鳳月眠人の声劇シナリオ台本

鳳月 眠人

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あたたかい話(ヒューマンドラマ)

『有痛性泡沫症』(男0:女3)

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のんびり病み病み会話劇。どんなことを想って言葉を発しているのかの解釈は、演者様に委ねます。無駄なセリフはございません。


『有痛性泡沫症』
─ゆうつうせい うたかたしょう─

     作 / 鳳月 眠人


◇◆登場人物◆◇

蓮:れん
雪祈:ゆき
宿里:やどり


◇◆ここから台本◆◇


雪祈:
 ……わ、すごぉい、エントランスからもう、水族館みたい……きれい……


宿里:
 へぇー、このビル、一棟ぜんぶ?


蓮:
 そうそう。ねー! すごいっしょ?


雪祈:
 【個室水族館カフェ】おひるねアクアリウム……!


蓮:
 えーと、利用時間、2時間で。あ、ハイ。
 ねぇユキ、ヤドリ、どの階に行きたい?


宿里:
 なんか違うの?


蓮:
 上の階に行くほど、部屋の感じも鑑賞する水槽も
 明るくなってて、3階とかは水面近く、だね~
 地下は海底をイメージしてる感じ。かなり暗い。


雪祈:
 んー?
 3階、水面Larimarラリマー
 2階、浅瀬Aquamarineアクアマリン
 1階、海中Kyaniteカイヤナイト
 地下、深海Labradoriteラブラドライト……


宿里:
 ぜんぶ宝石の名前だぁ。


雪祈:
 私は……ゆっくりしたいし明るすぎない方が。


宿里:
 そうねぇ、漫喫ぐらいの暗さのほうが落ち着く。


蓮:
 漫喫て、例えw
 ならこの階かな。ここ一部屋で。


宿里:
 ん? 『お荷物はすべてロッカーへ』?


蓮:
 そうそう、スマホもNGなの、ここ。


雪祈:
 スマホも? 徹底してるね~


宿里:
 うわ、空港のやつ!!


蓮:
 そ、金属探知機。ふふ。装飾品はトレイにねー。



宿里:
 トンネルを抜けると、そこは……


雪祈:
 通路が全部、アーチ水槽……


宿里:
 でした……


雪祈:
 水槽の中に建物の柱が……すごいね。


蓮:
 ねー。維持費ヤバそう。


宿里:
 現実に戻っちゃうからぁ。


雪祈:
 あ、……この部屋だね。開けるよ……!



── ドアを開ける



宿里:(息を飲む)
 き、れい。


雪祈:
 壁一面、水槽なんだ。映画館のスクリーンみたい……
 あ、これってカイヤナイト?


蓮:
 そう、ちゃんとお部屋に各階の宝石が飾られてるんだよね。


雪祈:
 なんか書いてある……
 『カイヤナイトは、人生の岐路において、
 直感力と判断力を高めて持ち主を導き、
 勇気と自信を与えるとされています』


宿里:
 『光のレースが揺らめく、海中のようなこの石は、
 固定観念やしがらみといった心の呪縛を解き放ち、
 あなたの疲れを癒します』


蓮:
 ほんとに、海の中に光が差してるみたい。石も、水槽の方も。


宿里:
 くるくる、ゆらゆら、光の帯が青色になびいて深い海にいるみたい……
 あっ、マンタが張り付いてる、可愛い。


雪祈:
 この水槽、上下の階とぜーんぶ繋がってるんだね。
 魚が自由に行き来してる。
 これは癒される。すごい好き……

 あ! 人をダメにするソファだぁ~


宿里:
 のぁあ~……沈むぅ。


蓮:
 んふふ。あ、BGMいろいろ変えれるよ。どうする?


宿里:
 お任せする!


