上 下
79 / 178
8章 二人の不調と乗っ取り

コレットの書~不調・3~

しおりを挟む
 ◇◆アース歴200年 6月18日・昼◇◆

「はぁ……はぁ……」

 おかしい、遺跡に着くまでにもう体がしんどい。
 いつもこのくらいは平気なのに……もしかして、漢方薬の効果がもう切れちゃったのかしら?

「ん? おい、コレット。大丈夫か? 何だか息が上がっている様に見えるが」

 どうしよう、グレイさんに言った方がいいかしら。
 う~ん……でも、もうちょっとで遺跡に着くし。
 
「あ~……いえ。大丈夫です」

「そうか? ならいいんだが……無理はするなよ?」

「はい」

 うん、ここまで来たら今更引き返せないわ。
 それに漢方薬は袋に入っているし、後で飲めば問題はないはず。
 気合よ! 気合! ファイト私!



「ふぅ~……」

 やっと遺跡に着いた~こんなに疲れた思いをしたのは、あのゴミをつけて遺跡に以来ね。
 それにしても……昨日同様、遺跡の前はすごい光景が広がっている。

「おいおい、何じゃこりゃ!? 昨日一体何があったんだよ!」

 昨日は露店と人で賑わっていたけど、今は違う。
 まるで大嵐の後みたいに、露店がめちゃくちゃに散らばっちゃってる……。

「ありゃー俺も遺跡内から逃げたんで、入り口付近がこんなになっていたなんてびっくりっス」

 あの棒立ちしている、ミスリルゴーレムが外に出て来て暴れたみたいね。
 また動いていないみたいだけど……近付いても大丈夫なのかな?

「遺跡の入り口に露店を開いていたのか? 本当にあいつ等ときたら……」

 あ、そこにぼったくりおじさんの売っていた剣が落ちている。
 本当に一品の剣なら、おじさんがあんな風に置いて逃げるわけがない……という事はやっぱり普通の剣だったみたいね、予想通りだわ。

「まぁそんな事はどうでもいいか……問題なのは、あのミスリルゴーレムだしな。視界に入る範囲では3体みたいだな。今は動いてはいないが……」

「また動き出しますかね?」

「俺はもう追われたくないっス……」

 よほど怖かったのか、マークさんが珍しく声のトーンが低い。

「うーん、それはわからんな……仕方ない、2人ともここで待っていろ。俺があのミスリルゴーレムを見てくる」

「わかりました」

「うっス」

 グレイさんがミスリルゴーレムの背後から様子を伺いつつ、近寄って行っている。
 すごいな~……いくら背後からといっても、動き出したらどうしようって私は躊躇しちゃいそう。

「完全に背後をとったっスね……あれ? 何か先輩の様子がおかしくないっスか?」

「そうですね、何かに気が付いたような……えっ! 普通に正面へ回った!? そんな事をしたら――って、大丈夫そう?」

 あのミスリルゴーレムは動き出す気配がないわね。

「あ、今度は2体目の方に行くみたいっス」

「さっきと違って、全然慎重さがないですね」

 普通に2体目のミスリルゴーレムへ歩いて行っちゃった。
 ――で着いた早々、覗き込んでいる……あのミスリルゴーレムも動き出す気配ないみたいね。

「あれ? もう3体目の方に行くみたいっスね」

 2体目を覗き込んだだけで、3体目へ走って行っている。
 一体あのミスリルゴーレム達に何が起こっているのかしら?



 結局、3体目も覗き込んだだけで終わり。
 それからグレイさんが何か考えている。

「どうしたんスかね?」

「私には、さっぱりわからないです」

 とりあえず、いつまで待機をしていればいいのやら……。

「――おーい! こっちに来ても大丈夫だぞ!」

 あ、グレイさんが呼んでいる。
 どうやら行ってもいいみたいね。

「お、やっとっスか。コレットさん行きましょうっス」

「そうですね」

 とはいえ、本当に安全なのかな。
 私達が近付いたらいきなり動き出す……とかないよ、ね? ちょっとそこが心配なんだけど。

「ん? コレット、警戒しなくても大丈夫だ。これは絶対に動かないぞ」

「え? あははは、つい……。でも、何で絶対に動かないと?」

 何ではっきり言い切れるんだろう。
 前はよくわからないってあやふやだったのに。

「それは、こいつを見ればわかる」

 なんだろう? グレイさんがミスリルゴーレムの胸辺りに指をしているけど……あっ。

「このミスリルゴーレム……コアがない!?」

 穴が空いてコアがなくなっている!
 あの魔晶石の部屋で、壁に埋まってコアがなかったミスリルゴーレムみたいにコアの辺りがくり抜かれている。

「そうだ、残りの2体も同様にコアがない」

「なるほど、だから絶対に動かないと言っていたんですね……あれ? でも、コアって簡単に取れなくて、取れるとしたら……ええっ!? もしかしてドラゴニュートが戻って来ているんですか!?」

 だとすれば、前の調査はなんだったのよ……。

「んーそれも考えられるが……こいつらは外にいたからな。見ていたか話を聞いたかで、コア狙いの奴がここに来て、また止まった所を特殊な道具を使ってコアを取り出し持っていった可能性もある、な」

 え? 何、そのすごい道具!
 こんなに硬いのに穴が開けられるの!?
 それ、すごく見てみたいんですけど!

