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第六章 もう一人のデイルワッツ

5 『デールって固有魔法使えたんだ、そこにびっくり……』

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「……ぐっ……勇者殿……何をして……おる! 早く……魔王に……止めを……刺さぬか!」

「……そうです……今がチャンス……ですよ!」

「……です! ……です!」

 う、確かにこのままこいつの上に馬乗りしているだけでは埒が明かぬな。
 しかし、どうしたものか……止めを刺すって我輩の体を傷つける事に……そうだ、アナネットの奴に何とかアルフレドの魂を――。

「いい加減、俺の上からどけぇ! ――さっきのお返しだ! エアーショット!!」

 なっ!?

「しまっ――ぐはっ!!」

 く~油断していた、壁に叩きつけられるってのはなんとも痛いものだ。
 しかしこれはまずいな、アルフレドの奴と距離が空いてしまった……奴の魔法の間合いではないか。

「……フッ……フハハハハハ!!」

 ん? いきなりどうしたんだ…………何だろう……すごくいやな予感がするのだが。

「……俺もアレを使うのは躊躇っていたが……いいだろう、ここで使い決着を付けてくれるわ!!」

「アレ? 躊躇? 使う?」

 まったく分からん、こいつは何を言っているんだ?

「そうだ……貴様が自分の身を滅ぼす可能性があるとして使わなかった固有魔法だ!! それで仲間諸共、貴様をこの世から消してやる!!」

 え? 今こいつ何と言った……? コユウマホウトイッタヨウナ。

「イマナント……?」

「フハハハハハ!! 貴様の固有魔法と言ったのだ、固有魔法の本質は肉体の方だからな……魂が違えど使えるんだよ。それに、仮にこの体が朽ちようとも俺の場合は自分の体に戻ればいいだけだしな」

 我輩の固有魔法を使うだと!?

『デールって固有魔法使えたんだ、そこにびっくり……』

「いや、使えるんだがあれは……とにかくやめろ! それだけ使ってはならん!!」

「アナネットですら見た事がないと言っていたが、その慌て振りはよほどの物みたいだな!! 楽しみだ、さらばだ! デイルワッツ!! はぁっ!」

「やめろおおおおおおおおおお!!」

 アルフレドの手から虹の光が発せられてしまっている、ああ……発動してしまった……終わった……。

「フハハハハ……あ? なんだこれ? 布……?」

「……え? ……え? ……ぎゃあああああああああああ!?」

「……ど、どしたです!? ……ベルトラ様!」

 ……アルフレド……本当になんて事をしてくれたんだ……。

「……わっ私の、しっ……しっ下着を……返せ!!」

「「「「『はぁ!?』」」」」

「いっ一体どういう事だ!? なぜ俺が人間の物なんか手に持っているんだ!?」

「…………その固有魔法は約10m内の視界に入る物なら何でも奪い取れる能力なのだ……」

「……それで……何で私の下着が……盗られたのですか!? ……下着なんて……見えていないでしょ!?」

「透視魔法を使えば壁の向こうに在ろうと物を認識できるために奪い取れるのだが、アルフレドの馬鹿は対象を選んでなかった為に物が定まらず無差別で奪い取ったのだ……」

 はぁ、説明するだけで悲しい気分になってきた。

「……無差別のせいで……こんな辱めを!?」

『デール、なんで隠していたの?』

「魔界を統一した魔王がこんな地味で役立たない能力を部下に見せると思うか!? ずっと隠していたのに、こんな事でばらされる羽目になるなんて……」

「……私の下着を……早く返せ!! ……この変態魔王!!」

 何故だろう、やったのはアルフレドなのにその言葉すごく我輩の心に突き刺さるのだが。

「――!! ええい! くそが!!」

 あ、アルフレドの奴がベルトラの下着を地面に叩き付けた。

「……ぎゃあああああああああ! ……動けないのにそんな所に投げ捨てるなぁああああ!!」

 今大ダメージを食らっているのはベルトラかも知れんな、精神的に。

「っだったら普通の魔法で殺してやるまでだ!! ファイヤーボール!! ファイヤーボール!! ファイヤーボール!!」

 ヤケクソになって辺りかまわず魔法を連発してきたぞ!?
 このままでは城が! 我輩のマイホームがどんどん壊されていく! って天井から何か落ちてきた――あれは、アルフレドの体だ……そうだ、これを使えば――。

「おい! そんな出鱈目に魔法を使うなアルフレド!! この体がどうなってもいいのか!?」

『何か悪党みたいな台詞……って中身は悪党か』

 好きに言うがよい、こっちはマイホームの崩壊の危機なのだからな。

「うるさい!! もはやそんな体に未練なぞないわ!! この体があればよい!!」

 え!? マジか!?

「あ、それは止めた方が――」

「止めるな、アナネット!! フレイムストライク!!」

 あいつ自分の体と我輩を一緒に燃やし尽くす気か!?
 そんなのは勘弁――だっと!! お~よく燃えるな、そんなに脂身が詰まっていたのかあの体。

「おのれぇ、俺の体を盾にするなんて! なんて事をしやがる!」

 どちらにせよ我輩と一緒に燃やす気だったくせに何を言うか……。

「くそ! おい! アナネット! ずっと見物ばかりではないか!!」

「ん? 何を言う、お前がデイルワッツとタイマンをすると言っていたから他の人間を動けなくして私は見守っていたではないか」

 なるほど、それでアナネットの奴は行動に移さなかったのか。
 しかし、あれほど毛嫌いしていたアルフレドの言う事自体、何か違和感が。

「そんなのはもういい!! その人間達を始末して、デイルワッツも殺すのだ!!」

 まずい! 皆を助けないと――。

「まぁ、そうだな……十分楽しめたぞ、アルフレドよ。この茶番は……」

 へ? 茶番?

「は? 何を言って……な、何だ、この魂が抜けるようなこの感覚は!?」

「ご苦労だった、アルフレド」

「アナネット、一体どういう事だ!?」

「貴様の魂を元の体に戻すのだよ。おっと、自分で自分自身の体を破壊していたな……クスクス」

「なっ!?」

「さて問題だ、アルフレド。戻る器となる体がないという事は、戻ろうとするお前の魂はどうなるかな?」

「アナネットオオオオオ――」

「バイバイ、アルフレド」

 アルフレドが倒れた……一体何が起こっているのだ?

「だからあの時、止めておけと言ったのに……馬鹿な奴だ。まぁそれはもういいか……さて、剣から出なさい」

 剣から出る? エリンの事を言っているの――。

「って、どうしたのだエリン? アブソーヘイズの外に出たりして……エリン?」

 エリンの様子がおかしい、生気が感じられない、まるで人形の様だ……。

「そいつはエリンであってエリンではないよ、デイルワッツ」

 は? こんな時になぞかけか?

「一体何を言っておるのだ、アナネット?」

「それも間違いだ、私はアナネットという名ではない。私の名はエリン――天使騎士が一人、エリンだ!」

「は? 天使騎士……? ……エリンだと……?」
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