蓮:
 んー、んー、じゃあ、ヒーリング音楽ありの、海中の音。



── 短い間



雪祈:
 あ、いいね……


宿里:
 ──はぁ、落ち着く……



──会話の途切れる、少しの間



雪祈:
 こうやって、ずっと……ゆっくりしてたい……


蓮:
 うん……


宿里:
 ぼこぼこって、泡の音が、なんかいいね。
 包まれてるみたいで……気持ちいい。


蓮:
 泡……



── 間
── 目の前の大きな水槽を見つめる蓮
── おもむろに静かに話し始める。



蓮:
 私さ、


宿里:
 うん?


蓮:(ゆっくりした口調)
 …………
 誰にも、迷惑を掛けずに。
 泡みたいにそっと、消える様に逝けるなら
 それは理想の終わり方に近いのかもしれない
 って、思うの。
 ──あくまで自分の理想であってさ。
 他の人がそれを望むとは限らないけれど。

 私は確かに存在してて、急に消えちゃったら
 いろんなところに迷惑かける。
 悲しんでくれる人もさ、ありがたいことに、いる。
 でも誰にも迷惑、掛けたくないの。だから『消えたい』。
 初めから居なかったように、
 誰からの記憶からも消えるような消え方が理想だと、思うのよね……


宿里:
 わかるわぁ。


雪祈:
 わかる……


蓮:
 わかってくれるか……!
 けどさ、誰かひとりでもいいから、消えた時に……
 悲しんで、くれたら。それは幸せだなって思うの。このジレンマ。


雪祈:
 蓮が消えたら、わたしたち、めちゃめちゃ悲しむよ……


宿里:
 そうだよめっちゃ泣くよ。


蓮:
 うん、……しってる。ありがと……
 その涙と一緒に、泡に……なっちゃいたいって。
 それでも、思っちゃう。


雪祈:
 うん……
 ──そんな人、いたっけ?
 なんて言われるくらいの消え方をしてもいいって思うのに
 心の何処かでは泣いてくれる人が、いて欲しい。
 むしろ本当はずっと、傷として遺りたい。
 想われたい、って思うよね。


蓮:
 ねー。人間の心って、(似非外国人風に)ムズカシイネ。


雪祈:
 突然のカタコト。


宿里:
 ──病むぐらいは悲しまないでほしいけれど、
 いつまでも引きずるほどの悲しみは、あたえたくないけど、
 しばらくの間だけは、自分を思って泣いて欲しい。
 そういう複雑さ、すごくわかる。
 文学的で尊いよね……わかりすぎて、ハゲそう。


蓮:
 はげんでもろて……


宿里:
 おせっせ?


蓮:
 ちがう。


雪祈:
 んふっ。



蓮:
 ──まぁねこれがね、人として、ままならない部分だってわかってる。
 わかってても、それを求めてしまうのも人間だからこそ、なのかな。って。


宿里:
 はぁあ、深い。


雪祈:
 うん、うん。


蓮:
 雪祈は……落ち着いてきた?


雪祈:
 うん。何とか色々、解決に向かってるし……
 ちょっとずつ、快復してきたよ。


宿里:
 ……良かった……

雪祈:
 去年の、今頃は……ほんとに、しんどかった……
 幸せに、なるはず、だと思ってた。
 幸せになるために……歩いてきたつもりだったのに。
 どうして、なんで、上手くできないんだろう。
 頑張れないんだろう。
 みんなは、上手に頑張ってるのに。
 支え合って乗り越えて、行くのに。

 生きていくことって、こんなに大変なんだって……
 絶望した。



宿里:
 慣れって、一番怖いのよ。
 もう自分は必要とされてないんだ、って感じた瞬間にさ、
 私なんかいなくても、いいんじゃない? って。思っちゃうよ。

 生きなきゃいけないのに、定型で満たされない日々が、
 終わらせても終わらせても、ずっと沸いてくる。
 毎日ずっと、死ぬまで永遠に続く日々が、途方もなくて。
 前を見たら、足がすくんで。


 必要とされない、他人にとって価値のない存在の自分なのに
 どうして生きなきゃいけないんだろう。

 苦しい。悲しい。もういっその事、消えてしまいたい。
 消えたら……ねぇ、泣いてくれる? って。
 求められたかった、必要とされたい。それだけなのになぁ。



雪祈:
 …………う、(鼻をすする)


