上 下
139 / 178
13章 二人の強奪と奪還

コレットの書~強奪・5~

しおりを挟む
 で、あの見たくない格好をした人は誰なのかしら?
 アーメットを被っているから顔が全く見えない。

「ちょっとぉ誰かは知らないけど、乱暴に扉を開かないでちょうだい! 扉に傷がついちゃったらどうしてくれるのよぉ!」

 えっ! いやいや、問題はそこじゃないでしょ!
 あんなに怪しい姿の人が、突然お店に入って来たのに扉の心配している場合!?

「まったくぅ……それでぇ用件はなんのかしら?」

 カルロスさんが指をポキポキ鳴らしながら鎧の人に近づいて行った。
 脅している感じがするから、一応警戒はしているっぽい。
 
《――――――――――――――――――――!》

 こっちを指さして何か言っているみたいだけど、アーメットのせいなのか声が小さいのか全く声が聞こえない。

「?」

 カルロスさんの位置でも聞こえていないのか、首をかしげている。
 どれだけ小さい声の人なんだか。

《――! ――――!》

 鎧の人が地団駄を踏んでいるけど……もしかして怒ってるのかしら?
 いやいや、声が聞こえないんだからしょうがないじゃない。

《――――! ――!》

 鎧の人が身を低くして、右手を前に突き出して、左手を上にあげた。
 よくわからない格好をしたけど……どこかの拳法の構えかしら?
 だとしたら、あの人はカルロスさんと戦うつもりなの!? 元とはいえ四つ星級冒険者相手になんて無謀な。
 これは止めた方がいいわね、じゃないとカルロスさんがお店の中で暴れたらめちゃくちゃになっちゃうわ

「あ――」

「あらぁ私と遣り合うつもりぃ? いいわぁ受けてたちましょう」

 カルロスさんもやる気満々……これは止めるのは無理ね。
 だとしたら、私のやる事は一つ。
 ――カウンターの後ろに隠れて行く末を見守るだけ。

「ただぁ、ここだと商品が壊れちゃうから外に――」

《――! ――――――――》

 カルロスさんが外を見ている隙に、鎧の人が動いた!
 なんてずるい!

《――――――――――――――!?》

 あ、鎧の人がバランス崩したのか前のめりに倒れて……。

「えっ? ――アウッ!!!!」

「カルロスさああああああん!!」

 カルロスさんの大事な部分に頭突きをかましちゃったし!
 私には一生わからない男の人の痛み。
 やっぱりカルロスさんも、そこは逃げられない定めだったか……。

「ブクブクブク……」

 って、今はそんな事を思っている場合じゃない。
 カルロスさんが泡を吹いて倒れちゃった!

「カルロスさん、大丈夫ですか!?」

「ブクブクブク……」

 どっどうすれば!? そうだ、確かこういう場合は腰をトントンと叩けばいいんだっけ?
 とりあえずやってみよう!

《――》

 カルロスさん、早く目を覚まして!
 鎧の人がこっちをじっと見ているんです!

《――》

「……え?」

 目線を外して、カウンターの方に向かって歩いて行った。
 私達は放置なのかな? だとしたら良かった、カルロスさんがこんな状態じゃどうしようもなかったし。

《――》

 あっ鎧の人がカウンターの上に置いてあった、皮の鎧を手に取った。
 もう鉄の鎧をつけているんだから、あんな皮の鎧を手にしたところで何を……。

《――!》

「ちょっ!?」

 ええ! 皮の鎧を持ったまま走って店から出て行っちゃった!?
 どっどうしよう、これは強盗だよね! 追いかけた方がいいのかしら?
 あ~でも、この状態のカルロスさんを放っては行けないし……まぁしょせん皮の鎧だし追いかけなくてもいいか。

