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第五章 最後の悪魔四天王「食火のフレイザー」

1 『わ~あたりの草木が枯れちゃってるね~』

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 カルリックをたってから早4日。ディネッシュの西大陸、山の国【バルガス】へ向かってアルムガム以来に山を登っておるが、やはり馬なしでの山登りはきついものがある……。

「ん? どうしたのじゃ勇者殿、足取りが鈍っておるぞ。もしやもう疲れたのか? そんなんじゃ今日中にバルガスに着かんぞ」

「……」

「あん? わしの顔をじっと見てどうした? 何か付いているのか?」

 むしろ頭に巻いていた包帯が付いていないのがおかしいんだが!?
 どうして爺さんはもう完全回復しておるのだ!! 数日で包帯がいらなくなるとは意味がわからんぞ! 悪魔だった頃の我輩でもここまでの治癒が高くなかったのだが一体どんな体の作りをしとるのだ気にするだけ無駄か……。

「いや、何もない。気にするな」

 もはや考えるだけで頭痛がしてきて余計疲れがでるわ。

「ん~?? そう言われると気になるのじゃが~まぁいい、ならば足を鈍せないでどんどん登るぞ」

 足を鈍せない、か。頂上にバルガスがあるというこの山だが……何だこの異常な暑さは、こんな暑さで山登りしては足が鈍るに決まっておろう……化け物爺さんと一緒にしないでほしいぞ。
 しかし今まで森、砂漠、雪、と旅をしてきて天変地異がよほどひどかったのは判るが、この山に関してどうもおかしい――。

「なぁ、この山……マレリス並みに暑いんだが、どいう事なのだ? バルガス国はこんなにも暑いものなのか?」

 下手をすればマレリスより暑いかも知れぬのだが。

「いえ……本来ならば頂上とふもと気温差で、むしろ寒いと感じるはずなのですが……おかしいです、こんなに暑いはずが」

 やはりそうか、辺りの草木は枯れてはおるがまだそんなに月日がたっておらぬ、元から暑い地域ならこんな状態ではないはずだ。となるとバルガス国を攻めていた悪魔四天王最後の一人であるフレイザーが何かしらした……と考えるべきか、あやつは火を操れるからな。……しかしこのあたり一帯をこんな暑さにするなど一体何をして――。

『わ~あたりの草木が枯れちゃってるね~』

 一体何を――。

『お、あれってチョウチョってやつじゃないの!?』

 一体――。

『ちょっと、デール! 聞いてる?』

 一……。

「……おい、エリン」

『お、やっと口を開いた。でなに?』

「剣の外に出ろ……」

『やだ! 外暑いもん!!』

「もん!! じゃない!! 自分だけ暑さを防ぎおって! だから何で剣の中だと暑さ寒さを感じないんだよ!?」

 またこのやり取りをするとは夢にも思わんだぞ!!

『だ~か~ら~そんなのわかんないよ、それに別空間だからじゃないかなって言ったじゃん、もう忘れちゃったの?』

 このような不公平な事忘れるわけなかろうが!! カルリックの時にこの別空間? の事がわかっていたから暑くなった途端アブソーヘイズに逃げ込みやがって!! どうにか引っ張り出す手段はないのか!?
 う、また頭痛がしてきた……くそ、こればかりはどうしようもないし、今はこの暑い状態をどうにか出来ないかを考えよう。
 う~む、何かないものか~辺りにあるのは枯れた草木のみだし……ん? 草木? ……そうだ! フェリシアにこの暑さを伏せぐ植物がないか聞いてみよう。マレリス出身なんだし何かしらの対策をがあるはずだ、何故もっと早く思いつかなかったのか……ってフェリシアがいない!?

「おい! フェリシアはどこ行った!?」

「え? 私の後にい……ない!? 一体どこに!? さっきまでいたのに!」

 またか。

「まぁ倒れていたとしても今回は雪がない1本道だ、すぐ見つかる……あれ? どこにもいないぞ!?」

 まさか山から転げ落ちてしまったのか!?

『あ! あそこで倒れている!』

「ん? どこだ?」

『ほら、そこの枯れた茂みの所、フェリシアの植物部分と同化していてわかりにくいけど』

 ああ、あれか! 完全に同化していてまったくわからんだぞ。しかし、良かった見つかって……っていや良くないか、倒れてるいるのだから。
 まったく、倒れるならその前に一声かけてほしいものだ。

「おい、大丈夫か!? しっかりしろ!」

「ハァハァ……あ……大丈夫……です……ハァハァ」

 う~む、今回も大丈夫には見えんぞ。花が完全に枯れておるし……。

「今度はどうしたのだ? この暑さにやられたとしてもマレリスとそうかわらんだろ」

「ハァハァ……はい、暑さは別に……ハァハァ、ですがこの山登り……予想以上に……疲れが……」

 ああ、なるほど、旅に慣れていないフェリシアにとって疲れがたまっている時にこの山登りは酷だったか……。

「となるとどうしたものか」

「ハァハァ……私に……かまわず……ハァハァ、先に進んで……ください……です」

「そんな事が出来るか!」

「そうですよ、置いていくだなんて私達にそんな事はできません」

「そうだ、そう――」

「デール殿どうかしましたか?」

「あ、いや、なんでもない」

 ……今我輩、置いて行けるかなんて思ってしまった。人間相手に……いやフェリシアは正確にはに違うが、それでも我輩がそのような考えを抱いてしまった? どんどん我輩が別の我輩になっていっておるような……。

「お~い! あそこに山小屋があるぞい! そこでいったん休憩を入れよう」

 いや、我輩も疲れておるからこの様なおかしな考えをしてしまったのだ。うむ、とにかく我輩も山小屋へ着いたら十分に体を休めれば。

「ほら体を起こせるか?」

「そ、そんな、またデール様にご迷惑――」

「おい、爺さん、フェリシアをおんぶしてやれ」

「――を……ヤッパリソウナルンデスネ」

「だからそこは率先してお前がせんかい!!」

 だからはこっちのセリフだ、またその返しなのか!

「だから、何故、我輩が、率先しなければならぬのだ!? 平坦なあの時とは違いこの山道では爺さんの方が速いではないか」

 もっとも、平坦とはいえ雪の中を歩くのは、それはそれできつかったが……このクソ暑い山道に比べればまったくもって違う。今度ばかりは――。

「やっぱダメじゃなこいつ」
「やっぱダメですねこいつ」
『やっぱダメだねぇデール』

 っ!! どうしてこの時の皆はそんな眼で我輩を見るのだ!? むしろ前の時より冷ややかな眼で見てくるし!

「第一わしは怪我人じゃぞ? その事を考えんかい!!」

 元気に先頭を歩く怪我人がどこにおる!? ――ってここにいるか……。

「そのようなセリフ4日前に言え! 今言っても何の説得力もないわ!」
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