【完結】僕は今、異世界の無人島で生活しています。

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5章 いざ海へ

2、素潜り初体験

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 持って来た火種に枯れ葉、小さ目の枝を上に置いて息を吹きかける。

「ふー……ふー……ふー……ふー……よし、ついた」

 後は持って来た分の薪を火に少しずつ入れてっと。
 だいぶ焚き火のコツがつかめて来たな。
 現状だと必須スキルだから上達してくると嬉しい物だ。

「さて、アリサ……さんが戻ってくる前に銛を作るかな」
 
 海まで来る途中に落ちていた、この木の枝。
 僕の身長くらい長くて、太さもホースくらいあって硬さも十分。
 多少曲がってはいるけどこれくらいならまぁ許容範囲だろう。
 本当は釣り竿にしたいけど、糸と針が無い。
 針はともかく糸はどうしようもないからな……。
 となれば、この枝を整えてから先端を尖らせて銛にするしかない。



「…………うーん」

 鱗を使って先端を削ったけど……これだと綺麗に尖らないな。
 果たしてこれで魚を捕ることが出来るのかな。
 こういう時にナイフが欲しいと思う。

「ただいま~」

 木材を抱えたアリサが戻って来た。

「お、おかえり」

「この辺り、流木が少なくて、集めるの大変だったよ」

 ここは流木が少ないのか。
 潮の流れ的に、南側での漂流物は期待できないな。

「よいしょっと……あ、槍を作ったんだ」

 槍じゃなくて銛なんだけどな。
 アリサの言葉に改めて作った銛を眺めてみる。
 ……確かに、銛の特徴である先端の部分にかえしがないから槍に見える。
 んーだったら、かえしをつけられたらいいんだけど……ただでさえ尖らすのが大変だったのに、かえしみたいな細工をするのは相当難しいぞ。
 ナイフが欲しいとつくづく思う。

「それで、魚を捕るの?」

「う、うん。そのつもり。アリサ……さんの分も、今から作るよ」

「あ、うちはいいや。この手だと、道具はうまく使えないし。そもそも、素潜りは苦手なんだ」

「あー……なるほど」

 アリサは猛禽類タイプで水鳥じゃないものな。
 人の形をしていても、泳ぎが苦手なのは同じか。
 じゃあ僕が頑張って魚を捕るしかないか。
 素潜りをするのは初めてだから、うまくいくかわからないけど……。



 僕はアリサと距離をとって漁の準備に取り掛かった。
 準備とってもパンツ一丁になるだけだけども。
 流石に異性の前でこんな姿は無理だからな。

「いちにーさんし、いちにーさんし」

 準備運動もしっかりやってっと。

「よしっ!」

 気合を入れて、僕は異世界の海に足を入れた。

「――おわっ!?」

 なっなんだ! 今足に何か触れたぞ。
 即座に足を上げて、海を覗き込んだ。

 ……あれ、足に当たるようなものは何もないぞ。
 けど、確かに何かが触れた感触があるんだけどな。
 僕は恐る恐る右手を海の中へと入れてみた。

「…………んっ?」

 左右に手を振ってみると見えない何かに触れたぞ。
 そこをよく見ると、透明で長細い布みたいなのがひらひらしていた。
 これって……ビニール紐か……?

「――えっ! この世界にはビニールが存在するの!?」

 これは予想外だ。
 やったぞ、ビニール紐を手に入れれば無人島での生活がさらに楽になる。
 僕はさっそく回収しようとビニール紐を握りしめた。

「……あれ? この感触はビニール紐じゃ……ない」

 芯があって、なんかヌルヌルする。
 まるで植物のような……って、まさかこれは海藻か!?
 握りしめた物を引き千切り、海の中から出してみた。

「やっぱりだ」

 透明の海藻なんて初めて見た。
 緑色や茶色の海藻は基本的に食べられるらしいけど……これはどうなんだろう。
 一応、アリサに見える為に収穫しておくか。
 そういえば、生の海苔や海藻を消化できるのは日本人だけだっけ。
 こっちの世界……ましてやハーピーはどうなんだろう。

 っと、海藻ばかりに気を取られている場合じゃないな。
 本命の魚を捕りに行かないと。
 僕は気を取り直して、思いっ切り空気を肺に入れて異世界の海の中へと飛び込んだ。

(……おお)

 異世界の海の中はすごく奇麗だった。
 テレビで見た南国の海の様に海は透き通り、カラフルな珊瑚礁、熱帯魚の様な大小の魚が泳いでいる。
 でも、ここはやっぱり異世界の海。
 熱帯魚以外にはウニの様に全身が針だらけの魚、明らかに深海にいる様な独特で奇妙な形の魚、クラゲの様に透き通っているタコなど、明らかに僕の世界にはいない魚介類が泳いでいる。
 一体どれが食べられる魚なんだろうか。

〈……んーまぁいいや、とりあえず捕ってみてアリサに確認してもらおう)

 ただ、狙うのはまだ魚の姿をした熱帯魚系のみ。
 独特な姿をしている深海魚系に手を出す勇気は僕にはない。

(せいっ!)

 魚に向かって銛を勢いよく突き出してみるが、ひらりと避けられてしまった。
 思ったより魚の動きが速いぞ。

「――プハッ! ……はあ……はあ……くそっ! もう1回だ……すぅーはぁーすぅーはぁー……すぅ――っ!」

 もう一度肺の中に空気を入れて海のへもぐった。
 今度は見た目的に動きがトロそうな太っちょな魚に狙いを定めて、銛を勢いよく突き出した。

(おりゃっ!)

 さっきの魚以上の速さで避けられてしまった。
 なんで、あの図体でそんなに速いんだよ!

「――プハッ! はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」

 駄目だ、全然魚を捕れる気がしない。
 それに2回海へ潜っただけなのに、この疲労もやばい。
 次は……ちょっと無理かな。
 無理をして溺れてしまうと話にならないし。
 しかし、素潜りってすごく難しいな。
 素人がやるもんじゃないと思い知らされたよ。
 はあー……かっこよく銛で魚を突いて、

 捕ったどおおおおおおお!!

 って、高らかに叫びたかった……。

 そんな無謀な想いを胸に閉まって、素潜りを早々に諦めた僕は浅瀬へ向かって静かに泳いでいった。
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