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ホラーギャグ
『松ぼっくりを拾う男』(男1:女0:不問1)
しおりを挟むこの話は実話を元に作成しております。
身内話ですみません。シュールギャグなやり取りをお楽しみください。
◆◇ここから台本◇◆
警官:
男が夜な夜な、公園で怪しげなことをしているという通報があり巡回にきた。
時刻は深夜3時。
確か、松林あたりとのことだったな。……いた。
トングと大きな鞄らしきものを持っている。なんだ、ごみ拾いでもしているのか。
いい人じゃないか。
まあ一応、声はかけておくか。
男:
「よし。これだけあれば、広葉樹にも火がつくだろ」
警官:
火? まさか放火? 何を拾っているんだ。
「あー、お兄さん、こんばんは。ちょっとお話しいいですか?」
男:
「え? ああ、はい。遅くにお勤めご苦労様です」
警官:
「あどうも。お兄さん、こんな深夜にごみ拾いでもされてるんですか?」
男:
「いや、松ぼっくりを少々」
警官:
「……松ぼっくり?」
男:
「ええ」
警官:
「ちょっと鞄の中見せてもらってもいいですか?」
男:
「どうぞ、拾った松ぼっくりしかありませんが……」
警官:
ほんとに松ぼっくりだ
「これは立派な。どれくらいあるんですかね?」
なんの質問だ
男:
「そうですね、1つ10グラム前後の……うん、全部で500グラムぐらいなんで、
今日は50個ほど拾ったかんじですかね」
警官:
的確な回答だな
「何のために、こんなに? リースとか創作作品にでもお使いになるんですか?
それともお子さんにお土産とか?」
男:
「あ、着火剤……薪にするんです」
警官:
「……薪に?」
男:
「ええ、乾いてるとよく燃えるんですよ。松ぼっくりって」
警官:
「そう、なんですか。どこで使うんですか?」
男:
「いや、僕が使う訳ではないんですよ」
警官:
「え?」
男:
「えーっと、ちょっと会ったことはないんで顔は知らなくて、声だけ知ってる女性ですね」
警官:
「顔は知らなくて、声だけ知ってる、女性」
男:
「昔、ボイコネっていう「声でつながる」を謳っていたアプリがありましてね、
そこで知り合った女性です。まぁ友人ですね」
警官:
ネットでの知り合いという感じか……
男:
「その子が先日ゆるキャンデビューしたんですが、彼女、
お父上が庭で剪定した広葉樹を、薪として用意したらしいんです」
警官:
「はあ」
男:
「でも広葉樹って、なっかなか火がつかないんですよ。
長くは燃えるらしいんですけどね。
いやー、僕は日頃、人しか燃やしてないんで知らなかったんですけど」
警官:
「ひと」
男:
「ああ、仕事柄ね」
警官:
「ちなみにお仕事は」
男:
「葬儀屋をしております。あ、これ名刺です」
警官:
「…………なるほど」
男:
「で、「松ぼっくりはよく燃えるから着火剤になるぞ、
そういえば家の近くに松林があるな」と僕が言ったら」
警官:
「はあ」
男:
「「拾って送ってくれ」と言われましてねぇ、ははは。
彼女に送る松ぼっくりをこう、夜な夜な拾っているというわけなんですよ。
最近、仕事が忙しくて過労気味で……いい息抜きになってます。
そうだ、ちょっと試してみますか?」
警官:
「えっ」
男:
「僕はときどき思うんです。松ぼっくりこそが、真の薪だってね!」
警官:
男は公園にある水道に、松ぼっくりを投げ入れ、ライターで火を付けた。
瞬く間に燃え広がる松ぼっくり。
「うわぁあ! 燃えてる! 燃えてる!」
男:
「ねっ、よく燃える。ほらいいぞ、もっとくべてやる」
警官:
「や、やめましょう! 放火罪で現行犯逮捕しますよ!」
男:
「はっはっは、すぐ消しますよ。大丈夫」
警官:
男は蛇口を捻り消火した。
この男は、狂っている。不審者なんてもんじゃない。
こちらの常識がおかしくなる怪奇現象のような……
仕事に疲れた人間はこうもネジが飛んでしまうのか!?
男:
「ああ、せっかく拾った松ぼっくり、消費してしまいましたね。
これじゃ、足りない……」
警官:
「はぁ、はぁ、まったく、どうして、こんなこと」
男:
「僕が薪をくべるのはね……みんなの心に、火をつけるため、ですよ」
警官:
暗い松林が、風にざわめく。
月明かりに照らされたのは、真っ黒な林を背景に、こちらを見る、
汗ばんだ中年男性の微笑み。えも言わぬ、不気味さ。
そして畳み掛ける脳内ツッコミ。ちがう、そうじゃない──!
男:
「あ!」
警官:
「ヒッ」
男:
「2人で拾えば、効率2倍ですね! 」
警官:
「えっ」
男:
「明日からちょっと天気崩れるんでね。しばらく拾えないなーと思ってたんですよ。
ほら、乾かすの面倒じゃないですか。傘さしながら拾うのも大変だし」
警官:
「あ、エエ、」
男:
「いいもんですよ。真っ暗な針葉樹の中で松ぼっくりを一心に拾っているとね、
「僕は今何してるんだろう」って思いを通り越してこう、ある種の悟りが出てくるんですよ」
警官:
「ヒェ」
男:
「松林で夜を明かし、朝日を浴びる気持ちよさ。
フィトン・チッドに包まれる、すがすがしさ! 言葉になりませんよ!
ね、トングお貸ししますから。
小声)それに、おまわりさん、僕のことまだ疑ってるでしょう? 監視がてら、ね?」
警官:
半泣き)あ、うう……拾います、夜が明けるまで……ッ!
かくして不審者通報は、増えることとなった。
このシナリオは
かなりあ放鳥枠 HiME
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