【完結】私が勇者を追いかける理由。

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3章 探せ、アリシアの結婚指輪

その2

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「――のわっ!!」

 はっ! ショックのあまり、つい大きな声をあげてしまった。
 居酒屋の主人がびっくりして飛び上がっちゃった。

「……あーびっくりした。おいおい、いきなり叫ぶなよ……。つか、よくもまあ禁酒宣言を居酒屋の前で堂々とできるな……」

 おっしゃる通りで……あっそうだわ!
 もしかしたら、居酒屋の中に落としているかもしれない!

「あの! 店の中に指輪が落ちていませんでしたか!? ゴールドリングです!」

 あの結婚指輪は2人の髪の色に合わせた特注品。
 私はゴールドリングを、ローニはシルバーリングを付けた。

「……人がまだ話している時に……はぁーもいいか……で、ゴールドリングだっけか? 残念だが、マント同様にそんな物は無かったな」

「……」

 本当かしら?
 ゴールドリングだからしらを切っている可能性もある。

「本当に本当ですか!? 実は隠していたりしていませんか!?」

「なっ!? おいこらっ! 人聞きが悪い事を言うな!! 俺は盗みなんてしねぇよ! 何なら今から警備兵の所に行ってもいいんだぜ!?」

「あうっ……」

 この感じは嘘を言っているとは思えない。
 やってしまった~動揺していたとはいえ、さすがに疑い過ぎた。
 大事になる前に素直に謝らなくちゃ!

「――すみません! すみません! つい取り乱してしまい言い過ぎました! 本当に申し訳ありません!!」
 
 これで、収まってくれればいいんだけど……。

「……分かればいいんだよ、全く」

 良かった~。
 何とか怒りを収めてくれた。

「まぁそこまで動揺するのもわからんでもないな。俺もこの指輪を失くしたら、あんたみたいに疑心暗鬼になっちまうかもしれん……いや、その前に母ちゃんに殺されるか……」

 そうね、ローニが指輪を失くしたら私はかなり怒るだろうな。
 現状は私が怒られる立場になっているけど。

「とにかく、マントも指輪も家にはないから他を探してみるんだな」

「……はい、そうします……」

 と言われても、探すのは指輪だけだけどね。
 透明化マントはローニが持っているから……。
 にしても、指輪は問題よね……見つかる気が全くしない。
 でも奇跡を信じて、昨晩通ったであろう居酒屋から宿までの道のりを丹念に探してみましょう。



「はあ~……」

 奇跡なんてなかった。
 道端に落ちていたのはゴミ、ゴミ、ゴミ。
 全く、ゴミを道端に捨てる奴なんて人として最低よね。

「はあ~……」

 で、宿に戻ってから部屋も探したけど指輪はなし。
 まぁ今朝も宿の部屋中を探しまくっていたから、見当たらないのは当たり前だけど……それでももしかしたら、と思ったんだけどな~。

「はあ~……」

 出るのはため息ばかりだわ。
 ああ、出来る事なら今すぐ昨日の晩に戻りたい……。

「はあ~……出来ない事をウダウダと考えても仕方ないか」

 なら出来る事を考えなくちゃね。
 私一人じゃもうどうしようもない。
 となれば、ギルドに探し物の依頼として出そう。
 それでも見つかる確率は低いと思うけど、やらないよりはましよね。
 うう……3日目にして、ローニの自由を許してしまうなんて思いもしなかった。
 でも、今回ばかりはそんな事を言っていられないわ。
 あの指輪は大事な物だもの! 今すぐギルドに直行よ!



 ……居ないか。
 もしかしたら、ギルドの中にシオン達がいるかなとも思ったんだけど良かったわ。
 何かしらの依頼を受けてそこに向かったかな?
 だとしたら、依頼の登録をさっさと済ませちゃいましょ。

「あの~」

「はい、なにか……今日も金髪の男の人は来ていませんよ~」

 受付嬢さんが私を見て、今日もぎこちない笑顔をしつつ聞いてもいないローニ情報。
 そして中に入るのを防ぐかの様に、また両手をカウンターの上に乗せてガード。
 受付嬢さんの中で私ってそんなに警戒するべき人物なかしら……何かショックだわ。

「いえ、今日は依頼を出しに来たんです……」

「あっそうだったんですか! それは、すみません。……では、この書類に依頼内容と報酬金額の記入をお願い致します」

 え~と、依頼内容は結婚指輪の捜索……いや、結婚指輪を探してくれって重いから誰も受けてくれないかもしれない。
 よし、ここは普通にゴールドリングにしておきましょう。
 後は報酬金額か……大体の相場はいくらなのかしら?
 その辺が全くわからないわね。

「すみません。この依頼だと、報酬金額の相場ってどのくらいですかね?」

「拝見しますね」

 あまり高くない事を祈るわ。
 今の手持ちで足りればいいけど……。

「……なるほど、紛失物の捜索か……あの、いくつか確認をしたいのですがいいですか?」

「あ、はい」

「この街で紛失したのは間違いないのですか?」

「はい……」

 昨日の晩、街の外に行っていない保証はないけども。
 まぁそこは大丈夫でしょう。

「ランクの制限に指定はありますか?」

「あ~……」

 ランクか。
 その辺りは別にこだわる必要は無いわよね。

「いえ、無いです」

 星1だろうが5だろうが、探してもらえるだけでありがたい。

「となれば……この位が妥当かと」

 受付嬢さんが値段を書いた紙を見せてくれた。
 どれどれ……ふむ、驚くほど高くもなく、かと言って安いわけでもない値段ね。
 受付嬢さんが教えてくれた値段だし、これにしておきましょう。

「それじゃその金額でお願い致します。……これが報酬金額です」

 ただ、これで手持ちがかなり不安になっちゃっているから後で家に帰らなくちゃいけないわね。

「はい、承りました。この依頼ですと、すぐに受理されると思います」

「そうですか」

 すぐなら助かるわね。
 それにしても、色々ありすぎて疲れたわ~。
 そこの椅子に座ってしばらく休もっと。

「ふぅ~……」

 あ~今頃ローニはシオンにどんな行動をしているのかしら。
 こんな事が無ければな~……。

「あっお客様、依頼が受理されましたので掲示板に貼りますね」

「……え? あっありがとうございます!」

 はやっ! 行くらなんでも早すぎない?
 ちょっと、ちゃんと内容を見て受理したんでしょうね!?

「さてと、今日も頑張ろか!」

 んっ? 今のチトちゃんの声が聞こえた様な気がしたんだけど……。
 いやいや、そんなはず――。

「申し訳ありませんわ……わたくしのせいで……」

「気にしなくていいよ、シオねぇ」

「そうですよ。気にしないで下さい」

 ――あったし!
 えっ!? どうして!?
 どうして、今になってシオン達がギルドに入って来ているのよ!
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