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最終章 魔王の我輩、勇者の我輩

8 『お前は我輩の相棒なんだろ! エリン!』

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 そうだなさっきのアナネットの言葉をそのまま返してやろうか。

「さっき貴様が言っていたな、自分の剣に刺される気分はどうかと。貴様はどう思った?」

「ふん……最低の……気分……だわ……」

 だろうな。

「……だけ……ど……………………ガフッ……」

 ……死んだか。

「この戦いは我輩の勝ちだな……」

 だが最後の言葉が引っかかるな。『だけど』だと?
 一体どういう意味なん――。

「勇者殿! 後じゃ!」

「後? なっ!?」

「クキャキャキャキャ!」

 何時の間に背後にアナネットが!? 固有魔法の分身、いやそれはおかしい! アナネットはもう死んでいるんだ分身なんぞいるはずがない。

「――勝ち誇っているところを攻撃するのは最高の気分だわ! 吹き飛べ! フレイムショット!」

「ぐおおおおおおお!?」
 
「おっと、あいつがアブソーヘイズを持っているままで吹き飛ばしてしまった――まぁいい追いかける手間が省けるか」

 こいつアブソーヘイズに引っ張られている……という事は間違い……こいつは本物のアナネットだ。
 どうしてだ! どうして奴が生きているのだ!?

「おいおい! 勇者殿たちがこっちに飛んできたぞ! 2人とも早く逃げるんじゃ!」

 くっ、このままでは壁にぶつかってしまう何とか防御魔法を――。

「私が目の前にいるのに余裕だな? そら! そら! そら!」

「なっ貴様!」

 こいつ好き放題に殴りやがって! くそっこれでは防御魔法をする暇が――駄目だ、壁にぶつかる!

「――グガッ!!」

 ぬおおおお……これは痛い……。

「デール殿!」
「勇者殿!」
「デール様!」

「……くそ……何故だ……? 確かに……ここに……アナネットの体……が……あるの……に……」

「確かにそっちの体はさっきまで本体だったわ。アブソーヘイズに刺された時は私も終わったと思った……だがアブソーヘイズを見て思いついたのだ――」

 アブソーヘイズを見て思いついた? 能力は魔力吸収と供給だがあの時アナネットはそんな事は出来ない自分に刺さっていたのだからな。そうなると後は我輩が利用した呪いだがそれこそ意味が無い。だとすると後は中に眠っているはずのエリン……エリン? そうか!

「……そう……いう事か……」

「気が付いた様ね。そうアブソーヘイズで眠っているもう一人の【私】のように魔力で体を作って魂を移したのよ。自分の魂を丸ごと移した事なんて無かったから、正直うまくいくかは五分五分といったところだったけどね」

 そんなのありかよ。

「貴様の……固有魔法は……便利すぎ……ではないか……」

「応力が高いんだ。お前と違っていな……いや先ほどみたいにアブソーヘイズを簡単に取られ死にかけたからな、ある意味貴様は私の天敵かもしれん」

 アブソーヘイズ……そうだ! この状況チャンスではないか!

「ベルトラ! 爺さん! アナネットは今アブソーヘイズの呪いで我輩の周り1mくらいしか動けん、今すぐ叩きのめせ!!」

「――っ!」

「そうか! 行くぞベルトラ!」

「はい!」

 このアブソーヘイズは死んでも離さんからな。

「チッさすがにこの状況は分が悪いな。おい【私】起きるんだ! 今すぐマスター権限を解除しろ!」

 なに!?

『……了解……マスター権限を解除します』

「なんじゃと!? くそっ避けられた!」

「ふぅ今のは危なかったな……だがこれでもういろんな意味でそいつに引っ張られる事はない。――貴様等人間如きこの剣で十分だ」

 あっあれは飾ってあった我輩のお気に入りの黄金の剣ではないか!

「ベルトラ! 一気に押すぞ!」

「はい!」

「死ね! 人間!」

 止めてくれ! ああ……黄金の剣の刃がどんどんボロボロになっていくではないか!

「デール様、デール様」

「あ……? フェリシアか……」

「今助けますです。植物を後ろに回して背中を押しますからそれで抜けてくださいです」

 それは助かる。完全に埋まって動けなかったからな。

「ああ……やってくれ」

「えい!」

「――ぐほっ!? ……いてて」

 壁から抜け出せたのはいいが物凄い勢いで吹き飛ばされた。

「デール様!? すみません威力が強すぎました! 大丈夫です?」

「……大丈夫だ……おかげで抜け出せた」

 ただ背骨がミシって鳴ってはいけない音がした気がしたがな。

「あの2人は……アナネット相手に踏ん張っているようだが長くは持ちそうにないな。今の内に何か手を考えなければ……」

 二人の戦いを見て確信した事がある、これを突けばアナネットを今度こそ倒せるはずだ。
 かといって今あるのはマスター権限がなくなったアブソーヘイズのみ……これでは――待てよ、そういえば眠っていたエリンをアナネットは起こしていたな。
 エリンは我輩の魔力のせいで今の存在になった……と言う事は吾輩の魔力を送り込めばアナネットの精神支配が解けるかもしれん。よし、これは賭けになるがやってみるしかない。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ……何も……考えられない……なんでだろう……頭がボーっとする。

「――!」

 ……何か聞こえる……何の音……?

「――!」

 ……音じゃない……声……?

「――ン!」

 ……誰の声……?

「エリ――!」

 ……なんだろう……すごく……聞きなれた……声……。

「エリン!」

 ……エリン……それは……私の事……。

「いい加減に正気に戻らんか! エリン!」

 ……誰かが……アタシを……呼んでいる……?

「早く反応しろ! 間に合わなくなるぞ! エリン!」

 ……この声は……デール……?
 ……あれ? ……デールって……誰だっけ……?

「お前は我輩の相棒なんだろ! エリン!」

 ……アタシの……相棒……?

「我輩の相棒ならアナネットの支配くらい気合で解かんか! エリン!!」

 そうだ……デールは……アタシの……。

「エリンッ!!」

 アタシの……マスター……デール。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『……ううん……デール?』

「やれやれ……やっと起きたか」

 まったく心配させよって。
 しかしよかった……どうやら成功したみたいだな。

「エリン様、元に戻ったんですね!」

『フェリ……? あれ……アタシは何をして……』

「何処か問題はありそうか?」

『頭がちょっとボ~っとするけど……それ以外は……問題はなさそうかな』

 ふむ、少し心配だがアナネットを倒すにはこれしかない……やるしかないか。

「エリン、今から我輩の言う事を実行に移すんだ。いいか、まず――」
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