【完結】私が勇者を追いかける理由。

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1章 初依頼、薬草を採取せよ

その1

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『――おほん! ……さあ、シオン様! ここがギルドですよ!』

『ア、アスターさん、そんな大きな声を出さなくても……』

「!」

 今、ギルドの外からアスターの声が聞こえた。
 どうやらシオンが目を覚まして、アスターと合流出来たみたいね。
 ああ! ギルドの中にいるとシオンに見つかっちゃう!

「あなた、シオンが来たから早く隠れ……って、いないし!」

 ローニってば、さっきまで横に居たのにちょっと目を離した瞬間消えちゃった。
 あっそうか、透明化マントを被って姿を消したか! こういう時は便利ね、本当に!
 そんな場合じゃない、私も早くどこかに隠れないと――。

「え~と……え~と……」

 まずい、ここだと隠れられる場所が見当たらない。
 ……そうだ、受付カウンターの裏側に身を潜めれば!

「すみません! 受付カウンターの中に失礼します!」

「えっ? あっちょっと!?」

 よし、ここなら私の姿を見られる心配は無いはず。

「困ります! この中は関係者以外立ち入り禁止で――」

「今だけです、今だけ許してください。あの、これを……」

 受付嬢さんの手に、少しばかりのお金を握らせて……。

「うっ……いっ今だけですからね」

「あははは……ありがとうございます……はあ……」

 受付嬢さんに賄賂を渡すとは……我ながら何しているんだろう。
 邪竜を倒した英雄の1人のくせに……。

「それでは失礼します!」

 間一髪!
 シオン達がギルドに入って来たみたいね。

「……よし、お2人の姿は無いな……」

「あの~アスターさん、入り口で止まると中が見えませんし、わたくしも入れないのですが……」

「ああ、すみません。私もギルドの中へ入るのは初めてで、つい足が止まってしまいました」

「わあ~~なるほど、中は広くて大きくて人がいっぱいいますわ。足が止まるのもわかります!」

 ……しまった、受付カウンターの陰だと2人の様子が全く見られない。
 かと言って、もうここから動けないし……仕方ない、この長い耳をより立てて2人の声に集中を……。

「受付は……あそこみたいですね、シオン様行きましょう」

「はいですわ」

 こっちに来た。

「いらっしゃいませ。ご用件は何でしょうか?」

「わたくし達は、冒険者になる為に来ましたわ」

「畏まりました……では、この書類に記入をお願いします」

「わかりましたわ……え~と、シオン……ラストネームは避けるべきですわよね」

 アスティリカの性は書かないみたいね。
 まぁそれもそうか、勇者の一族と丸わかりだし。
 そうなると、今後もやりにくくなるだろうし……。

「……っと、これでよろしいですか?」

「ご確認します……え~と、シオンさんとアスターさんですね。――では、冒険者の証しであるネームプレートが出来るまで冒険者の事を簡単に説明をしますね」

「はい。お願いしますわ」

「まず、ネームプレートは冒険者の証しであり身分証明書にもなります。他にも色々必要になりますので肌身離さず持っていてください」

「わかりましたわ」

 身分証明書ねぇ……。
 シオンはラストネームを書いていないけど、そこは大丈夫なのかしら?

「次に階級ですが、見習いは一つ星からです。そこからギルドの依頼、討伐、探索等を行っていただきギルドへの貢献を上げていきますとギルドが審査し星が増えます。最大の階級は五つ星になります」

「なるほど。では目指せ、五つ星ですわね!」

 五つ星!?

「え? シオン様、それ本気で言っているんですか?」

「もちろんですわ! 目標は高くです!」

 高すぎよ!
 確かにシオンは身体能力も魔力も高いけど、そういった修行は全くしていないのよ!
 だから、今のあなたは一般人並み……いや、下手をすればそれ以下。
 一体、何十年家に戻らない気なんだか。

「そうですね。そういう目標は大事だと思います、頑張ってください。……はい、これがネームプレートになります」

「わああ! ありがとうございますわ……これで、私も冒険者ですわ!」

 新米の、だけどね。
 でもシオンはすごく嬉しそうでなによりね。

「ギルドの依頼はそこの掲示板に張り出されていますので、自分の合ったランクの物を選んでください」

 お願いだから、変な依頼は受けないでよ。

「へぇ~いっぱいありますわね~。どれにしま……あの、アスターさん」

「なんですか?」

 どうしたんだろう。
 シオンが戸惑っている?

「依頼書の1枚が、風も無いのに揺れる様に見えるのですが……」

 はい!?

「え? ……エート、ホントウデスネ……ドウシテデショウカ」

 それ、絶対にローニが動かしているわよね!
 そうやって、依頼書を動かしてシオンの注意を引こうとしているんだろうけど……。

「……何か不気味ですわ、あれには触れないようにしましょう」

 だよね、そうなっちゃうわよね。
 いくらなんでも、それはないわよ。
 私だって、そんなのを見たら手に取らず無視するわ。

「ソウデスネ、ソノホウガイイトオモイマスヨ」

 姿が見えない事を利用した方法ではあるけど、完全に自爆しているじゃない。

「ん~と……あ、これはどうでしょうか?」

 これってどれ?
 一体、何の依頼を受けたのかしら。

「見せて下さい……ふむ、西の森に生えているヨギ草の採取ですか。いいんじゃないですか」

 なるほど。
 アスター、ナイス!

「では、さっそくこの依頼を受けてきますわ」

 西の森で薬草の採取か、じゃあ私も今のうちに西の森へ。

「すみません、この依頼を受けたいんですけど……」

 ……って、今はシオンが傍に居るから動けない!
 しまったな~ここでの時間ロスは、ローニにとってはかなり有利になっちゃう。
 く~! シオンの初依頼なんだから、しっかりとフォローしないと思った矢先に。

「はい、承りました……では、お気をつけて行ってらっしゃいませ」

「はいですわ。では、アスターさん向かいましょう!」

「了解です」

 行ったかな?
 そ~っと、覗いてみて……。

「……よし、大丈夫そうね」

 2人は外に出たと。

「よいしょっと、すみません! ありがとうございました!」

「もうカウンターの中に入っちゃ駄目ですからね~」

 私も急いで外に出て、後を追いかけ――。

「――っ!?」

 入り口のドアを開けたら、シオン達がまだギルドの前に居るし!
 何で? どうして、まだこんな所にいるのよ!?

「らっしゃい、らっしゃい。安いよ、安いよー」

 あの露店販売の商品を見ていたのか。
 何を売って……あら、あれはヨギ草じゃない。
 依頼の物が偶然売られて……ハッ違う! あの商人、フードを深々とかぶって顔が分かりにくいけど、絶対にローニだわ!
 馬鹿じゃないの!? いくら何でも、それだとシオンにバレちゃうわよ!

「ねぇアスターさん。あの露店……」

 ほら、やっぱり気付かれて――。

「……の売っている薬草は、わたくし達が取りに行く物ですわよね?」

 ……ないし。
 売っている物に目が行っちゃってて、気が付いていないの?
 それはそれで、良かったんだけども……何だろう、このすごく複雑な気分は。
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