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第5章 トレジャーハンターとEランク冒険者

4・未登録の遺跡

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 リトーレス大陸、中部地方。
 ルノシラ王国付近にある大きく出っ張った丘。
 その丘の前にヒトリ、シーラ、フランク達が立っていた。

「で、あの穴から中に入れるわけかい?」

「あっ……はい……そ、そうです……」

 シーラの視線の先には、人1人が入れるほどの横穴が空いていた。

「どれどれ?」

 フランクは横穴に近づき、横穴の中に頭を入れて左右を見る。

「…………モンスターの気配は無し……んで、中は人工的に作られた階段で……右が昇りで左が降りか……どうやらこの穴は階段の壁部分が劣化して崩れたみてぇだな。よっと」

 一通り見回ったのち、慎重に穴の中へと入って行った。

「ぱっと見は丘だが、隠されていた遺跡ってわけか。ん~! いいねいいね」

 シーラは興奮気味に目を輝かせた。
 その様子を見ていたヒトリは少しずつ後退りをし。

「あっ……じゃあボ、ボクはこれで帰りますね……お、お気をつけて……!」

 一定の距離を取った後、シーラに会釈をして立ち去ろうとした。
 ……が、シーラはすぐさま駆け出してヒトリの肩を掴んで静止させる。

「何言ってんだい、あんたも行くんだよ」

「うえっ!? あっ……あの……えと……ボ、ボクは遠慮しておき……」

「遠慮しなくていいさ! ほらほら!」

 シーラはヒトリの背中を強引に押し、横穴の前へと連れて行った。

「ちょ、ちょっと! シーラさん! ボボクは――おわっ!?」

 ヒトリは必死に逃げようとするも、フランクに腕を捕まれ強引に遺跡の中へと引き摺り込まれた。

「よっしゃ! それじゃあ探索開始だよ!」

 シーラは続いて穴の中に入り、号令をかける。

「おうよ!」

 フランクはその号令に勢いよく手を上げた。
 その手に腕を掴まれているヒトリの手も自動的に上がってしまう。
 決して上げたくはなかったが、もはやどうする事も出来ない。

「…………お、お~…………はあ……」

 逃げられないと悟ったヒトリはか細い声をあげるしかなかった。

 ランタンに灯を入れ、3人は階段を降って行く。
 階段を降り切りとそこには広いホールが広がっており、目の前には1本の通路が見えていた。

「思ったよりしっかりと作られているねぇ……この感じだと、文献とか言い伝えで残っていてもおかしくはないはずなんだが……」

 シーラが自分の顎に手を当てた。

「それがねぇから未登録の遺跡、隠し場所ってわけだ。ヒトリ、お前はとんでもない物を見つけてしまったかもな!」

 フランクは笑いながらバシバシとヒトリの肩を叩く。

「痛い痛いです! ……す、すみません……見つけてしまってすみません!」

 反射的に謝るヒトリ。
 そんな様子にフランクはさらに声上げて笑った。

「がっははは! 謝るならオレ達じゃなくて隠した奴等にだな! んじゃあ進みますか。姐さん、マッピングを頼んだぜ」

「任せな」

 シーラは紙とペンを取り出す。
 3人は慎重に通路を進み始めた。



 遺跡内は1本の長い通路から左右に枝分かれするようにいくつもの部屋があり、まるでアリの巣のような構造だった。
 
「えーとぉ……これで何部屋目だ?」

 うんざりした様子のフランク。

「14部屋目だねぇ」

 シーラもまたフランクと同じようにうんざりしていた。
 どの部屋も、大小はあれど物もモンスターも仕掛けも無い長方形の部屋ばかり。
 トレジャーハンターの2人からすれば、刺激が全く無い探検ははかなり萎える。