「ん? 何で俺を見るんスか? ちょっ俺は知らないっスよ!?」

「こればかりはどっちなのか分からないが――」

「いや、本当に俺は知らないっスよ!!」

「ここは最悪の事を考えてドラゴニュートに警戒するべきなんだが……さすがに今日は羅針盤を持って来ていないしな」

「それは仕方のない事だと思いますけど……」

 今日は全然違う事出来ているんだもの。
 ただ、私的には後者であってほしいな……ドラゴニュートが戻って来ている方が嫌だ。

「まぁそうだな……遺跡の中は十分に気を付けて行こう」

「俺の話を聞いて下さいっス!」

 相変わらずマークさんの扱いが酷いな~グレイさんは……。
 あ、しまった漢方薬を呑むのを忘れていた。さっさと飲んで2人の後を追わないと……って、あれ? 中身が異様に少ない、これだけじゃ全然効果がないじゃない!

「何で!? おかしいな、今朝飲んだ時はちゃんと……ん? 今朝? ――ああっ!」

 そうだ、今朝はいつもの倍を飲んだ。
 だけど、その飲んだ分を補充していない。
 補充していないから、その分の量があるわけがない!

「――私の馬鹿ぁああああああああああ!!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界二度目のおっさん、どう考えても高校生勇者より強い

八神 凪
ファンタジー
   旧題:久しぶりに異世界召喚に巻き込まれたおっさんの俺は、どう考えても一緒に召喚された勇者候補よりも強い  【第二回ファンタジーカップ大賞 編集部賞受賞! 書籍化します!】  高柳 陸はどこにでもいるサラリーマン。    満員電車に揺られて上司にどやされ、取引先には愛想笑い。  彼女も居ないごく普通の男である。  そんな彼が定時で帰宅しているある日、どこかの飲み屋で一杯飲むかと考えていた。  繁華街へ繰り出す陸。  まだ時間が早いので学生が賑わっているなと懐かしさに目を細めている時、それは起きた。  陸の前を歩いていた男女の高校生の足元に紫色の魔法陣が出現した。  まずい、と思ったが少し足が入っていた陸は魔法陣に吸い込まれるように引きずられていく。  魔法陣の中心で困惑する男女の高校生と陸。そして眼鏡をかけた女子高生が中心へ近づいた瞬間、目の前が真っ白に包まれる。  次に目が覚めた時、男女の高校生と眼鏡の女子高生、そして陸の目の前には中世のお姫様のような恰好をした女性が両手を組んで声を上げる。  「異世界の勇者様、どうかこの国を助けてください」と。  困惑する高校生に自分はこの国の姫でここが剣と魔法の世界であること、魔王と呼ばれる存在が世界を闇に包もうとしていて隣国がそれに乗じて我が国に攻めてこようとしていると説明をする。    元の世界に戻る方法は魔王を倒すしかないといい、高校生二人は渋々了承。  なにがなんだか分からない眼鏡の女子高生と陸を見た姫はにこやかに口を開く。  『あなた達はなんですか? 自分が召喚したのは二人だけなのに』  そう言い放つと城から追い出そうとする姫。    そこで男女の高校生は残った女生徒は幼馴染だと言い、自分と一緒に行こうと提案。  残された陸は慣れた感じで城を出て行くことに決めた。  「さて、久しぶりの異世界だが……前と違う世界みたいだな」  陸はしがないただのサラリーマン。  しかしその実態は過去に異世界へ旅立ったことのある経歴を持つ男だった。  今度も魔王がいるのかとため息を吐きながら、陸は以前手に入れた力を駆使し異世界へと足を踏み出す――

田舎貴族の学園無双~普通にしてるだけなのに、次々と慕われることに~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
田舎貴族であるユウマ-バルムンクは、十五歳を迎え王都にある貴族学校に通うことになった。 最強の師匠達に鍛えられ、田舎から出てきた彼は知らない。 自分の力が、王都にいる同世代の中で抜きん出ていることを。 そして、その価値観がずれているということも。 これは自分にとって普通の行動をしているのに、いつの間にかモテモテになったり、次々と降りかかる問題を平和?的に解決していく少年の学園無双物語である。 ※ 極端なざまぁや寝取られはなしてす。 基本ほのぼのやラブコメ、時に戦闘などをします。

