンドを回避したい

えながゆうき
ファンタジー
 停戦中の隣国の暗殺者に殺されそうになったフェルナンド・ガジェゴス伯爵令息は、目を覚ますと同時に、前世の記憶の一部を取り戻した。  どうやらこの世界は前世で妹がやっていた恋愛ゲームの世界であり、自分がその中の攻略対象であることを思い出したフェルナンド。  だがしかし、同時にフェルナンドがヒロインとハッピーエンドを迎えると、クーデターエンドを迎えることも思い出した。  もしクーデターが起これば、停戦中の隣国が再び侵攻してくることは間違いない。そうなれば、祖国は簡単に蹂躙されてしまうだろう。  後味の悪いハッピーエンドを回避するため、フェルナンドの戦いが今始まる!

処理中です...