上 下
31 / 75
第四章 悪魔四天王「斬風のバルフライ」VS豪拳

2 『……どうしましょう』

しおりを挟む
「次の目的地である【カルリック】は雪国の地になります」

 ふむ、暑い国の次は寒い国か……何かと忙しい世界だな。
 あ~そういえばアナネット言っておったな、ディネッシュは魔天戦争の時に影響を受け天変地異が起きてそのせいで人間同士の争いが起きた……だったか、実に愚かだな。

「なのでその前にふもとの村で防寒等をそろえようと思います」

 雪国の地ねぇ、エリンが寝ていて良かったかもしれん……起きていたらぎゃーぎゃー騒いでいるのが目に浮かぶわ。

「カルリック……か」

 ん? 爺さんの奴、遠い目をしているようだが。

「爺さんどうかしたか?」

「……いや。ちょっと、な」

 何なのだ? ……まぁどうせ爺さんの事だからろくでもないだろうし放っておこう。

「ふもとの村まで距離がありませので、早朝出発します。今日はもう休みましょう」

 ふぁ~、気が緩んだのか疲れが出てきたな……さっさと寝てしまうのが一番だな。
 ベルトラ飯もなくなり、フェリシアが作ったこの大きな葉のベッド……即席とはいえ地べたに寝るより遥かに快適だ、このまま順調に旅も出来るだろう。



「……どうしましょう」

 早くも順調が崩れ去ってしまった。
 ふもとの村に着いたらいきなりの問題が発生、どうしてこうなった。

「どうしたもこうしたも……ベルトラ、今までどうして気がつかなかったのじゃ」

 ベルトラの荷物入れには我輩たちの旅資金を入れた袋が入っていたのだが。
 袋の口が開いていた上にその荷物入れの一部が破れ、そこから金がどんどん落として行き……結果、今は金貨5枚のみが残っているというこの状況。

「……そう言えば野宿ばかりでお金の袋はきちんと確認していませんでした、私とした事が……」

 まぁ砂の上に金が落ちても誰一人気が付かないだろうが――。

「な~んだ、あれって目印じゃなかったんだ」

 気が付いて……は!? エリンの奴、金が落ちていることに気が付いていたのか!?

「おい! 気が付いていたのなら言えよ!!」

「だって砂漠って方向がわからなくなるじゃん、それでベルトラが目印にするためなのかなと思って」

 目印って……。

「……マレリスへ向かった時に目印なんて使っていたか?」

「え? あ~、使ってなかったねぇ」

 まったくこいつは普通に考えればわかるだろうに。

「それは置いといて、……何時から気が付いていたんだ?」

「いつからって、フェリの家から出発してか――あだ!? ちょっと! いきなり頭を叩かないでよ!!」

「―――」

 この大馬鹿精霊が!! 言葉も出ないとはこの事だ!!

「エリン、私はちゃんと星の位置と地図で慎重に確認しながら進んでいるのよ」

「へぇ~そうだったんだ」

「そうだったのだって……今まで私が適当に歩いているとでも思ってたの?」

「野生の勘で進んでいるとばか――あだ!? ベル! さすがに同じとこ殴るのは痛いよ!!」

 ダメだこの精霊。

「しかし困ったのぉ……何かを売るか?」

「それをしてしまうと何かを失ってしまうそうな……ぐぬぬぬぬぬ」

 ベルトラが頭を抱えてうずくまってしまった。騎士としてのプライドなのだろうか。

「防寒着か……」

 ふむ、この中には……綿か? となると――。

「フェリシア、植物で綿はできないのか?」

「え? はい、綿を作れる植物はありますけど……あ~なるほど、そういう事ですか」

 フードの天辺が盛り上がった、花が伸びたのか?
 どこかの馬鹿とは違ってフェリシアはちゃんと考えてくれている。

「察しがよくて助かる」

「ん? どうしたのデール? アタシの顔に何か付いてる?」

 ……どこかの馬鹿とは違ってな。



「これで……出来ましたです」

「「「お~」」」

 残りの金貨で布を買い、後はその布にフェリシアが作った綿を詰め込んで服にすれば安上がりの防寒着の完成だ!

