【完結】新しい我輩、はじめます。

最終章 魔王の我輩、勇者の我輩

４ 『どうだ？ 自分の剣に刺される気分は？』

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「どうだ？　私の昔話……真実を話してやったが、まぁ今までの話を信じる信じないかは勝手だがな」

　人間界に結界石やアブソーヘイズがあった事、そしてもう一人の我輩の存在、事情を知らなかった悪魔四天王達、アナネットの言う事はほぼ事実だろう。くそっ！　我輩が天使に踊らされていたとは何たる屈辱！

「だが、予定というのは本当にここまで思い通りにいかない物だとはな……主に貴様のせいでもあるが」

　いやいやいや、我輩のせいって！　そんな事言われても我輩が知った事か！
　そもそも元を辿ればアナネットの傲慢から生まれたものだろうが、まったく……。

「しかし、別人格になっているとはいえ【私】が私でよかったよ。コントロールは奪えたからな」

　アナネットの顔さえ見えていればな、エリンの姿だから一発で分かっただろうに。
　性格も全然違うし……どっちが本来のアナネットの性格なんだろうか……いやそれはどうでもいいか、今はそんな事よりこのバインドをどうにかせねば話になら――。

「……ベルトラ……フェリシア……今の話……どう思う……？　本当に……勇者殿が……魔王だと……」

　――あっ、しまった。爺さん達の事をすっかり忘れていた！！

「……悪魔の……言う事を……信じるのは……如何と……思いますが……今までの……２人のやり取りを……見ていると……」

「……本当の……よう……ですが……でも……信じたく……ありません……です……」

　これはもう……ごまかしは無理、だよな……。

「クス、かわいそうな人間共だ。デイルワッツにいい様に使われていただけなのに、自分を守るための盾としてね……そうだろ？　貴様の考えそうな事だものな」

　なっ！？

「黙れ！　そんな訳……そんな……訳……」

　……いや、最初はそうだ……そう考えていた、が……今は……。

「クキャキャキャ！　デイルワッツ、本当の事を言ってやったらどうだ？　その方がこいつらもすっきりするだろう」

「………………」

「……今まで……わし等を……騙していたのか？　……そいつの……言葉は……真実……なのか！？　……どうなのじゃ！？　……勇者殿！」

「………………」

　……今は何を言っても――。

「くっ……勇者殿……何とか……言わぬか！！」

「……デール殿！　何黙っているの……ですか！」

「……デール様！　そんなの……嘘ですよね……デール様が……そんな……」

　皆は信じてくれるとは思えない……。

「はぁだんまりか、つまらん奴め。仕方ない、次に移るとするか――っとこのままでは元に戻った時に動けるな……重労働はしたくはないが仕方ないか、おい【私】手伝え」

　次だと？　今度は何をする気なんだ。
　２人で我輩の体を持ち上げて……壁に立たせた？　ん？　あれはナイフか？　……って両手両足にナイフを付き立てて我輩の体を壁に貼り付けおった！

「ふぅ、これでよし。――さて……」

「……よし、じゃないわ！　……我輩の……体に……傷を付け……おって！」

　何て事をするんだこのクソ天使は！
　む、こっちに来た、ならばこのまま噛み付いて……く～駄目だ、頭も上がらん。

「よいしょっと」

「なっ！　いででででで！」

　バインド状態で髪を抜かんで持ち上げるな！　毛が抜けるううう！！

「……痛いではないか！　……このっ！　……はなさんか！」

「うるさいわね、今から貴様の念願のだった事をしてやるというのに」

「……念願だと……？」

　一体何の事を言っているのだ？

「そうだとも……デイルワッツよ、ほらっ」

「……お、おい……何を……がっ！？」

　こいつ、我輩の体に押し付けてどうするつもりだ。

「クス、貴様を元の体に戻してやるのよ。感謝するんだな」

　はっ！？　元に戻すだと！？

「ちょっ！　がぁああああああああ！！」

　いっ意識が……薄れ……て……。

※

「はっ…………ゲホゲホ！　……こっこれは……我輩の元の体！」

　……戻った、等々我輩の体に元に戻ったぞ！　チョハハハ！　馬鹿め、何故こんな事をしたのかは分からんが元の体には十分な魔力がある！　アナネットめ今すぐ貴様を始末して……始末して……って何だこのナイフは！？　まったく抜けんし両手両足が動かない！

「くっ！　この！　何故だ！　こんなナイフ如き、何故抜けんぞ！」

「クスクス、ただのナイフなのにどうしてかしらねぇ。そんなナイフも抜けない魔王なんて……」

　くそ！　馬鹿にしやがって……ん？　これはナイフに魔力を感じる……。そうか、アブソーヘイズを台座に封印した様に、このナイフも同じ事をしたな。これではアナネットの魔力でなければ抜けんではないか！

「その顔はナイフの封印に気が付いたようだな。だがこれから先どうなるかは分かるまい、おい」

「…………」

　む？　エリンの奴が前にでてきた？

「さぁ【私】よ、デイルワッツの魔力を吸収するのだ」

　なんだと！？

「…………ハイ」

　やばい、エリンの奴がアブソーヘイズを構えた。

「おい！　やめろ！　エリン！」

「うるさい！！　エリンは私だと言っているだろう！　早くやれ！」

「…………」

　我輩からすればお前はアナネットであってこの精霊が――。

「エリン！　目を覚ま――」

「……デ……ル……」

　エリンから涙がアブソーヘイズまだあいつの意識は残っている！？
　だったらまだチャンスが――。

「がはっ！」

　――なかったよ！　まずい、アブソーヘイズをまともに刺された。このままでは魔力が吸われる！

「ぐあああああああああああああああ！！」

「クスクス……ククク！　どうだ？　自分の剣に刺される気分は？　クキャキャキャキャ！　終わりよ、デイルワッツ！」

「あああ……アナネッ……ト……覚えて……おけ……よ……貴様は……必ず……我輩が……た……お…………」

「ふん、死ぬ前まで減らず口を。さぁアブソーヘイズをこっちに遣すんだ」

「……ハイ」

「よしよし。では貴様は……ちっ精霊になってしまったせいなのかデイルワッツの魔力のせいなのか、こいつの存在が固定されて消せないな……まぁ操れるから問題はないか。おい、アブソーヘイズに戻れ」

「……ハイ」

「それからマスターを変更、デイルワッツから私に」

『了解、マスター』

「ふん、自分自身のはずなのに……実に気持ちが悪いな。おい、魔力のリミッターを解除、そしてお前はもうアブソーヘイズの中で眠っていろ」

『了解、マスター。リミッターを解除します』

「……おお！　魔力が満ちる……これが悪魔四天王とデイルワッツの魔力なのか！　これならば天界の天使共も皆殺しが出来よう！！　クキャキャキャキャ！！」