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第3章 少年少女とEランク冒険者

4・襲撃者

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 森の中に入ると、ミシェルはリュックを降ろし卵を取り出そうとした。

「あっ……す、すみません……森を出るまで、リュックに入れたままでお願いできますか?」

 それを見たヒトリは、申し訳なさそうにミシェルに声をかけた。

「え? 駄目ですか?」

「あっ……い、いざって時の為に動きやすい格好の方がいいと思いまして……すみません……」

「ミシェル、俺もその方がいいと思う。ここはヒトリさんの言う事を聞くべきだ」

「む~……わかったよ……」

 ミシェルは頬を膨らませながらリュックを背中ではなく前に背負う。
 ちょっとした抵抗心だ。
 すると、森の中から女性の声が聞こえてきた。

「あれ? その真っ黒い後ろ姿は、もしかしてヒトリさんですか?」

 急に名前を呼ばれ、ヒトリはビクリと身体を震わせる。
 そして、恐る恐る声がする方に顔を向けた。

「やっぱりそうだ。お久しぶりです」

 そこには猫耳をピコピコと動かしてる猫の獣人、メレディスの姿があった。
 そして隣にはメレディスと同じ白銀の鎧、穂にグリフォンの紋章が入っている槍を持った体格の良い大きな男の騎士が立っていた。
 身長は2mほどあり、背中には蝙蝠の翼、腰からはトカゲの様な尻尾、頭には2本の角が生えている種族、竜人だ。

「あっ……メ、メレディスさん……お久しぶり……です……」

 ヒトリは明後日の方向を見ながら挨拶を返した。

「メレディス。知り合いなのか?」

 竜人がメレディスに尋ねた。

「はい、この前話した壁を走るEランクの冒険者の方です」

「ああ、あの話の者か」

 竜人は黄色い爬虫類の瞳でジロジロとヒトリを見る。
 ヒトリは恥ずかしそうに顔を伏せた。

「……この者がなぁ……信じられんぞ」

「まぁそうなるでしょうね……正直アタシも同じこと言われたら、同じ反応すると思います」

 メレディスは竜人の言葉に苦笑いをするしかなかった。

「あの~……お2人は王国騎士の方ですよね?」

 ミシェルはおずおずと2人に尋ねた。

「はい、そうです。アタシは王国騎士団所属のメレディスです。そして、こちらは先輩の」

「バァルだ。よろしくな」

 バァルが右手を差し出し、ミシェルが握り返す。

「ミシェルといいます。で、こっちはトーマ」

「ども……」

 トーマが軽く会釈をする。

「あの~王国騎士が、どうしてこの森にいるんですか?」

 ミシェルの質問にバァルが答えた。

「定期の見回りだ、森の奥は王国騎士か冒険者しか入れないからな。まったく許可を取らず入ってくる馬鹿者がいるせいで、こっちはいい迷惑だ」

「「「……」」」

 バァルの言葉に3人は無言になる。
 許可書はあるが、ミシェルとトーマに関すると……。

「で、君たちの方こそ何をしに? 冒険者には見えんが……」

「あ、あたし達は冒険者をやってみたいという気持ちがあるんですけど不安もあったんです。で、その事をギルドの人に話したら、じゃあ1度体験してみればどうかという案が出まして彼女について来たんです!」

