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第1章 王国騎士とEランク冒険者
5・ホブゴブリン
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ヒトリは室内に飛び込むと、わざと足音が出るように走った。
ゴブリン達の注意を女性達からそらす為だ。
『ウギャッ!?』
『ウギッ!!』
足音が聞こえた瞬間、ゴブリン達が一斉に礼拝堂の入り口を見る。
『ギッ! ……ギギ?』
『……グガ? ゴア?』
ところが、ゴブリン達は不思議そうな顔をして辺りをキョロキョロと見わたしている。
室内で足音が響いている……しかし、その足音を出しているはずの侵入者の姿が見えないからである。
それもそのはず、ヒトリは床ではなく室内の壁の上部を走っているからだ。
松明の程度の明かりでは上部には届いていないうえ、ヒトリの姿は真っ黒。
人ですらヒトリを発見するのは困難だろう。
「本当に走ってるよ……」
入り口から少し顔を出し、中の様子をうかがっていたメレディスが驚きの声を出す。
身体能力の高い獣人族でも、こんな芸当が出来るのはほとんどいないだろう
「2、6、9、13……」
ヒトリが壁の上部を走った理由にはもう1つある。
それは室内にいるゴブリンと人の数、及び位置の把握だ。
上から見る事で死角になっていた箇所も見え、それが容易になる。
「16匹と……2人……! 右側をお願いします!」
ヒトリは大声を出すとタンッと壁を蹴り、女性の近くにいた1匹のゴブリンの脳天に向かって右手に持っていたナイフを突き刺す。
そして、もう1匹のゴブリンの胸に左手に持っていたナイフを突き刺した。
『ガッ……』
『グギャッ!』
「――っ!」
ヒトリの声と同時に待機していたメレディスが室内へと飛び込み、右側に固まっていたゴブリン達に突撃する。
「うおおおおおおおおおおおおおお!」
メレディスは雄叫びをあげ、ゴブリン達を剣で切り捨てていく。
『ギッ!』
『グギャッ!』
『ギャギャ!』
ゴブリン達は仲間が攻撃されているからとメレディスに向かって走って行く。
場の混乱もあり人質という考えは全く出てこなかった。
その隙にヒトリは嬲られていた女性に駆け寄り声をかけた。
「あっ……だ、大丈夫……ですか?」
助けに来たはずのヒトリが震えた声を出す。
「ひいいい……」
女性は震えながらその場にうずくまり、ヒトリの声に反応しない。
「……あの……えと……この場から絶対に動かないで下さいね」
ヒトリは道具袋からマントを取り出して女性の肩に羽織らせた。
そしてナイフを握り直し、メレディスの加勢に加わった。
数分後、室内にいた16匹のゴブリン達はメレディスとヒトリによって全員倒された。
「……こいつも大丈夫……ふぅ、終わったわね」
死んだふりをしていないかの確認をしていたメレディスは剣を振り、ゴブリンの血を払って鞘に収める。
「あっ……あの……大丈夫ですかぁ?」
ヒトリは石像の足元に倒れていた女性に近づき、生死を確認する。
「……っ! かなり衰弱しているけど、生きてます!」
ヒトリは急いで道具袋から治癒のポーションを取り出し、ゆっくりと女性に飲ませ始めた。
「それは良か……ん?」
背後から物音が聞こえ、メレディスが振り返る。
すると長椅子の真下から這って出て来ていた1匹のゴブリンと目が合った。
「……え?」
『……ギッ!?』
このゴブリン、最初から室内の中にいたのだ。
壊れた長椅子の真下で寝ていた為に、ヒトリが見落としていた。
戦闘の音で目が覚め、先ほどまで静かに隠れていたのだが、2人が女性に気を取られている今がチャンスと出て来たところだった。
『ギギッ!!』
ゴブリンが入り口に向かって走り出す。
「あっ! コラ! 待て!!」
その後をメレディスが慌てて追う。
『ギッギッギッ――ギャッアアアアア!?』
ヒトリの投げたナイフがゴブリンの背中に刺さり、ゴブリンは派手に転がって通路へ飛び出した。
「ナイスです! もらっ――グッ!?」
メレディスが通路に出た瞬間、全身に強い衝撃を受けた。
吹き飛び、廊下の壁に叩きつけられる。
「ガハッ!!」
意識が飛びそうになるメレディスだが必死に耐える。
「うぐ……い……いったい……何が……あ……」
『フシューフシュー』
顔をあげると巨大なゴブリン……ホブゴブリンが鼻息を荒げ立っていた。
ホブゴブリン、ゴブリンの変異種。
通常のゴブリンは小さく細身だが、ホブゴブリンの場合は真逆。
身長は3mを超え、肉付きが良く丸い体型の巨漢。
見た目通り腕力があり、メレディスはホブゴブリンに殴り飛ばされしまったのだ。
「くっ……」
