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9章 二人の秘薬と薬

ケビンの書~秘薬・5~

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 俺もナシャータも得する、ねぇ。
 一体何を思いついたんだろうか。

「何そんな心配そうな顔をしているのじゃ。安心するのじゃ」

 心配そうな顔って……この顔でよくわかったな。

『……で、その考えっていうのはなんだ?』

「それはじゃな、わしがその万能薬を小娘に届け行ってやるのじゃ!」

 ナシャータがこの万能薬をコレットに届けに行く……それはつまり――。

『――はあ!? それってナシャータが街に行くって事か!?』

「小娘にそれを届けに行くのじゃから当たり前じゃろ」

「え~! ごしゅじんさまずるい! ポチもいきたいです!」

『ポチは少し黙っていてくれ!』

 余計話がおかしくなる。

「む~! たべちゃうぞ、エサ!」

 無視だ無視!

『いやいや! さすがにドラゴニュートが街に現れるのはまず過ぎるだろ!』

 ナシャータは意味もなく人間を襲う事はないから、その辺りの心配はないんだが。
 問題なのは、ナシャータを見て街が大騒ぎになってしまうのが目に見えている事。
 何が良い考えが浮かんだのじゃ、だ。全然良くないじゃないか!

「大丈夫じゃ、その辺りの事もちゃ~んと考えてあるのじゃ」

 そう言って自分の頭に指を指しているが……俺の頭の中には【不安】の二文字しかない。
 ろくな考えじゃない気がするし、ナシャータが俺の為に動いてくれるのは嬉しいが、どうにかして行くのを止めた方がよさそうだ。

「ん? なんじゃその目は。あ、わしの考えに不安を感じておるのじゃな!?」

 だから何でわかるんだ、こいつ。

「わかったのじゃ! じゃったら今すぐそれを見せてやるのじゃ。わしに付いてくるのじゃ!」

 よほど頭に来たのか、飛ばずに徒歩で歩き出したよ。
 何処に行く気なんだ?



『おい、一体何を探しているんだ?』

 ナシャータが連れて来たのは遺跡前で開かれていたバザー跡地。
 ぐちゃぐちゃになった店で何かを探しているみたいだが。

「お前の不安は、わしじゃとバレる事じゃろ……じゃから……あった、これこれ」

 ナシャータが出してきたのは布?
 いや、フード付きのロングマントか。

『もしかして、それを羽織るのか?』

「そうじゃ――よっと、どうじゃ? こうすれば人間ぽいじゃろ」

 ナシャータがロングマントを羽織って、見せびらかす様にポーズを取っているが……。

「お~ごしゅじんさま、人みたいです!」

 何処がだよ!

『どうもこうも……尻尾は下から飛び出ているわ、羽のせいで肩から後ろが変に盛り上がっているわで、どっからどう見ても人間じゃねぇよ!』

 頭隠して尻尾と羽隠さずだ。
 やっぱりろくな考えじゃなかった。

「そうか? このくらいはバレないと思うのじゃが」

『ねぇよ……』

 むしろなぜそれでいけると思ったんだ、こいつは。
 それをするなら、ポチの方が人に見えるだろうな……ただポチが行けばもっと大惨事になりそうだが。

「? ポチのかおになにかついているのか?」

『いや別に』

「む~しょうがないのじゃ、あまり使いたくはなかったが……ふん!」

 え? ナシャータの尻尾と肩の出っ張り部分がドンドンと引っ込んでいく。

「ふぅ……これならどうじゃ?」

『嘘だろ、完全に羽と尻尾が無くなった……』

「お~ごしゅじんさますごい」

 さすがに尻尾と羽が無くなれば人にしか見えんな、見える鱗が気になるが。

「無くなってはおらんのじゃ、無理やり小さくしただけじゃ。じゃが、これを維持するのは結構大変なんじゃよな~」

 ドラゴニュートって色々出来てうらやましいな、俺なんて宝箱に入ったり細い隙間を移動したりしか出来んのに。

「でじゃ、わしが届けに行く条件として――」

 ハッ、それを忘れていた!
 ここまでするんだ、一体どんな条件を突き出してくるのか。

「――あの菓子を毎日作るのじゃ!」

 へ? あの菓子って【母】マザーで作った奴だよな。

『……えーと、それだけ?』

「うむ、そうじゃ。あ、朝昼晩の3回じゃぞ!?」

『……』

 条件が軽っ! というか行く気満々だったのは菓子が食いたかったからかよ! どんだけ食い意地の張った奴なんだ……。
 しかし、あの姿なら街に行っても問題はないだろうし、菓子なんていくらでも作れる……よし、決めた。

『……わかった、条件を飲もう』

「交渉成立じゃな」

 菓子でだけでめっちゃ笑顔。
 これを見ると本当に子供みたいだな。

『ただロングマントを羽織っただけじゃ鱗の部分が見えてしまう、その下にも何か着ろ。後、万能薬を入れる袋と、割れない様に保護もしたいから布を何枚か拾ってくれ』

「了解なのじゃ」

 にしても菓子だけでここまで動くなんて、それほどあの菓子はうまいのだろうか。
 もしかして、中毒になる様な変な物でも入ってしまったのだろうか?

『……うん、考えるのはよそう』

「何がじゃ? ほれ、袋はこれでいいか?」

『いや何でもない。ふむ、ショルダーバッグか』

 大きさも問題はないな。
 これの中に万能薬と回りを布で覆ってと。

『これなら大丈夫だろ。それじゃよろしく頼むぞ』

「わかったのじゃ。それじゃ行ってくるのじゃ~」

「ごしゅじんさま~いってらっしゃ~い!」

『しかし、本当に大丈夫かな……』

 子供に初めてのお使いをさせる親って、こんな気分なんだろうか。



 ◇◆アース歴200年 6月19日・夜◇◆

『遅い……一体ナシャータは何をしているんだ?』

 もう夜になってしまったぞ。
 まさか、ばれて退治された?
 いや、ナシャータがそう簡単にやられるわけがないか。

「――くんくん。このにおいは、ごしゅじんさまがもどってきた!」

 良かった、無事だったか。

「……ただいまなのじゃ」

「おかえりなさい~!」

『おい、遅かったじゃ……ってどうした?』

 何か疲れている感じだな。

「色々あって疲れたのじゃ……じゃから今日はもう寝かせてほしい……あ、薬は小娘に届いているはずじゃから安心するのじゃ……それじゃお休み……」

『えっ? ちょっ』

 ――ドサッ

「すぴ~……」

 倒れ込んで寝てしまった。

「ごしゅじんさま、どうしたんだろう?」

『さあ……?』

 わけがわからん。
 それに届いているはずって、どういう事なんだよ!?
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