鳳月眠人の声劇シナリオ台本

鳳月 眠人

文字の大きさ
上 下
12 / 21
ホラーギャグ

『松ぼっくりを拾う男』(男1:女0:不問1)

しおりを挟む


この話は実話を元に作成しております。
身内話ですみません。シュールギャグなやり取りをお楽しみください。


◆◇ここから台本◇◆

警官:
 男が夜な夜な、公園で怪しげなことをしているという通報があり巡回にきた。
 時刻は深夜3時。
 確か、松林あたりとのことだったな。……いた。
 トングと大きな鞄らしきものを持っている。なんだ、ごみ拾いでもしているのか。
 いい人じゃないか。

 まあ一応、声はかけておくか。


男:
 「よし。これだけあれば、広葉樹にも火がつくだろ」

警官:
 火? まさか放火? 何を拾っているんだ。
 「あー、お兄さん、こんばんは。ちょっとお話しいいですか?」

男:
 「え? ああ、はい。遅くにお勤めご苦労様です」

警官:
 「あどうも。お兄さん、こんな深夜にごみ拾いでもされてるんですか?」

男:
 「いや、松ぼっくりを少々」

警官:
 「……松ぼっくり?」

男:
 「ええ」

警官:
 「ちょっと鞄の中見せてもらってもいいですか?」

男:
 「どうぞ、拾った松ぼっくりしかありませんが……」

警官:
 ほんとに松ぼっくりだ
 「これは立派な。どれくらいあるんですかね?」
 なんの質問だ

男:
 「そうですね、1つ10グラム前後の……うん、全部で500グラムぐらいなんで、
 今日は50個ほど拾ったかんじですかね」

警官:
 的確な回答だな
 「何のために、こんなに? リースとか創作作品にでもお使いになるんですか?
 それともお子さんにお土産とか?」

男:
 「あ、着火剤……薪にするんです」

警官:
 「……薪に?」

男:
 「ええ、乾いてるとよく燃えるんですよ。松ぼっくりって」

警官:
 「そう、なんですか。どこで使うんですか?」

男:
 「いや、僕が使う訳ではないんですよ」

警官:
 「え?」

男:
 「えーっと、ちょっと会ったことはないんで顔は知らなくて、声だけ知ってる女性ですね」

警官:
 「顔は知らなくて、声だけ知ってる、女性」

男:
 「昔、ボイコネっていう「声でつながる」を謳っていたアプリがありましてね、
 そこで知り合った女性です。まぁ友人ですね」

警官:
 ネットでの知り合いという感じか……

男:
 「その子が先日ゆるキャンデビューしたんですが、彼女、
 お父上が庭で剪定した広葉樹を、薪として用意したらしいんです」

警官:
 「はあ」

男:
 「でも広葉樹って、なっかなか火がつかないんですよ。
 長くは燃えるらしいんですけどね。
 いやー、僕は日頃、人しか燃やしてないんで知らなかったんですけど」

警官:
 「ひと」

男:
 「ああ、仕事柄ね」

警官:
 「ちなみにお仕事は」

男:
 「葬儀屋をしております。あ、これ名刺です」

警官:
 「…………なるほど」

男:
 「で、「松ぼっくりはよく燃えるから着火剤になるぞ、
 そういえば家の近くに松林があるな」と僕が言ったら」

警官:
 「はあ」

男:
 「「拾って送ってくれ」と言われましてねぇ、ははは。
 彼女に送る松ぼっくりをこう、夜な夜な拾っているというわけなんですよ。
 最近、仕事が忙しくて過労気味で……いい息抜きになってます。
 そうだ、ちょっと試してみますか?」


警官:
 「えっ」

男:
 「僕はときどき思うんです。松ぼっくりこそが、真の薪だってね!」

警官:
 男は公園にある水道に、松ぼっくりを投げ入れ、ライターで火を付けた。
 瞬く間に燃え広がる松ぼっくり。

 「うわぁあ! 燃えてる! 燃えてる!」

男:
 「ねっ、よく燃える。ほらいいぞ、もっとくべてやる」

警官:
 「や、やめましょう! 放火罪で現行犯逮捕しますよ!」

男:
 「はっはっは、すぐ消しますよ。大丈夫」

警官:
 男は蛇口を捻り消火した。
 この男は、狂っている。不審者なんてもんじゃない。
 こちらの常識がおかしくなる怪奇現象のような……
 仕事に疲れた人間はこうもネジが飛んでしまうのか!?


男:
 「ああ、せっかく拾った松ぼっくり、消費してしまいましたね。
 これじゃ、足りない……」

警官:
 「はぁ、はぁ、まったく、どうして、こんなこと」

男:
 「僕が薪をくべるのはね……みんなの心に、火をつけるため、ですよ」

警官:
 暗い松林が、風にざわめく。
 月明かりに照らされたのは、真っ黒な林を背景に、こちらを見る、
 汗ばんだ中年男性の微笑み。えも言わぬ、不気味さ。

 そして畳み掛ける脳内ツッコミ。ちがう、そうじゃない──!



男:
 「あ!」

警官:
 「ヒッ」

男:
 「2人で拾えば、効率2倍ですね! 」

警官:
 「えっ」

男:
 「明日からちょっと天気崩れるんでね。しばらく拾えないなーと思ってたんですよ。
 ほら、乾かすの面倒じゃないですか。傘さしながら拾うのも大変だし」

警官:
 「あ、エエ、」

男:
 「いいもんですよ。真っ暗な針葉樹の中で松ぼっくりを一心に拾っているとね、
 「僕は今何してるんだろう」って思いを通り越してこう、ある種の悟りが出てくるんですよ」

警官:
 「ヒェ」

男:
 「松林で夜を明かし、朝日を浴びる気持ちよさ。
 フィトン・チッドに包まれる、すがすがしさ! 言葉になりませんよ!
 ね、トングお貸ししますから。

 小声)それに、おまわりさん、僕のことまだ疑ってるでしょう? 監視がてら、ね?」


警官:
 半泣き)あ、うう……拾います、夜が明けるまで……ッ!
 かくして不審者通報は、増えることとなった。





このシナリオは
かなりあ放鳥枠 HiME
毎週金曜 りいらじグループ
薪ボイスをあなたに 株式会社ふともも
世にも奇妙な とい音響グループ
ご覧のスポンサーでお送りしました

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

バレー部入部物語〜それぞれの断髪

S.H.L
青春
バレーボール強豪校に入学した女の子たちの断髪物語

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

兄になった姉

廣瀬純一
大衆娯楽
催眠術で自分の事を男だと思っている姉の話

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...