「カルロスさん!」

 今はカルロスさんに目覚めてもらう事の方が大事だし。

「カルロスさんってば! しっかりしてください!」

「……うっ……コレッ……ちゃん……」

 良かった、意識は戻ったみたい。
 まだ目が泳いでいるのが気にはなるけど。

「……ああ……さすがに……今のは……効いた……わぁ……」

 そりゃ泡を吹いて気絶してましたもの。
 相当な痛みだったのは分かりますよ。

「良かったです、怪我が無くて」

 いや、これは怪我が無いと言えることなのかしら。
 痛みははまだ続いているだろうし……。

「……あの……鎧野郎……は?」

「えと、皮の鎧を持って逃げちゃいました」

「……なん……ですってぇ!?」

 え、そんなに驚く事?
 たかが皮の鎧ですよ。

「……うぐぐぐ……早く……追わないと……あたたた……」

「急に起き上がっちゃだめです!」

「……私の事は……いいから……コレットちゃん! ……あいつを……追って!」

「え、でも……」

 たかが皮の鎧で、どうしてそんな必死なの?

「……早く! ……絶対に……あの鎧を……取り……返すのよ!!」

 よくわからないけど、カルロスさんがここまでいうからには何かあるんだわ。

「わかりましたっ!!」

 だとしたら、絶対に取り戻さないと!
 
「え~と、一体どっちに逃げたのかしら? 右? いや、左?」

 しまった……店を出るとこはまでは見たけど、どの方角に逃げたのか見てなかった。

「あ~……とりあえず……右!」

 で、あってればいいけど!

「あれ? コレットさん、どうしたんスか? そんなに慌てて……」

 マークさんだ。
 そうだ、もしかしたら鎧の人を見ているかも。

「マークさん! アーメットをかぶってゴツイ鎧を着た人がここを通りませんでしたか!?」

「へ? あーそいつならここを走って行ったっスね」

 やった、目撃情報ゲット!

「どこに行きました!?」

「あっちに行ったっスよ」

 マークさんの指をさした方向は……バザーのある場所よね。

「で、鑑定の方はどうだったっスか? お宝だったっスか?」

 そうか、バザーの人込みの中に紛れて逃げるつもりなんだ!
 だとしたらまずい、紛れ込まれたら見つけるのは難しくなっちゃう!

「マークさん! ありがとうございました!」

「ちょっコレットさん!? ……走って行っちゃった、何がどうなっているんだ?」

 そうなる前に絶対に捕まなくちゃ!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【第二部】異世界を先に生きる ~先輩転移者先生との異世界生活記!~

月ノ輪
ファンタジー
―初めて会った時の約束通り、一緒に探しましょう! 2人共無事で帰れる方法を…一度帰っても、この世界に戻ってこられる道を! 平凡な中学生の雪谷さくらは、夏休みに入った帰り道に異世界に転移してしまう。 着いた先は見慣れない景色に囲まれたエルフや魔族達が暮らすファンタジーの世界。 言葉も通じず困り果てていたさくらの元に現れたのは、20年前に同じ世界からやってきた、そして今は『学園』で先生をしている男性“竜崎清人”だった。 さくら、竜崎、そして竜崎に憑りついている謎の霊体ニアロン。彼らを取り巻く教師陣や生徒達をも巻き込んだ、異世界を巡る波瀾万丈な学園生活、その第二弾! ―――――――――― ※当作品は【第二部】となります。第一部から読んでいただけると幸いです。  【第一部URL】《https://www.alphapolis.co.jp/novel/333629063/596296786》 ※また、他サイトとの重複投稿となります。

リーマンショックで社会の底辺に落ちたオレが、国王に転生した異世界で、経済の知識を活かして富国強兵する、冒険コメディ

のらねこま(駒田 朗)
ファンタジー
 リーマンショックで会社が倒産し、コンビニのバイトでなんとか今まで生きながらえてきた俺。いつものように眠りについた俺が目覚めた場所は異世界だった。俺は中世時代の若き国王アルフレッドとして目が覚めたのだ。ここは斜陽国家のアルカナ王国。産業は衰退し、国家財政は火の車。国外では敵対国家による侵略の危機にさらされ、国内では政権転覆を企む貴族から命を狙われる。  目覚めてすぐに俺の目の前に現れたのは、金髪美少女の妹姫キャサリン。天使のような姿に反して、実はとんでもなく騒がしいS属性の妹だった。やがて脳筋女戦士のレイラ、エルフ、すけべなドワーフも登場。そんな連中とバカ騒ぎしつつも、俺は魔法を習得し、内政を立て直し、徐々に無双国家への道を突き進むのだった。