 関所の兵に話した内容を、早口で全く同じにミシェルが説明する。

「あっ……これ、依頼書と許可書……です」

 話し終わるタイミングで、ヒトリは依頼書と許可書を出してメレディスとバァルに手渡した。

「……なるほど、薬草の採取の体験か」

「許可書もありますし、採取程度なら何も問題はなさそうですね」

「そうだな。まあなんにせよ、十分に気を付ける様に」

 バァルは依頼書と許可書をヒトリに返した。

「よし、見回りに戻るぞ」

「あ、はい。それではまた」

 メレディスとバァルは森の奥へと入って行った。

「あ~なんか緊張した」

 ミシェルが息を吐きつつしゃがみ込む。

「だな……あの竜人、厳しそうだから叱られると思ったぜ」

「そ、そうですね、ボクもちょっと焦っちゃいました……じ、じゃあ気を取り直して薬草を探しましょうか」

「は~い」

「うす」

 3人も薬草を探す為に森の中へと向かった。



 3人で分かれて探すと薬草はすぐに見つかり、依頼はすんなり完了した。
 ヒトリは道具袋の中にまとめた薬草を入れ込む。

「これでよし……つっ次は虹花ですね」

「待ってました!」

 ヒトリの言葉にミシェルが喜ぶ。

「あっ……さ咲くのは奥なので、ついて来て下さい」

 歩き出したヒトリに、トーマとミシェルは後をついて行った。

「この森でしか見れないから楽しみだな~」

「どうして、この森だけなんだ?」

「えと、それはね……」

「――っ!」

 いきなりヒトリの足が止まる。
 危うくミシェルはヒトリにぶつかりそうになった。

「わっと! どうかし……」

 ミシェルの言葉は甲高い金属音でかき消された。
 と同時に太い1本の鉄串が地面に突き刺さる。

「……へっ?」

 ミシェルが何が起きたのかわからず、呆然と立ち尽くす。

「っ!」

 ヒトリの右手にはナイフが握りしめられていた。
 とんで来た鉄串をナイフで弾いたのだ。

「……よく反応出来たな」

 男性とも女性ともとれる中性的な声が聞こえ、森の陰から5人のヒトが姿を現した。
 全員、黒いマントを羽織りフードを深々と被っている。
 そして両目の空いた真っ白な仮面をつけていた。

「【影】!!」

「えっ!?」

「こいつ等が!?」

 トーマはヒトリの言葉に剣を抜き、戦闘態勢をとった。

「我々にレッドワイバーンの卵を渡せ。そうすれば命までは獲らん」

 【影】の1人が右手を前に出す。

「……こ、こんな物をいきなり投げて来て言う言葉ですか?」

 ヒトリは地面に刺さった鉄串を引き抜き、これ見よがしに振る。
 【影】達は何も言わず、ただただ3人を見つめていた。
 ヒトリは道具袋からデフォルメのドクロの仮面を取り出し、自分の顔につける。

「……2人ともよく聞いて下さい」

「「っ」」

 いきなり雰囲気の変わったヒトリに、トーマとミシェルが一瞬ビクリとする。

「出来る限りボクが奴等の注意を惹きます。その間に、2人は全速力で関所まで逃げて下さい」

「逃げるって……いや、俺達も戦います! 腕には自信ありますし!」

 トーマの言葉にヒトリは頭を振った。

「腕とか関係ありません、奴らは『なんでもありのプロ』ですから。お願いします、言う事を聞いて下さい」

 冷静な口調のヒトリに、トーマは少し考えたのち剣を鞘に戻した。

「……わかりました。ヒトリさんの言う通りにします」

 そして、トーマがミシェルの腕を掴んだ。

「トーマ!? ちょっと! そんな野蛮な奴等なら、余計ヒトリさんを置いて逃げるなんて……」

「だからこそ! だからこそ、ヒトリさんの俺達は足手まといになってしまうんだ」

 トーマが悔しそうに顔を歪めた。
 腕を掴んでいる手も強くなり、ミシェルはこれ以上言葉が出なかった。

「では、合図をしたら走ってください」

 ヒトリが【影】達に殺意を向ける。

「……交渉決裂……で良いんだな?」

「はなっから交渉する気なんて――ないでしょ!」

 ヒトリは鉄串とガントレットに仕込んであった小型ナイフ3本を取り出し、【影】達に向かって投げつける。
 【影】達は投げられた鉄串と小型ナイフに反応して、バラバラに回避行動をとった。

「今です!」

 ヒトリの叫びに、トーマとミシェルは関所に向かって走り出した。
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