「ですが……デール様、本当によろしいのですか?」

「なにがだ?」

「節約とはいえ……この布は薄すぎじゃないです?」

「大丈夫、大丈夫。これだけ綿をつめれば十分だろう」

 暑さと違って寒さは着込めばいいだけだしな。

「そうですか、後渡されたエリン様の分なのですが……この布の量だとほとんど綿を入れられなくてかなり薄いのしか作れないんですけど」

「え゛!?」

「それも大丈夫、大丈夫。問題ない」

「ぜんぜん大丈夫じゃないし問題あるよそれ!?」

 無視だ無視、普段の行いの罰だ。

「やだ! 絶対やだ! 寒いのはいやぁだぁあああ!!」

 ええい! ギャーギャーとうるさい奴め!

「しかたないの、だったらわしのと交換してやろう」

 は!? 爺さん何を言い出すのだ!

「え? いいの!?」

「わしは寒いのは強いからな」

「ありがとう! ダリ爺!」

 おいおい、爺さん。エリンを甘やかすなよ。



 しかし現状はどうだ……結局エリンは剣の中に避難し、布の薄さで寒さがあまりカバーしきれておらん、綿を入れておれば十分だと思ったのだがな。
 そして目の前にはエリンにあわせるためのものだった物を爺さんが無理やり着ているからパッツンパッツンの姿をずっと見るはめに。あの時の判断は過ちだった。

「今日はまだ暖かいくらいじゃぞ?」

 これで暖かい!? いやいやいや……そういう次元じゃないぞ、ベルトラも完全防寒でまん丸になっておるし。旅慣れしてないフェリシアなんかもっと辛かろう……っていない!?

「おい! フェリシアはどこ行った!?」

「え? 私の後にい……ない!? 一体どこに!? さっきまでいたのに!」

 おいおい、こんな雪の中を逸れるのはまずいぞ。

『あ! あれじゃない?』

 あれって……平原にこんもりと盛り上がっている……あれか!?

「フェリシア! ここにおるのか!?」

 くそ冷たい雪を掻き分ける羽目になるとは!

「――いた!」

 良かった、もしあのまま後ろ見ていなければ危ういとこだった。

「大丈夫か!? しっかりしろ!」

「……あ……大丈夫……です……」

 倒れるわ、顔と花が青白くなっているわで、とても大丈夫には見えんぞ。

「……ただ、体が思うように……動けなくて……」

「ふむ、植物の体だからな……この寒さで余計動けんのか。なら仕方あるまい、ほら体を起こせるか?」

 フェリシアの体は軽いな。

「そ、そんな、デール様にご迷惑――」

「おい、爺さん、フェリシアをおんぶしてやれ」

「――を……」

「お前がするんじゃないんかい!!」

 は? 何を言っておるのだ?

「何故我輩が? 爺さんの方が我輩より力があるではないか」

「ダメじゃなこいつ」
「ダメですねこいつ」
『ダメだねぇデール』

 え? え? 皆何故そんな眼で我輩を見るのだ!?
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

【完結】契約結婚は円満に終了しました ~勘違い令嬢はお花屋さんを始めたい~

九條葉月
ファンタジー
【ファンタジー1位獲得!】 【HOTランキング1位獲得!】 とある公爵との契約結婚を無事に終えたシャーロットは、夢だったお花屋さんを始めるための準備に取りかかる。 花を包むビニールがなければ似たような素材を求めてダンジョンに潜り、吸水スポンジ代わりにスライムを捕まえたり……。そうして準備を進めているのに、なぜか店の実態はお花屋さんからかけ離れていって――?

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

処理中です...