【完結】私が勇者を追いかける理由。

コル

文字の大きさ
上 下
22 / 28
3章 探せ、アリシアの結婚指輪

その5

しおりを挟む
 それにしても、まさかあんな鉄仮面を被った姿で出て来るなんて思いもしなかったな。
 シオンが亭主に叱られているからと、とっさに顔を隠せるものを被ったんだろうけど……よくまああんな都合のいい物があったね。

『彼女たちを今すぐ解放したまえ!』

 ん~今といい、さっきの発言といい……どうも、シオン達が何をしでかしたのかわかっていないみたいだわ。
 という事は、さっきまでシオン達の後をついては来ていなかったみたいのかしら?
 考えられるとすれば、指輪の捜索を優先していたのかな?

「なっ何だ、お前は?」

『先ほども言っただろう、私は鉄仮面の勇者だ!』

 どんな勇者よ。
 とっさの事とは言え、もうちょっとマシな名前を思いつかなかったのかしら。

『もう一度言う! そこの悪党、速やかに彼女たちを開放するんだ。さもなくば、貴様に裁きの鉄槌が下る事になるぞ!』

 私は貴方に裁きを下したいです。
 今までの行動に対して……。

「え? 俺が悪党だって? いやいや、お前は何を言っているんだよ」

 これ以上ややこしい事にならない様に、ローニには早々に退場してもらわないと。
 隙をついて風魔法で吹き飛ばして……あっでも、その後にローニを回収する時にこの姿を現すのはまずいか。
 なにせシオン達と会った依頼主の姿のままだし。

「となると、私も何かで顔を隠す必要が……あっ」

 都合よく目の前に防具屋がある……。

「……はぁ~……すみませ~ん!!」
 


『さあ、君たち! ここは鉄仮面の勇者に任せて逃げるのだ!』

「……へっ? いっいや、ですがこれは……」

『早く!!』

「え? え? これ、どう言う事やねん!?」

「あたしに聞かれてもわかんないよ!」

『なるほど、怯えて動けないのか……ならば――』

 ――っ!
 亭主に向かってローニが走り出しちゃっている!

『とおおおおおおおっ!』

 ジャンプした!
 くっ間に合え!!

『エアーショット!!』

『――グボアッ!?』

 よし、風魔法がローニにヒットしたわ!!

 ――ガアアアアアアアン!

『ガハッ!!』

『あっ』

 慌てて放ったから風の威力が強すぎちゃったみたい。
 ローニが壁にめり込んじゃった……まぁあの人は頑丈だし、大丈夫でしょ。

『……なっ……なにが…………ガクッ……』

「……え? え? なっ何が起きましたの?」

「何であたしに聞くかな……分かんないよ。あの鉄仮面の勇者? が、突然吹き飛んで壁にめり込んだしか……」

「見たまんまやないのよ」

 さて、ローニを回収しに行かないと。

「あの……大丈夫ですか?」

 アスターがローニを救出しようとしている!
 流れで鉄仮面を外されたらまずい!

『ちょっと待ってください!』

「ん? ……っ!?」

「「「「……」」」」

 私の姿を見て全員固まっている。
 うん、そうだよね、そうなるわよね。

「え……えーと……貴女は一体……?」

 だってローニと同じ形の鉄仮面を被った女が急に出て来たんだもの……私でも固まっちゃうわ。
 というか、ローニの被っていた鉄仮面ってあの防具屋で買っていたとは。

『アハハ、私はこの人の知り合いの者です~』

 それしか言えない。
 だって、他人だと言ってもこの格好じゃ絶対に信じてもらえないし。

「……はあ、そうなのですか……」

 ああ……アスターの目線が痛い。
 というか周辺の目線も痛い。
 一刻も早くこの場から離れなければ!

『実は冒険の最中でこの人が幻惑作用のある花を触ってしまいましてね! それで教会に向かっていたのですが目を離した隙にここまで来ちゃったみたいでとっさに魔法を撃ったのですよ! ですからこちらでこの人を回収しますので気にしないでください! アハハハハ』

 というか、ローニがやたら静かだけど……。

『……』

 良かった、ローニはただただ気絶しているみたいね。
 これなら楽に回収できるわ。

『――よいしょっと……アハハハ、それじゃあ失礼しました~』

「はあ……」

 さて、後はこいつを路地裏に隠れてと……。

「「「「……」」」」

 見えてはいないけど、後ろからの目線が背中に刺さる。



「よっと……」

 この辺りならもう大丈夫かな。
 とりあえず、水でもかけて目を覚ませるか。

『ウォーター』

『――わぷっ!? ゲホゲホっ! なっなんだっ!?』

「ふぅ……この鉄仮面って息が苦しいわね」

 こんなのつけたままで、あれだけよくしゃべれたわね。

『なっ!? アリシア!?』

「ここにシオンはいないから、その鉄仮面を外したら?」

『そんな事はどうでもいい! おい、シオンのピンチにお前は何をやっているんだよ! 今すぐ戻って……』

 駄目だ、気絶しても水をかけても興奮が収まっていない。
 はあ~面倒くさいけど1から説明しないといけないのか……まったく、世話が焼けるわね。

「事情も知らないのに何を言っているの! 私の話をよく聞きなさい!」

『は? 事情だと……?』



『……』

 さて、ローニに一通り起こった事を説明したけど……だんまりか。
 というか、鉄仮面を外さないからローニの顔が全然見えない。
 そのせいで何を考えているのか全くわからない。

『……』

 反省しているんだよ……ね?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜

シュガーコクーン
ファンタジー
 女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。  その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!  「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。  素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯ 旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」  現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

【完結】過保護な竜王による未来の魔王の育て方

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
魔族の幼子ルンは、突然両親と引き離されてしまった。掴まった先で暴行され、殺されかけたところを救われる。圧倒的な強さを持つが、見た目の恐ろしい竜王は保護した子の両親を探す。その先にある不幸な現実を受け入れ、幼子は竜王の養子となった。が、子育て経験のない竜王は混乱しまくり。日常が騒動続きで、配下を含めて大騒ぎが始まる。幼子は魔族としか分からなかったが、実は将来の魔王で?! 異種族同士の親子が紡ぐ絆の物語――ハッピーエンド確定。 #日常系、ほのぼの、ハッピーエンド 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/08/13……完結 2024/07/02……エブリスタ、ファンタジー1位 2024/07/02……アルファポリス、女性向けHOT 63位 2024/07/01……連載開始

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...