宇宙戦争時代の科学者、異世界へ転生する【創世の大賢者】

赤い獅子舞のチャァ
ファンタジー
主人公、エリー・ナカムラは、3500年代生まれの元アニオタ。 某アニメの時代になっても全身義体とかが無かった事で、自分で開発する事を決意し、気付くと最恐のマッドになって居た。 全身義体になったお陰で寿命から開放されていた彼女は、ちょっとしたウッカリからその人生を全うしてしまう事と成り、気付くと知らない世界へ転生を果たして居た。 自称神との会話内容憶えてねーけど科学知識とアニメ知識をフルに使って異世界を楽しんじゃえ! 宇宙最恐のマッドが異世界を魔改造! 異世界やり過ぎコメディー!

聖女は祖国に未練を持たない。惜しいのは思い出の詰まった家だけです。

彩柚月
ファンタジー
メラニア・アシュリーは聖女。幼少期に両親に先立たれ、伯父夫婦が後見として家に住み着いている。義妹に婚約者の座を奪われ、聖女の任も譲るように迫られるが、断って国を出る。頼った神聖国でアシュリー家の秘密を知る。新たな出会いで前向きになれたので、家はあなたたちに使わせてあげます。 メラニアの価値に気づいた祖国の人達は戻ってきてほしいと懇願するが、お断りします。あ、家も返してください。 ※この作品はフィクションです。作者の創造力が足りないため、現実に似た名称等出てきますが、実在の人物や団体や植物等とは関係ありません。 ※実在の植物の名前が出てきますが、全く無関係です。別物です。 ※しつこいですが、既視感のある設定が出てきますが、実在の全てのものとは名称以外、関連はありません。

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

悪辣王の二人の娘 ~真実を知った聖女は悪を討つ~

朱音ゆうひ
恋愛
「優しいお父様は、もしかしたら悪人かもしれない」 フィロシュネーは、絶対権力を握る父王に無知になるよう育てられたけど、実は賢いお姫様。 そんなフィロシュネーに、父王の寵愛する傭兵サイラスとの婚約が決まる。けれど、サイラスは「あなたを愛することはありません」と言い、フィロシュネーを城の外へとさらってしまう。 「わたくしの国が他国から暗黒郷と呼ばれているですって? 悪い呪術師に支配されているですって? そんなわけないじゃない」 その国の民は『不老不死の預言者が王を選び、選ばれた王は神となる』と信じている。けれど、真実は……。 これは、姫が聖女になって自国の真実を暴いたり、奴隷のように生きてきた男が成り上がっていく物語。 11/30・タイトルを変更しました。(旧題:お姫様にふさわしいのは) ※他サイトにも掲載しています。https://ncode.syosetu.com/n2212id/

F級テイマーは数の暴力で世界を裏から支配する

ゆーき@書籍発売中
ファンタジー
ある日、信号待ちをしていた俺は車にひかれて死んでしまった。 そして、気が付けば異世界で、貴族家の長男に転生していたのだ! 夢にまで見た異世界に胸が躍る――が、5歳の時に受けた”テイム”の祝福が、最低位のF級!? 一縷の望みで測った魔力容量と魔力回路強度も平凡だって!? 勘当されたら、その先どうやって生きてけばいいんだー! と、思っていたのだが…… 「あれ? 俺の”テイム”何かおかしくね?」 ちょくちょくチートな部分があったことで、俺は”強く”なっていくのであった

異世界でゆるゆる生活を満喫す 

葉月ゆな
ファンタジー
辺境伯家の三男坊。数か月前の高熱で前世は日本人だったこと、社会人でブラック企業に勤めていたことを思い出す。どうして亡くなったのかは記憶にない。ただもう前世のように働いて働いて夢も希望もなかった日々は送らない。 もふもふと魔法の世界で楽しく生きる、この生活を絶対死守するのだと誓っている。 家族に助けられ、面倒ごとは優秀な他人に任せる主人公。でも頼られるといやとはいえない。 ざまぁや成り上がりはなく、思いつくままに好きに行動する日常生活ゆるゆるファンタジーライフのご都合主義です。

処理中です...