異世界じゃスローライフはままならない~聖獣の主人は島育ち~

夏柿シン
ファンタジー
新作≪最弱な彼らに祝福を〜不遇職で導く精霊のリヴァイバル〜≫がwebにて連載開始 【小説第1〜5巻/コミックス第3巻発売中】  海外よりも遠いと言われる日本の小さな離島。  そんな島で愛犬と静かに暮らしていた青年は事故で命を落としてしまう。  死後に彼の前に現れた神様はこう告げた。 「ごめん! 手違いで地球に生まれちゃってた!」  彼は元々異世界で輪廻する魂だった。  異世界でもスローライフ満喫予定の彼の元に現れたのは聖獣になった愛犬。  彼の規格外の力を世界はほっといてくれなかった。

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

蒼天のグリモワール 〜最強のプリンセス・エリン〜

雪月風花
ファンタジー
 この世界には、悪魔の書と呼ばれる魔導書が存在する。書は選ばれし者の前に現れ所有者に人智を超えた強大な力を与えるが、同時に破滅をもたらすとも言われている。 遥か五百年の昔。天空の王国・イーシュファルトにおいて、王兄の息子レオンハルトが王国秘蔵の魔導書『蒼天のグリモワール』を盗み出した。強大な力を手にしたレオンハルトは王国に石化の呪いをかけて国を丸ごと石化させると、忽然と姿を消した。こうしてイーシュファルトは地上の人々から忘れ去られ、その歴史から姿を消すこととなった。  そして五百年の後。突如、王国の姫・エリン=イーシュファルトの石化が解ける。レオンハルトへの復讐と王国の再起を誓ったエリンは王国最奥部の秘密の宝物庫に赴き、そこに隠された悪魔の書を手にする。それこそがレオンハルトの持って行った儀式用の写本ではない、悪魔の王が封じられた本物の『蒼天のグリモワール』だったのだ。  王国イチの超絶美少女にして武芸も魔法も超一流、悪魔と契約し、絶大な力を入手したエリンの復讐の旅が今始まる。

前世で家族に恵まれなかった俺、今世では優しい家族に囲まれる 俺だけが使える氷魔法で異世界無双

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
家族や恋人もいなく、孤独に過ごしていた俺は、ある日自宅で倒れ、気がつくと異世界転生をしていた。 神からの定番の啓示などもなく、戸惑いながらも優しい家族の元で過ごせたのは良かったが……。 どうやら、食料事情がよくないらしい。 俺自身が美味しいものを食べたいし、大事な家族のために何とかしないと! そう思ったアレスは、あの手この手を使って行動を開始するのだった。 これは孤独だった者が家族のために奮闘したり、時に冒険に出たり、飯テロしたり、もふもふしたりと……ある意味で好き勝手に生きる物語。 しかし、それが意味するところは……。

【コミカライズ連載中!】私を追放したことを後悔してもらおう~父上は領地発展が私のポーションのお陰と知らないらしい~

ヒツキノドカ
ファンタジー
2022.4.1より書籍1巻発売! 2023.7.26より2巻発売中です! 2024.3.21よりコミカライズ連載がスタートしております。漫画を担当してくださったのは『ぽんこつ陰陽師あやかし縁起』の野山かける先生! ぜひチェックしてみてください! ▽  伯爵令嬢アリシアは、魔法薬(ポーション)研究が何より好きな『研究令嬢』だった。  社交は苦手だったが、それでも領地発展の役に立とうと領民に喜ばれるポーション作りを日々頑張っていたのだ。  しかし―― 「アリシア。伯爵令嬢でありながら部屋に閉じこもってばかりいるお前はこの家にふさわしくない。よってこの領地から追放する。即刻出て行け!」  そんなアリシアの気持ちは理解されず、父親に領地を追い出されてしまう。  アリシアの父親は知らなかったのだ。たった数年で大発展を遂げた彼の領地は、すべてアリシアが大量生産していた数々のポーションのお陰だったことを。  アリシアが【調合EX】――大陸全体を見渡しても二人といない超レアスキルの持ち主だったことを。  追放されたアリシアは隣領に向かい、ポーション作りの腕を活かして大金を稼いだり困っている人を助けたりと認められていく。  それとは逆に、元いた領地はアリシアがいなくなった影響で次第に落ちぶれていくのだった。 ーーーーーー ーーー ※閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。励みになります。 ※2020.8.31 お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝! ※2020.9.8 多忙につき感想返信はランダムとさせていただきます。ご了承いただければと……! ※書籍化に伴う改稿により、アリシアの口調が連載版と書籍で変わっています。もしかしたら違和感があるかもしれませんが、「そういう世界線もあったんだなあ」と温かく見てくださると嬉しいです。 ※2023.6.8追記 アリシアの口調を書籍版に合わせました。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

処理中です...