ホブゴブリンがこの巣にいる事はわかっていたのに、油断をしてしまったメレディス。
『ギャッギャッギャッ』
それをあざ笑うかのようにホブゴブリンは口の端をゆがめて笑い、止めを刺す為に拳を後ろに引く。
「メレディスさん!」
叫びと共にヒトリはホブゴブリンに向かって走り出す。
声に反応したホブゴブリンが頭をヒトリの方に向けた。
その瞬間、ヒトリはガントレットに仕込んであった小型ナイフ4本を取り出し、ホブゴブリンの顔に向かって投げつけた。
『グガッ!』
危険を察知したホブゴブリンがとっさに顔をそむけるが間に合わず、1本の小型ナイフが右目に突き刺さる。
『グギャアアアアアアアアアアアアア!!』
ホブゴブリンは痛で悲鳴をあげ、その場でのたうち回る。
その隙にヒトリはメレディスを抱きかかえて礼拝堂の中へと入った。
「く……申し訳ない……」
「あっ……き、気にしないでください……いま、治癒ポーションを……」
「っ! ヒトリさん! 後ろ!」
『ハア……ハア……グアアアアアアアアアアアアアアア!!』
怒り心頭のホブゴブリンが礼拝堂の入り口に向かって体当たりをする。
入り口は1発で破壊され破片が辺りに飛び散った。
そして、その勢いのままヒトリに向かって拳を振り上げた。
「危ないですっ!」
「きゃっ!」
ヒトリがメレディスを突き飛ばす。
直後、ヒトリのいた場所にホブゴブリンの拳が叩きつけられて床が破壊される。
轟音と地響き、辺りには土埃が舞った。
「……ヒッヒトリさああああああああん!!」
メレディスの顔は青ざめ、悲鳴に近い声でヒトリの名前を叫んだ。
『グゲゲゲゲ!』
手ごたえがあったのか、ホブゴブリンは口の端をゆがめて笑う。
徐々に土埃が晴れて来る……と、うっすらと人影が現れる。
『……ギッ!?』
「……あっ……」
そこには傷1つないヒトリが立っていた。
ホブゴブリンの拳をかわしていたのだ。
『ギギギ……ウガアアアアアアアアアア!!』
ホブゴブリンの拳がヒトリに向かって何発も繰り出される。
その拳に対してヒトリは素早い動きでかわし続けた。
『ウガ! ウガ! ……ウガガガアアアアア!』
疲労して来たホブゴブリンが渾身の1発を放つ。
その攻撃に合わせてヒトリはジャンプをして、ホブゴブリンの腕に着地をする。
そして顔めがけて走り出した。
「これで終わり……です!」
ヒトリは右目に刺さっていた小型ナイフに向かって蹴りを入れ込む。
小型ナイフはより深く刺さり、ホブゴブリンは短い断末魔をあげてその場に倒れ込むのだった。
ゴブリン達の注意を女性達からそらす為だ。
『ウギャッ!?』
『ウギッ!!』
足音が聞こえた瞬間、ゴブリン達が一斉に礼拝堂の入り口を見る。
『ギッ! ……ギギ?』
『……グガ? ゴア?』
ところが、ゴブリン達は不思議そうな顔をして辺りをキョロキョロと見わたしている。
室内で足音が響いている……しかし、その足音を出しているはずの侵入者の姿が見えないからである。
それもそのはず、ヒトリは床ではなく室内の壁の上部を走っているからだ。
松明の程度の明かりでは上部には届いていないうえ、ヒトリの姿は真っ黒。
人ですらヒトリを発見するのは困難だろう。
「本当に走ってるよ……」
入り口から少し顔を出し、中の様子をうかがっていたメレディスが驚きの声を出す。
身体能力の高い獣人族でも、こんな芸当が出来るのはほとんどいないだろう
「2、6、9、13……」
ヒトリが壁の上部を走った理由にはもう1つある。
それは室内にいるゴブリンと人の数、及び位置の把握だ。
上から見る事で死角になっていた箇所も見え、それが容易になる。
「16匹と……2人……! 右側をお願いします!」
ヒトリは大声を出すとタンッと壁を蹴り、女性の近くにいた1匹のゴブリンの脳天に向かって右手に持っていたナイフを突き刺す。
そして、もう1匹のゴブリンの胸に左手に持っていたナイフを突き刺した。
『ガッ……』
『グギャッ!』
「――っ!」
ヒトリの声と同時に待機していたメレディスが室内へと飛び込み、右側に固まっていたゴブリン達に突撃する。
「うおおおおおおおおおおおおおお!」
メレディスは雄叫びをあげ、ゴブリン達を剣で切り捨てていく。
『ギッ!』
『グギャッ!』
『ギャギャ!』
ゴブリン達は仲間が攻撃されているからとメレディスに向かって走って行く。
場の混乱もあり人質という考えは全く出てこなかった。
その隙にヒトリは嬲られていた女性に駆け寄り声をかけた。
「あっ……だ、大丈夫……ですか?」
助けに来たはずのヒトリが震えた声を出す。
「ひいいい……」
女性は震えながらその場にうずくまり、ヒトリの声に反応しない。
「……あの……えと……この場から絶対に動かないで下さいね」
ヒトリは道具袋からマントを取り出して女性の肩に羽織らせた。
