【完結】私が勇者を追いかける理由。

コル

文字の大きさ
上 下
25 / 28
3章 探せ、アリシアの結婚指輪

その8

しおりを挟む
「いててて……」

 落ちた時にお尻を打っちゃったみたいね。
 思いっきり地面に跡が残っているし。

「はあ……まったく、何やってんのよ……」

 お尻なら別に回復魔法はしなくてもいいわよね。
 まぁそもそもローニだったら頑丈だからいらないか。

「ん? うげっ! アリシア!? どうしてここに!?」

 透明だから姿は見えないけど、すごく驚いているのが声でわかる。
 何よ、あなたの見慣れた顔でしょうに。
 ちょっと傷つくな……。

「どうしてここに!? じゃないわよ。ローニの行く所に私ありよ」

「……迷惑な」

 迷惑って……あなたがシオンにくっ付いて行ったから、私が来る羽目になったんでしょうが!
 ええい! 透明化マントを引っぺがして、そのマヌケ面を拝んでやる!

「ほら! そこに居るのは分かっているんだから、さっさと透明化マントを脱ぎなさいよ!」

「あっ! こら、やめろ! その手を離せ!」

 こいつ、無駄な抵抗を!
 こうなったら、私も全力を出してやるううう!

「ぬおおおおおおおおおおりゃああああああ!!」

「ああっ!」

 よし、勝った!
 これでローニの姿が見えるようになった。

 ――チャリン

「あら?」

 今、ローニから引っぺがした透明化マントから何か地面に落ちた。
 何やら金色に光っているけど……あっこれってもしかして!

「――っ! やっぱり、これ私の結婚指輪じゃないの!」

 どうしてローニが私の指輪を持っているの?
 意味がわかんないですけど!

「ちょっと! どうして、あなたが私の結婚指輪を持っているのよ!?」

「え? どうしてって……お前覚えていないのか?」

 覚えていない? ローニは何を言っているのかしら。
 全然話が見えない。

「それってどう言う事よ!」

「あー……あれだけ酔っ払っていたからな……覚えていなくてもおかしくないか」

「……え? 酔って……?」

 すごく、ものすご~く嫌な予感がして来た。
 これは……もしかして、私がやらかした……?

「……昨日の晩……なにが……あった……の?」

「俺がアリシアを見つけた時ベロベロに酔っていたんだよ」

「……」

 どうして戻ってこれたのかとか、私を見つけられたのかとか、その辺りも聞きたいけど……今は話を遮らずに聞いた方がいいわよね。

「流石にこのままじゃ駄目だと思って、俺が店から出して宿につれて帰ったんだよ。で、こんな事だと追剥あうぞって言ったら、アリシアが「んじゃあ~この大事な結婚指輪はローニが持っててよ~」って言って、自分で外して俺に渡したんだよ」

「えええっ!! 嘘でしょ!?」

 まさかの真実!
 私自身が結婚指輪を手放していたなんて……。
 ああ……どうして覚えていないかな……。

「別にそんなに驚かなくても……ん? 待てよ……結婚指輪……ゴールドリング……捜索……」

 ギクッ!
 まずい!

「……ハッ! もしかして、シオン達が受けたゴールドリングの捜索依頼ってアリシアが出した物だったのか!?」

 ああ、完全にバレちゃったよ。

「おい、どうなんだ?」

「……」

「……おーい」

「……」

「何黙っているんだよ」

「……」

「その沈黙は、当たりの様だな」

 うう、もはや言い逃れは出来ない。
 ここは素直に謝っておこう。

「……はい、そうです……すみません……」

「マジか。つか、なに自分の結婚指輪を娘に探させているんだよ」

 いやいやいやいや、それは誤解だから!
 私もまさかシオンがこの依頼を受けるなんて思いもしなかったんだから!
 そこはちゃんと言わないと!

「違うのよ! これには深い事情があって――」

《――やな》
《――すわ》

「っ!」

 今、人の声が聞こえた。
 このタイミングに人の声って、もしかしたら……。

「話の途中で黙るなよ、一体何が違うって……」

「しっ! ちょっと静かにして!」

 耳に全神経を集中。
 予想通りなら、この状況はまずいし。

《え~と、辺りですかね?》
《そのはずなんですが……》
《ん~……せやけど、それらしい樹は見つからんね》
《なら、もう少し奥に行ってみようよ》

 やっぱり、この声はシオン達だわ。
 しかも、距離的にかなり近い。
 しまったな……ローニと話していたせいで、シオン達が近づいている事に全く気が付かなかった。
 これはやばい、早くどこかに隠れないと!

「おーい、どうしたんだよ?」

「どうしたもこうしたも、シオン達が来たから早く隠れなきゃ!」

「なんだって!?」

 とりあえず、私はこの茂みの中に隠れて……後は見つからない事を祈るだけね。

「とおっ!」

「なっ!?」

 って、ローニも同じ場所に入って来たし!
 何を考えているの、さすがに大人2人は無理があるわよ!

「ちょっと! どうしてここに隠れるのよ!」

「仕方ないだろ! とっさに隠れる所ってここしかないんだから!」

「ここしかない? 何を言っているのよ、あなたには透明化マントが……あっ」

 そうだ、透明化マントはいま私の手の中にあるんだった。
 ……なら、私がこれを羽織っちゃえ。

「……あれ? アリシアの姿がない……あっ! お前、俺のマントを使ったな!? 卑怯だぞ!!」

「うふふふ~」

 あ~これでコソコソする必要が無いから楽だわ~。

「あ、大きい樹がありますわ!」

 おっと、シオン達の姿が見えた。
 間一髪ね、もう少し気が付くのが遅かったら見られていたわ。

「ほら、シオン達が来たから静かにしなさいな」

「くーーーーー憶えとけよ!」

 シオン達が目の前に見えても焦らなくいいって楽だわ。
 ローニは普段こんな感じだったのか……やっぱり、透明化マントがあるかないかでかなりの差が出来ていたのね。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜

シュガーコクーン
ファンタジー
 女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。  その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!  「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。  素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯ 旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」  現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話7話。

処理中です...