【完結】私が勇者を追いかける理由。

コル

文字の大きさ
上 下
9 / 28
2章 強敵、スライムを討伐せよ

その1

しおりを挟む
「……うう……」

 窓の外が明るく始めている。
 という事は、もう朝か……。

「ふわ~……眠い……」

 結局、シオンの部屋の近くにとは言い出せず私の部屋は3階の301号室。
 ローニの馬鹿のせいで、シオンが泊まっている2階の205号室と離れちゃったわ。
 しかも、私の部屋は宿の入り口とは反対側だから部屋からシオン達が帰って来たところが分からない。
 おまけに、この宿のロビーは狭いから待機も出来ない。
 そのせいで昨日はシオン達が帰ってくるまで、ずっと宿の入り口前で待つ羽目に。

「……まだ、そこまではよかったのよね……よいしょ……いたた……」

 本当はアスターに今日の予定や、今後につて話したかったけれど、昨日は色々ありすぎて体力はもう限界状態。
 3人が解散するところまで見届けて部屋に戻って、即ベッドに入ったものの……。

「……このベッドはひどいわね……おかげで体中が痛い……」

 マットレスと枕がほとんどペッタンコで、有っても無くても変わらない。
 旅で野宿した時の事を思い出しちゃったわ。
 何で宿に泊まったのに、地面で寝ていた時の事を思い出さないといけないのかしら?
 これじゃあ疲れなんて取れないわよ。

「はあ……ぼやいている場合じゃないわね」

 さっさと出かける支度をしなくっちゃ。
 今日の予定がわからない以上、シオン達より先に行動しないといけないものね。

「よし、今日も頑張りましょうか」

 ローニを妨害する為に!



「……3人はまだかしら?」

 2階の廊下には障害物が何もないから、当然隠れる場所が無い。
 となると、この1階と2階の間の階段で2階の様子を窺うしかない。

「……はむ、モグモグ」

 まさか、朝ごはんのパンをこんな所で食べる羽目になるだなんて思いもしなかった。

「……あのーそんなところで座られると上がれないんだけど……」

「もごっ? ふぁっ!」

 男の人が階段を上がって来た。
 しまった、上がる来る人の事を全く考えずに階段のど真ん中に座っていたわ。

「ふみまふぇん! ――ゴックン……あはは、どうぞ~」

「…………」

 う~わ~……『何だこいつ?』的な顔を露骨された。
 そうよね、朝早くから階段に座ってパンを食べていたらそう思うわよね。
 今度は端に寄っておこう。

「はぁ……明日はもっと早く起きて、部屋で食べる様にしよう……」

 こんな恥ずかしい姿、絶対にシオンに見せられないわ。
 まぁ見せちゃ駄目なんだけども……。

 ――コンコン

 ん? 今ノックの音が聞こえたわね。

「シオン様、おはようございます」

 お、アスターの声だ。
 ちょっと覗いて見て……アスターがシオンの部屋の前に立っているわね。

「くわ~……眠たい……」

 チトちゃんもアクビをしながら部屋から出て来たわ。
 すごく眠そうね。

「あ、チトさん。おはようございます」

「あっ! おっおはようございます!」

「そのご様子だとあまり、寝付けなかったようですね」

「はい~昨日もそうやったんですけど、やっぱりあのベッドは中々つらい物がありますよ」

 そうだよね。
 あれは辛いわよね。

「ああーなるほど」

「アスターさんは、そこまで眠れへんかったっちゅう感じじゃないですね」

「はい。私は森の守り人なので木の上で睡眠を取っていましたから」

「……確かに木の上に比べたら、あのベッドでも十分やらかいですね……えと、シオンちゃんはまだ出て来ておらんのですか?」

「はい。なのでお部屋をノックをしたのですが、反応がありません」

 2人とも準備を済ませているのに、シオンったら何をしているのかしら。
 もしかして、まだ寝ているんじゃ……?

「お~い、シオンちゃ~ん、起きてる~? もう集まる時間やで~」

 ――コンコン

《……ふあ~い》

 ――ガチャ

 シオンの部屋のドアが開いた……わっ!?

「ふわあ~……おはようございますわ~……」

 ちょっと、シオン!!

「シオンちゃん!?」
「シオン様!?」

「……お2人ともどうしましたか……? ふわ……」

 どうもこうも無いわよ! ピンクの寝巻姿のままで出て来ちゃ駄目じゃない!
 しかも、寝ぐせもひどいし!

「シオンちゃん! 寝巻のまま出てきたらあかんて!」

「ふぇ……? …………ああっ!!」

 ――バターン!!

 今ので目が覚めたのか、シオンが勢いよくドアを閉めた。
 全く、あの子ったら何やってんだか……。



「……申し訳ありません……お恥ずかしい姿をお見せしちゃいましたわ……」

 シオンが耳を赤くなして、恥ずかしそうに部屋から出て来た。

「おまけに、わたくしったら寝坊まで……」

 両手で自分の顔を隠した。
 顔を隠したくなる気持ちもわかるわ。

「まっまぁ気にせんとって、失敗は誰にでもある事やし。それにしても、よぉあのベッドで眠れたね」

 確かに、やっぱり昨日は慣れない事ばかりで疲れ切っちゃったのかな?
 そうでないと、あんなベッドで熟睡は……あっ違う! それだけじゃない!

「ええ、マットレスの方は堅かったのですが、枕はわたくしが使っているのと同じ様な物でしたのでそのおかげで眠れましたわ」

 同じ様な物じゃなくて、貴女が普段使っているのものと同じなのよ!
 だから寝れたのよ……そこに関しては実に羨ましい。

「え? ほしたらシオンちゃん……いつもあんなペッタンコな枕をつこて……?」

 そうか、2人はシオンの枕が変わっている事を知らない。
 普段からあんな枕を使っていると思われていてもおかしくない。

「へ? ペッタンコ? それはどう言う……」

「ええで……何も言わんで……な」

「?」

 チトちゃんがシオンの肩を優しく叩いている。
 ああ、やっぱり勘違いしているわ!

「シオン様、それ以上は言わなくても私達は分かっております」

「??」

 だああああああああ!
 アスターまで勘違いしちゃっているし!

「アスターさん! シオンちゃんがふかふかの布団と枕で泊まれるよう、精一杯稼ごな!」

「そうですね! チトさん!!」

「???」

 2人とも違うの!
 普段のシオンはふかふかの布団で寝ているの! 変な勘違いしないで!!
 ああ、もう!! 今出て行けないのが悔やまれる!!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?

つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです! 文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか! 結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。 目を覚ましたら幼い自分の姿が……。 何故か十二歳に巻き戻っていたのです。 最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。 そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか? 他サイトにも公開中。

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

処理中です...