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2章 強敵、スライムを討伐せよ

その9

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……って、そんな事を考えている場合じゃない!
 こんなに騒がれちゃうとシオン達にバレちゃうわ!
 さっさとローニを止めない――。

「――もがっ!?」

 ――とお!?

「シオン様!」
「シオンちゃん!」
「シオねぇ!」

 ええっ!!
 嘘でしょ!?

「ガボガボガボ!!」

 シオンもスライム達に頭を包まれちゃっているし!
 親子揃って何しているのよ!

「ガボガボガボ!!」

 まずい、ローニはともかくこのままだとシオンが危険だわ。

「シオねぇっ! 今すぐ助けるからな!」

 ルイカちゃんが、シオンに付いたスライムを手で掴んで引き剥がそうとしている。
 けど、それじゃ無理なのよ。

「ガボッ! ガボッ!」

「くっ! このっ! こいつ、うまく掴めないからはがせられない!」

 スライムはゼリー状の体をしたモンスター。
 だから、掴むといった行為は出来ない。

「ならチトに任せとき! シオンちゃん今助けるからな!」

 チトちゃんが戦斧を持ち上げたけど……えっ? まさか、そのままシオンに戦斧を振り下ろす気!?
 いやいや! そんな事をすれば、スライムどころかシオンの方も真っ二つになっちゃうわよ!

「っチトさん! お待ちください! シオン様まで斬ってしまいます!」

「――モガ~! ――モガ~!」

 シオンが苦しみながらも、両手を振って辞めてって必死に訴えている。
 今はスライムよりも、チトちゃんの殺気に恐怖しているみたいね。

「せやかて、このままやとシオンちゃんが!」

 それもそうなのよね。
 これ以上はシオンの息が持たないだろうし……。

「――くそっ! 何か方法はないのか!?」

「……せや! アスターさん、魔法でどうにかならないの!?」

 確かに、アスターは魔法も使える。
 けど……。

「すみません。私が使える魔法では、シオン様にもダメージを与えてしまいます……」

 普通でも、攻撃魔法で張り付いているスライムだけを狙い撃ちというのは難しい。
 しかもアスターはエルフの戦士……そんな巧に魔法を使うのは苦手だ。

「……プク……プク……」

「ん? シオねぇ? ……ちょっと!? しっかりして! シオねぇってば!!」

 ああ!
 シオンがグッタリとしちゃっているし!

「シオンちゃん! やっぱり、チトが!」

 だから、それじゃ駄目だって!
 ……っ本来は手を一切出すつもりは無かった。
 けど、この状況はそうもいっていられない。

「すぅ~はぁ~……ふぅ……」

 シオンの顔に傷を付けちゃうといけないから最大限に集中。
 私なら魔法の制御ができる……魔法の威力をスライムに一点に絞って……。

「――っサンダーボルト!」

 ――パアアアアアアン!!

 よし、スライムのみにヒット!

「えっ!?」
「――っ! いきなりスライムが弾け飛んだ!?」
「っ!」

 ……あ~良かった~うまくいったわ。
 あはは……若干、手が震えちゃっている。

「――プハッ! ゲホッ! ゲホッ!」
「シオねぇ!」
「シオンちゃん!」
「シオン様!」

 息もしているし、動いてもいる。
 あれなら問題は無いわね。

「はぁ~はぁ~……しっ……死ぬかと、思い……ました……わ……」

「何が起きたかのかわかれへんけど、良かった~シオンちゃんが無事で~」

「何だったんだ、今のは? ん~……まぁシオねぇが助かったからいいか」

「ありがとうございます。……シオン様! お体に異常はありませんか?」

 後はアスターが対処してくれるだろうし、シオンの方は大丈夫ね。

「さて、次はローニを……」

「……プク……プク……」

 なんか静かだな~と思ったら、ローニがグッタリしちゃっている。
 ローニだから魔法の加減もいらないわよね。

「ほい、サンダーボルト」

 ――パン!
「――プギャッ!! ……ガクッ……」

 あら、ちょっと強すぎたかしら?
 スライムは弾け飛んだけど、ローニが気絶しちゃった。
 う~ん……流石にこのまま置いておくのは色々と駄目よね。
 だとすれば、シオン達の様子を見てローニをここから連れ出しちゃいましよ。
 どんな感じかな?

「目立った外傷はありませんね。ですが。念の為に教会に行きましょうか」

「……え? ……ですが、スライムはまだ……」

「そんなん言うとる場合やないやろ」

 そうそう、チトちゃんの言う通り。
 スライムより自分の体の方が大事よ。

「……ですが……」

「ですが、ではありませんよ。教会に行きましょう」

「……うう……」

 自分のせいで依頼が失敗する事が嫌なのね。
 けど、疲弊しきっているシオンが居ても……。

「ん~……だったらさ、こうしようよ。あたしがシオねぇを教会に連れて行くから、先輩たちはそのままスライム狩りを続けてよ。スライムの数もかなり減っているし、あたし達が抜けても問題は無いでしょ」

「でしたら、私がシオン様を……」

「アスターは強いから討伐に残った方がいいよ。それに、あたしは脚力には自信があるから早く教会へ行けるし」

 ルイカちゃんが靴を脱いで……あ、爪が二つに分かれたひづめが出て来たわ。
 確かに獣人の脚力は強いから早く走れるわね。

「なるほど……では、シオン様をお願いします」

「了解! ――よいしょっと……それじゃあ先輩方、後はよろしく」

「おっしゃ! 任せとき!」

「……申し訳……ありません……わ……」

「気にしないで下さい。では、お気をつけて」

「いっくよ! そりゃあああああ!」

 ルイカちゃんがシオンをおぶって、すごい速さで走って行っちゃったわ。
 残りの2人がスライム討伐の続きを始める前に、ローニを連れてここから離れよう。

「――よいしょっと!」

 さて、どこに連れて行こうか。
 あっそうだ……いい所を思いついちゃった。



「どっこいせっと」

「……うっ……ここは?」

 あら、ベッドに降ろした瞬間にローニの目が覚めたみたい。
 赤ちゃんのようね。

「ここは宿屋よ」

「宿屋? ……え?」

 ローニが不思議そうに辺りを見渡している。

「どこの宿だ? こんな所はしらないぞ?」

 ここは街からかなり離れた森の中にある、エルフ族の集落。
 私は来た事があるけど、ローニは来た事が無い。
 だから、知らないのは当たり前。

「……」

「おい、だんまりかよ! って、体が動かんぞ!?」

 気絶している間に麻痺魔法もかけておいた。
 まぁローニは耐性も持っているから、数刻には動けるだろうけどね。
 ただ、知らない場所でしばらく動けないというこの状況はかなりおいしい。
 そして、極めつけは……。

「それじゃ、私は行くわね。あと、このマントも持って行くから~」

「え? え? ……あっ! ちょっと待て! おーい!」

 透明化マントの回収。
 これでローニの動きにかなり制限がかかる。
 あ~明日からだいぶ楽になるわ~そう考えるだけで心が軽い。
 よし、気分がいいからシオン達の様子を見た後に飲んじゃおう!

「そういえば、お酒は久しぶりだな~うふふふ~楽しみだわ~!」
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