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第7章 双子とEランク冒険者

1・双子の魔術師

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 リトーレス大陸西部、ヴァーリ地方にあるカイナ村。
 村人は100人余りの小さくのどか村だ。
 そんな村で、お揃いのタボダボの黒いローブを着た子供が2人走り回っていた。

「ほら、シュウ! はやくはやく!」

 両耳の下で結んだ青紫色の髪を揺らしながら、自分の後ろを走る少年に向かって少女が声をかける。

「まっまってっよーユウー!」

 青紫色の髪を頭の後ろで結んで動物の尻尾の様に揺らしながら、少年は前を走る少女を追いかける。

 少女はユウ・バーンズ、少年はシュウ・バーンズ。
 2人は同じ青紫色の髪で、同じ水色の瞳を持ち、同じ顔をしている姉弟……双子だ。
 見分け方として性別を除けば、ユウは右目の下に泣きボクロ、シュウは左目の下に泣きボクロがある。
 しかし、それでもよく間違えられてしまうのが2人の困っている点だった。

「ついた! ここ!」
 
 ユウが村の外れにある森の奥に向かって指をさした。
 遅れてやってきたシュウは息を整え、森の奥を見る。

「……まっくらで、なにもみえないよ? ほんとうにみたの?」

 シュウはユウの方へ顔を向ける。

「ほんとうにみたんだもん! もりのおくから、みどりいろのちっちゃなひかりを! あれはぜったいにホタルだもん!」

「でも、ホタルってよるにひかるんじゃ……」

「だから、すごいホタルなんだって! つかまえておとうさん、おかあさんにみせるんの!」

 シュウは困った顔をしつつ、もう一度森の奥を見る。
 すると、森の奥で緑色の光がぽっと現れた。

「「あっ!」」

 2人が同時に声を出すと、緑色の光は森の奥に向かって動き出した。

「あっ! まって!」

 ユウが森の中へ入ろうと駆け出す。
 それをシュウが手を掴み慌てて止めた。

「おかあさんが、もりのなかにはいっちゃだめっていってたでしょ!」

「そうだけど、このままだとにげちゃう! ちょっとくらいだいじょうぶだよ!」

「でも……」

「おかあさんとおとうさんのよろこぶかお、みたくないの!?」

「う……それは……みたい……」

「だったらてをはなして!」

 ユウはシュウの手を振り払い、森の中へと入って行く。

「ううう……まってよー」

 その後をシュウが追いかけた。



 2人は薄暗い森の中を進んだ。

「む~……みあたらないな~……」

「ホタルって、そんなにはやくうごいたっけ?」

「だからすごいホタルなんだってば…………あっ! みつけた!」

 ユウが緑色の光に向かって駆け出した。
 が、その足はすぐに止まる。

「……へ……?」

 森の暗闇から浮かんだ、ユウの倍以上の大きさがある猫の様なシルエット。
 全身が漆黒の豹種モンスター、ブラックパンサーがユウを睨みつけていた。
 ホタルの光だと思っていたのはブラックパンサーの目だった。

「――きゃああああああああああああああ!」

 ブラックパンサーの姿を見たユウが悲鳴をあげる。

『シャアアアアア!』

 ユウの悲鳴に反応したのか、獲物を見つけたからなのか。
 ブラックパンサーが鳴きながらユウに向かって牙を向ける。

「ユウ!」

 シュウがユウを押し倒し、ブラックパンサーの牙を回避する。
 しかしブラックパンサーはすぐに体勢を立て直し、身を低くして襲うタイミングをうかがう。

「あ……あわわ……」

 ユウとシュウは怯えながら後退りをする。

『グルルルル……』

「っ! あ、あっちいけ!!」

 ユウが小石を拾い、ブラックパンサーに向かって投げつけた。
 小石はこつんとブラックパンサーの頭に当たる。

『グルルルル!』

 ブラックパンサーは小石が当たっても、うなり声を出し続け威嚇する。

「ユ、ユウなにしてるの!!」

「だって! だってええ!」

 2人は抱き合いながら、恐怖のあまり大粒の涙を流した。

『……シャアアアアアアアアアア!』

 ブラックパンサーが2人に向かって飛び掛かる。

「「わあああああああああああああ!」」

 2人が叫び声を上げる。
 その瞬間、ブラックパンサーの目の前に火の玉が現れ爆発した。

『ギャンッ!』

 ブラックパンサーは爆発で後ろへと吹き飛び、木に体を打ち付けて動かなくなった。

「……なに……いまの……?」

「……わ、わかんない……」

 突然の事に2人が茫然とする。
 すると、茂みからもう1匹のブラックパンサーが顔を出した。

「ユ、ユウ! まだいる!」

「そ、そんな……」

『シャアアアアアアアアアアア!』

 ブラックパンサーが飛び掛かる。
 今度こそ駄目だと2人は目を強く瞑った。

「グランドウォール!!」

 女性の声と共に、ユウとシュウの前の地面が盛り上がり壁が出来る。
 ブラックパンサーはその壁に弾き飛ばされた。

「「……え?」」

「ユウ! シュウ! 怪我はない!?」

 2人は声のした方を見る。
 そこには肩より長い、濃い紫色の髪の女性が木の杖を持ち立っていた。

「「おかあさん!!」

「2人とも動かないで! サンダーストライク!!」

 2人の母親カミラ・バーンズの目の前に、青く光る電気の球が出現する。
 そして、電気の球はブラックパンサーに向かって高速で撃ち放たれた。

『――ギャンッ!』

 ブラックパンサーの全身に閃光が走り、短い悲鳴と共にその場に倒れ込んだ。

「「……」」

「ふぅ……もう大丈夫よ」

「「うわああああああん!!! おかあさあああああああん!」」

 2人はカミラに向かって走り出す。
 そして、足にしがみ付いて泣きじゃくった。

「まったく……あれほど森の中に入っちゃ駄目って言ったじゃないの!」

「「ご、ごめんんあざいいい!!」」

「……でも、無事で良かったわ。ところで、さっき大きな爆発音が聞こえたけど……」

「わっ……わかんない……いきなりめのまえで、ばくはつしたの……」

「爆発?」

 ユウの言葉にカミラが眉を顰める。

「あっ……あれ……」

 シュウが爆発で吹き飛ばされたブラックパンサーに指をさした。

「あれは、爆裂魔法の跡……え、この子たちがやったの!? まだ3歳なのに……いえ、蛙の子は蛙……か。仕方ない、かなり早いけど魔法の特訓をしなくちゃいけないみたいだね」

 カミラは2人の頭をポンポンと軽く叩き、村へと戻った。



 そして、10年の月日が経った。

「フレアボム!」

 ユウが叫ぶと、的にしていた石の上の空中で大爆発が起きる。

「もうなんでぇ!? また外れた!」

「……ユウは持っている魔力が高いけど、魔力の扱いが下手……そして」

「フレアボム!」

 シュウが叫ぶと、的にしていた石で小さな爆発が起き小さな破片が飛び散った。

「……シュウは魔力の扱いがうまいけど、持っている魔力が低い。綺麗に2人で能力を分け合っちゃったわね」

 カミラは頭をポリポリとかきながら、ポケットから紙を取り出す。

「う~ん……これはどうしたもんか……」

 カミラが持っていた紙。
 そこには冒険者についての詳細が書かれていた。
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