そしてナイフを握り直し、メレディスの加勢に加わった。
数分後、室内にいた16匹のゴブリン達はメレディスとヒトリによって全員倒された。
「……こいつも大丈夫……ふぅ、終わったわね」
死んだふりをしていないかの確認をしていたメレディスは剣を振り、ゴブリンの血を払って鞘に収める。
「あっ……あの……大丈夫ですかぁ?」
ヒトリは石像の足元に倒れていた女性に近づき、生死を確認する。
「……っ! かなり衰弱しているけど、生きてます!」
ヒトリは急いで道具袋から治癒のポーションを取り出し、ゆっくりと女性に飲ませ始めた。
「それは良か……ん?」
背後から物音が聞こえ、メレディスが振り返る。
すると長椅子の真下から這って出て来ていた1匹のゴブリンと目が合った。
「……え?」
『……ギッ!?』
このゴブリン、最初から室内の中にいたのだ。
壊れた長椅子の真下で寝ていた為に、ヒトリが見落としていた。
戦闘の音で目が覚め、先ほどまで静かに隠れていたのだが、2人が女性に気を取られている今がチャンスと出て来たところだった。
『ギギッ!!』
ゴブリンが入り口に向かって走り出す。
「あっ! コラ! 待て!!」
その後をメレディスが慌てて追う。
『ギッギッギッ――ギャッアアアアア!?』
ヒトリの投げたナイフがゴブリンの背中に刺さり、ゴブリンは派手に転がって通路へ飛び出した。
「ナイスです! もらっ――グッ!?」
メレディスが通路に出た瞬間、全身に強い衝撃を受けた。
吹き飛び、廊下の壁に叩きつけられる。
「ガハッ!!」
意識が飛びそうになるメレディスだが必死に耐える。
「うぐ……い……いったい……何が……あ……」
『フシューフシュー』
顔をあげると巨大なゴブリン……ホブゴブリンが鼻息を荒げ立っていた。
ホブゴブリン、ゴブリンの変異種。
通常のゴブリンは小さく細身だが、ホブゴブリンの場合は真逆。
身長は3mを超え、肉付きが良く丸い体型の巨漢。
見た目通り腕力があり、メレディスはホブゴブリンに殴り飛ばされしまったのだ。
「くっ……」
ホブゴブリンがこの巣にいる事はわかっていたのに、油断をしてしまったメレディス。
『ギャッギャッギャッ』
それをあざ笑うかのようにホブゴブリンは口の端をゆがめて笑い、止めを刺す為に拳を後ろに引く。
「メレディスさん!」
叫びと共にヒトリはホブゴブリンに向かって走り出す。
声に反応したホブゴブリンが頭をヒトリの方に向けた。
その瞬間、ヒトリはガントレットに仕込んであった小型ナイフ4本を取り出し、ホブゴブリンの顔に向かって投げつけた。
『グガッ!』
危険を察知したホブゴブリンがとっさに顔をそむけるが間に合わず、1本の小型ナイフが右目に突き刺さる。
『グギャアアアアアアアアアアアアア!!』
ホブゴブリンは痛で悲鳴をあげ、その場でのたうち回る。
その隙にヒトリはメレディスを抱きかかえて礼拝堂の中へと入った。
「く……申し訳ない……」
「あっ……き、気にしないでください……いま、治癒ポーションを……」
「っ! ヒトリさん! 後ろ!」
『ハア……ハア……グアアアアアアアアアアアアアアア!!』
怒り心頭のホブゴブリンが礼拝堂の入り口に向かって体当たりをする。
入り口は1発で破壊され破片が辺りに飛び散った。
そして、その勢いのままヒトリに向かって拳を振り上げた。
「危ないですっ!」
「きゃっ!」
ヒトリがメレディスを突き飛ばす。
直後、ヒトリのいた場所にホブゴブリンの拳が叩きつけられて床が破壊される。
轟音と地響き、辺りには土埃が舞った。
「……ヒッヒトリさああああああああん!!」
メレディスの顔は青ざめ、悲鳴に近い声でヒトリの名前を叫んだ。
『グゲゲゲゲ!』
手ごたえがあったのか、ホブゴブリンは口の端をゆがめて笑う。
徐々に土埃が晴れて来る……と、うっすらと人影が現れる。
『……ギッ!?』
「……あっ……」
そこには傷1つないヒトリが立っていた。
ホブゴブリンの拳をかわしていたのだ。
『ギギギ……ウガアアアアアアアアアア!!』
ホブゴブリンの拳がヒトリに向かって何発も繰り出される。
その拳に対してヒトリは素早い動きでかわし続けた。
『ウガ! ウガ! ……ウガガガアアアアア!』
疲労して来たホブゴブリンが渾身の1発を放つ。
その攻撃に合わせてヒトリはジャンプをして、ホブゴブリンの腕に着地をする。
そして顔めがけて走り出した。
「これで終わり……です!」
ヒトリは右目に刺さっていた小型ナイフに向かって蹴りを入れ込む。
小型ナイフはより深く刺さり、ホブゴブリンは短い断末魔をあげてその場に倒れ込むのだった。
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