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最終章 魔王の我輩、勇者の我輩

2 『デイルワッツ様は大丈夫なのだろうか』

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 うそだろ!? デイルワッツの奴が自分から行くなんて!? 何とかして止め――。

「ハヒ、まっ魔王様! っ今一度……ハヒ、お、お考え、直しませんかっ!? ハヒ」

「いーや! 我輩は決めたのだ! 必ず実行に移すぞ!」

 ――れるわけないよな……デイルワッツは一度言い出したら本当に言う事をきかない奴だ。くそ、どうしたものか……このままでは今までやってきた事が無駄になってしまう。

「――っとここだな?」

 おいこら、扉を壊すな、せっかく捕獲した人間が逃げたらどうするんだまったく……後でアルフレドの奴に直させればいいか、デイルワッツの奴はっと……人間を選別しているな、今のうちにいい手を考えないと。
 人間の中にデイルワッツが入ってもアブソーヘイズは抜けるわけがないし中で眠っている【私】も起きない、と言う事は今やっている事は無意味だ。それならこいつも諦めが付くか……。

 いや待てよ、魂と魔力を移動させる時に私の魔力も混ぜて、デイルワッツにアブソーヘイズを抜かせ起きた【私】に奪い取らせれば楽なんじゃないか? 計画は【私】が起きた時を見計らって思念で送ればいいだけだし、よしそうしよう。

「よし! こいつにしよう! こいつは他のとは違う強い魔力を感じるぞ! 素晴らしい!」

 デイルワッツも自分の体になる奴を見つけたようだし、さっそく細工をしますか。



 ……どうしてこうなった。

「アナネット、一体どうした? 成功したのであろう?」

 言うとおり成功はした、デイルワッツの魂を人間に移し私の魔力も注げたし、そこまではよい、よかったのだが……目の前の人間となったデイルワッツの姿がおかしい。
 ショートの金髪は天辺だけが真っ黒、そして歯はギザギザ、こんな人間普通にいないぞ!?

「あ、はい……成功はしたのですが……」

 うーむ、これは自分の今の姿を見せた方がいいよな……鏡はっと、あったあった。

「その……これを……」

 あ、デイルワッツが鏡を見た瞬間に固まった、まぁそりゃそうか……こんな姿じゃな。

「さすがにこんな頭にギザギザの歯をしている人間いないと思うのだが、何故このような姿に」

 私もいないと思うし、私もその理由が知りたいよ! ただ考えられるとすればデイルワッツの魔力の影響、なのか? はっきりと分からんけどそう答えとくか。

「おそらく、魔王様の魂と魔力の影響が強すぎたために人間の体が一部変化してしまったと思われます……これまでの実験ではなかったことなのではっきりとはわかりかねます」

「まぁよかろう、人間の体でいるのは一時的だからな、幸いおかしな部分は頭のみだ、布を巻けば問題なかろう――おいアルフレドいつまで倒れている! 我輩の体を丁重にベッドに運んでおけよ!」

 よかった、深く考えない奴で……のん気に服を選び出したし、問題はあるにはあるが大丈夫そうかな。

「どうだ? この姿は?」

 どうだと言われても、人間が服を着ているとしか思えんのだが、まぁここは褒めておいて気分よく人間界に行ってもらおう。

「はい、その姿なれば人間達に紛れ込めましょう」

 たぶん。

「あとのことは任せたぞ。もしもの時が起こればすぐに我輩を回収しろ、良いな?」

「はっ、魔王様」

 馬鹿め、そんな事するわけがない。

「魔王様ご武運を~」

「うむ! では行ってくるぞ! ゲート!!」

 あの体でもゲートを開けられるか、やはり腐っても魔王デイルワッツだな。

「チョッハハハハハハ!!! まってろ人間共よ!! このデイルワッツ様が今から絶望を届けてくれるわ!!」

 ただあの笑い方はどうかと思うが……。



「デイルワッツ様は大丈夫なのだろうか」

「かといって私たちに出来る事はないしな、こうしてデイルワッツ様が使っている遠見の鏡で様子を見守るしかあるまい」

 さて、どうなるか。頼むうまくいってくれよ。

「うーむ、じれったい話だな……しかし、結構な数の人間が挑戦していたが一向に剣が抜ける気配がないな」

 そりゃそうだ、アブソーヘイズは私の魔力でしか抜けないようになっておるのだからな。
 しかし兵士や騎士といった見た目の屈強な人間ばかりしか出てこないのが、デイルワッツの奴は一体何をして……あれ? もしかしてアブソーヘイズを抜く者って登録か何かで決められていた? そうなると当然デイルワッツは見物人状態に、そうなるとデイルワッツがアブソーヘイズ抜くどころか触る時もないじゃないか!
 終わった……私の計画がこんな単純な事で終わるとは――。

《――聞け! 今より全ての者に儀式の参加を許可する! 天使の剣に集え!!》

 ん!? この人間、今なんて言った!?

「おいおい、見物人にまで剣を抜けるかどうかやりだしたぞ。抜けない者がいないからって手当たり次第とは実に哀れな奴らだな」

「あ、ああ、そうだな」

 哀れでもなんでもないわ、これは絶好の大チャンスだ!

「おい! あの頭の人間、デイルワッツ様じゃないのか!?」

 来た! とうとう【私】が目覚める時が!

「なっ!? 剣が、抜けただと!? デイルワッツ様がなぜ!?」

 よし、予定通り【私】が起きたぞ! ではさっそく思念をおく……り……って何だあの姿は、魔力が少なかったのか私の姿でありながらも若干幼いし蝶のような羽、あれでは完全に精霊ではないか!?
 どうしてあんな事に……ん? あのギザギザの歯は……まさかデイルワッツの魔力のせいか? まさか人間の体を変えたように【私】も歪んでしまったのか!?
 いや、お、落ち着け私……姿が変わっていようがあれは【私】なのだ、何の問題も――。

《な、なんだ貴様は!?》

《アタシ? アタシはエリンよろしくね!》

 ……へ?

《エリン……だと……》

《そうだよ~お~すごいね~人がこんなにたくさん! やっほー!》

 何か手を振っている。私はあんなキャラではないのだが。とにかく大事になる前に早く辞めさせなければ、思念を送り……送り……おく……っても通じてない!? いや通じるというより届いてないといった感じがする、どうしてだ。

《――え~コホン。アタシは天使の剣【アブソーヘイズ】に宿る精霊エリン。この天使の剣【アブソーヘイズ】は、はるか昔に悪魔達が人間界に侵略してきた時の為にと天使様達が創造した悪魔を討つ為の剣です》

 いやいやいや、エリンと名乗っているがあれはどう考えても私ではないぞ!

《そして、その人間をマスターとし魔族を倒す。それが天使様から受けたアタシの使命になります。というわけで選ばれし者デール! アタシと一緒に魔族の討伐だよ!》

 ……コイツハイッタイナニヲイッテイルンデショウカ。
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