「そろそろ何か出て来てほしいぜ……」

 ぼやきつつ扉を開け、中を覗いたフランクは息をのんだ。

「……なんだ……この部屋……」

 フランクの後ろからヒトリとシーラも覗き込む。

「わわ……」

「へぇ~こりゃまた……」

 3人の目にした部屋は今まで見て来た部屋とは違い、壁と床に文様が刻まれていた。
 誰が見ても、明らかにこの部屋は異質だった。

「……こりゃあ何かあるよなぁ」

「だねぇ……それじゃあアタイは床を調べるから、フランクとヒトリは壁を頼んだよ」

「おう!」

「あっ……は、はい……」

 3人は部屋の中に入り、手分けして調べ始めた。
 しかし、時間をかけても何も見つける事は出来なかった。

「……おっかしいねぇ。何もないなんて……」

 シーラは両手を組み、とがった耳を上下にピコピコと動かしながら首を傾げた。

「うーん、絶対何かあると思ったんだが…………あっ」

 フランクが何かを見つけて固まった。

「ん? 一体どうし……あっ」

 フランクの視線を追ったシーラも同様に固まってしまった。
 2人が見た物、それは天井から垂れ下がったボロボロの1本のロープだった。

「…………まさか……だよね?」

「……とりあえず、引っ張ってみるか」

 フランクはデジャブを感じつつ、垂れ下がったロープを握って下に引いてみる。
 すると天井裏からガコンと何かが動く音がした。
 そして、先ほどまで調べていた正面の壁がガタガタと動き始めた。

「嘘でしょ……こんな事ある?」

「あるから動い……って、くさっ!!」

 壁が上に上がり始めると同時に3人は鼻を押さえた。
 開いた隙間から悪臭が流れ込んで来たからだ。

「な、なんだい! この臭いは!?」

「さぁな……ただ、嫌な臭いなのは確かだ!」

 3人は何が出て来てもいいように、それぞれ戦闘態勢をとった。
 そして壁が天井付近上がりきり周辺は静寂に包まれた。

「……」

 フランクは自分が先に行くと2人に目くばせし、注意深く開いた壁へと近づいて中を覗き込む。

「――うげっ! なんじゃこれ!」

 フランクの叫びにヒトリとシーラも傍へと近付き、隙間から覗き込んだ。

「……ま、魔法陣……?」

「……何かの儀式の跡……っぽいねぇ」

 隠し部屋は少し小さな正方形の形をしており、部屋の中央には血で描かれたと思われるどす黒い赤色の大きい魔法陣があった。
 また、その魔法陣の中心には動物らしき頭蓋骨が3個置かれていた。

 そして、魔法陣を囲むように少し膨らんいる状態のボロボロで薄汚れた白いローブが10枚置かれている。
 ローブの中は確認するまでもなく、それは人だとすぐに分かった。

「……よし、オレが行くから2人はそこに待機をしていてくれ」

「わかった」

「あっ……お、お気をつけて……」

 フランクはゆっくりと魔法陣へと近づいて行った。
 そして、しゃがんでジっと魔法陣を見つめる。

「……うーん……オレぁ魔術は疎いから何の魔法陣かわからんが、この感じだとろくなもんじゃ……ん? なんだありゃ……?」

 魔法陣の中心に置かれた頭蓋骨の隙間に、こぶし大ほどの青白く光る石があった。

「……見た事がない石だな」

 フランクが青白く光る石を取ろうと手を伸ばした、その瞬間――。

「――ぎゃっ!!」

 フランクの目の前を叫びと一緒に吹っ飛んで来たヒトリが通過し、壁に激突した。

「――ガハッ!」

 そして、口から血を吐き地面に倒れ込んだ。

「――なっなんだ!? っヒトリ!? 一体どうした!」

 ヒトリに駆け寄ろうと、フランクが立ち上がった。

「うぐっ!」

 今度はシーラの苦しそうな声が聞こえ、フランクは後ろを振り返る。

「だ、誰だお前は……」

 フランクの目の前に、真黒なマントを羽織りフードを深々と被った背の高い人物が、倒れているシーラの背中を手に持っているハルバードの柄で押し付けて立っていた。
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