宿里:
 …………辛くて、痛かったね……


蓮:
 頑張ってるよ、頑張りすぎてるよ……泣け泣けぇ。


宿里:
 ユキ、はいティッシュ。あと、はい。ミュート。


雪祈:
 ありがと行ってくる(ミュート)


蓮:
 必要とされすぎて、依存されて搾取されても、消えたくなるんだろうね。
 つまりはぜんぶぜーんぶ、投げ出したいのよ。いっぱいいっぱいなの。
 生きるのが辛くなるくらい。
 だから生きるためには結局、何かを断ち切るしかないんだろうな。


宿里:
 幸せのために、ラクになるために、諦めなきゃいけないこともあるのよね。
 わかってた、はずなんだけどなぁ。


蓮:
 ヤドリも頑張りすぎ。


宿里:
 いやー、欲張りなくせに精神的ヒットポイントなさすぎなんよ。


雪祈:
 ただいま。ねねね、お手洗は天井が海月(クラゲ)の水槽だった!
 星空みたいだったよ!


宿里:
 おかえり、ユキ。マジで!


雪祈:
 アメニティーも揃ってるし、小物も可愛いし、スマホあったら確実に写真撮っちゃう……


宿里:
 あとで行こー!


蓮:
 あ、そういえば、軽食注文できるよ。


宿里:
 最高か? やだメニュー表まで可愛い。


雪祈:
 アフタヌーンティーセット……!


蓮:
 だよねそこ行くよね!


宿里:
 決定ですわ。



── 5秒程度の間



雪祈:
 のんびりできたねぇ~絶対また来たい。


蓮:
 なんかあの場所に行くとさ、時間がゆっくりに感じるんだよね。


宿里:
 確かに。フリートーク4本と比べたらめちゃくちゃゆっくり充実した気がする。


蓮:
 それな? 一瞬で時間溶けちゃうからねフリト。


雪祈:
 全ボイコネ民思ってるそれ、多分きっと。


蓮:
 ははは。あー。夕陽が綺麗だ!


宿里:
 こんな時間なんだね、もう。


雪祈:
 私……


宿里:
 ん?



雪祈:
 夕焼けと夜の紺色の境目って、空が白っぽくなってるじゃない?


宿里:
 ああ、淡く光ってる白っぽいところ?


雪祈:
 うん。あの空の色彩に、溶けちゃいたいなって、時々思うの。
 苦痛とか嫌な感情、ぜーんぶ浄化されて
 身体も心も白い色に溶けられたらいいのに。


宿里:
 ……うん、似合う。


雪祈:
 ありがと。


蓮:
 ……私は。逆にあの、夕陽のまわりの、一番赫いところ。
 灼熱の残り火に燃やされて融けて、蒸発したい。


宿里:
 レン……


蓮:
 ふふ。ヤドリは?


宿里:
 どの空の色も、キレイだなぁ。
 けど私は……もう何色にもなりたくない……


蓮:
 そっか、それもアリだなぁ。


雪祈:
 お疲れ様、だったね。


宿里:
 ありがとう……


蓮:
 ねぇ。


雪祈:
 うん。


蓮:
 枯れて、朽ちた花なんて、……忘れてね。


雪祈:
 忘れ、られるかな。


宿里:
 ドライフラワーにしちゃう。


蓮:
 色褪せてまで飾られたくないよぉ。


宿里:
 あは。そうなんだよね~


雪祈:
 うん……


雪祈:
 大変だ、生きるのって。生きてくのって。


蓮:
 早く終わらせたい……


宿里:
 さくっとね!


雪祈:
 物騒w



宿里:
 消えたくないって、思える日が


雪祈:
 いつかちゃんと、来ますように。


蓮:
 今日も現実に打ちのめされて、生きていく。


── 5秒以上待って、終演


モデルのろころこ様、ねねちゃ様に感謝を込めて
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