5 / 15
序
第4話
しおりを挟む
《 第百十七警衛隊より、英雄2名保護。Ⅲ型結晶1個、Ⅱ型結晶1個を鹵獲。ヘルーワィム結晶を第二隊へ転送します 》
《 第二隊、了解 》
「第三隊、了解」
ナイリの放った闇が陽射しに消えてゆくと、聳えるような波力種汚染ヘルーワィムの赤黒い光が極大に達しようとしていた。こちらが高出力の魔法攻撃を放ったように、あちらも高出力のエネルギーが充填したらしい。
ヘルーワィムの繰り出す聖属性のエネルギー波。それは訓練された警衛隊隊員たちによる連携障壁がなければ、大地に易々と穴を開ける威力。その被ダメージは射出元に近いほどに、大きい。
警衛隊長からの報告に短く応答したユイガは自分の隊に指示を下す。
「続いて総員防御体勢。ラヴァインとレオンはナイリの防御を固めろ。凌いだ後、レオンは5Cまで飛べ」
「了解」
ヘルーワィムはすべて、高エネルギー体を嗅ぎ付けて狙ってくる。撃譜チャージ中のナイリはエネルギーの塊であり、しかも集中しているため無防備になりがちだ。まして、ナイリは撃譜以外の魔法操作能力がない。防御は他の隊員が引き受けることになる。
ユイガの指示後間もなく、波力種汚染型は不穏な光を大きく閃かせ、辺り一面に死の光線を吐き出した。
《 っく、ぅっ──つ!》
敵陣に乗り込み、敏捷βを引き付けていたニーノが耐えきれなかったらしい。意識を失った身体が地上へ墜ちて行く。
数秒差で、上空からも2名墜ちてきた。その中にはメトロメニアらしき明青色もある。
英雄との戦いは、本隊ヘルーワィムとの戦闘とは一線を画す。第二隊も疲弊してきている。
《 高出力波、防御成功。市街損害なし 》
《 第二隊、桂1名、銀1名ダウン 》
「第三隊、香1名ダウン」
《 殲滅隊員3名を保護 》
《 第二隊、了解 》
「第三隊、了解」
報告と応答をするユイガの近くから、赤色の少年が熱気を帯びて前方へと飛び出した。ユイガも、回復させていた角行クラスのリレイドを転移魔法で敵陣前へ送り、攻めの陣形にしてゆく。
「あーくっそ、やられた! 超滲みるクソッ」
「だっせ、ベッタベタだな、ライ」
「うっせえぞシュアン、お前もヤられる呪いがかかれ」
「バカじゃね?」
ヘルーワィムに喰われていたルチルが、ナイリとアルヴィスの働きにより救出され戻ってきた。気が合うのだろうルチルとザクロはやはり、ミドルネームで呼び合っている。
「ルチルが戻ってきたか。ノイ、代わりにアルヴィスの後方4Eへ付け。ザクロは7Gへ。近接Ⅰを誘え。アルヴィスはレオンの後方でサポートしてやれ」
「ウケんなぁ、また飲まれるパターンじゃん新入りィ」
「うええ……マジかよマジだぁ」
出血し、痛々しい痣が所々に浮いたルチルは、ノイの肩を雑に叩いてエールを送った。
アルヴィスの後方につき、アルヴィスがレオンのサポートの為に移動して道を開ければ、ノイは波力種ヘルーワィムに対して一気に攻撃を仕掛けることができる位置となる。
そうすれば親玉を守る盾になるために、他のヘルーワィムが集まってくる。敵を手っ取り早く減らす為によく使われる挑発法だ。
しかし飲まれれてしまえば当然、また痛みと悪心に襲われる。ノイは涙目になりながら飛び出していった。
「敏捷βとかγに喰われるより全然マシだからな? ヤツらのナカ冗談抜きにエグい」
《 そうそう。でもそれ以外は慣れたら気持ちよくなってくるからな逆に 》
《 ドラッグ常用者みたいなコト言わないでくださいよぉ、絶対嘘だ!! 》
「うるさい、インカムで談笑しすぎだ。あと、ヘルーワィムは組織液を口にしなければそんなに悪い心地じゃない。慣れればだが」
《 ほらみろ 》
「隊長のってくんじゃんウケるわ」
「倒せば飲まれることもない、ノイ。ラヴァインの特恵賦与を活かせ」
《 ッぐぬぅぅ……! っ、薫風の讃歌、檻を成し豪旋よ穿て── 》
歌うような詠唱に従って顕現したのは目視できるほどの風圧の檻。そして続けて撃ち出される、嵐を圧縮したかのような空気の砲弾。
それは確かにヘルーワィムを撃ち抜き、いくつもの大穴を開けたのだが……
《 加護を聞こし召せ──リグ・ガンダヴァ、……ふぁっ!? えええ止まんねえええええいぎゃぁ》
ヘルーワィムは尚も進行を止めない。
そのまま翠髪の少年に突っ込んでいったヘルーワィムは、開けられた風穴からずぶずぶと少年を取り込んでしまった。
「攻撃は貫通しましたが飲まれましたね」
「徹底的に鍛え上げる必要があるな……」
抵抗する褐色の手足がバタバタと暴れている。
その様を見て、ナイリの前に壁となって立つララヴァインは冷静に状況を述べ、ユイガは目を細めて呟いた。
「リレイドは5Bへ。第三隊で波力種汚染を押さえる。ザクロは近接Ⅰに止めを刺して進軍しリレイドを援護しろ。アルヴィス、ノイを回収してやれ」
《 了解 》
ノイを飲み込み、風属性の魔力操作能力を乗っ取った敏捷α型ヘルーワィムは、身体中の凶器のようなスパイクを回転させていた。
そこから産み出される風刃は大気の塵や波力種を巻き込んで、ビルを破壊しそうな衝撃波を市街地へと放っている。
柔和な眼差しを鋭くし、最小限の身のこなしでアルヴィスは銃剣を振るう。
障壁を張り身を守りながら攻撃への魔力操作も怠らない。アルヴィスの魔力調整は巧みだった。
剣のきっさきは、光属性の波力種との共鳴で眩ゆい軌跡を描く。硬い筈のヘルーワィムの殻は熔けるように刻まれてゆき、その度に鈴の音の様な、澄んだ音が辺りに響いていた。
傷つけられ激しくなったヘルーワィムの抵抗をアルヴィスは冷静に受け捌く。
攻防の中、一瞬できた隙を彼は逃さなかった。ぶっすりと容赦なく銃剣をヘルーワィムに突き刺して、銃口から波力種の弾丸を連続で射出する。
ダダダダダ、という発砲音が止むと、巨大なウイルスは遂に己の形を留めておけずに仮死結晶化していった。
《 ッ、ごほっ、はぁっ 》
解放されたノイは組織液まみれだ。
肺が新鮮な空気を求めて、口に入った粘液を吐き出そうと咳き込んでいる。
《 大丈夫── 》
《 ふええアルヴ様ぁ……っ 》
《 う"っ…… 》
《 やっべこのぬるぬる感これは 》
手を差し伸べたアルヴィスに、ノイは涙を滲ませながら元気よくしがみついた。ヘルーワィムの組織液を拭かぬままだったせいで二人してベタベタだ。
見兼ねたユイガは、アルヴィスへぽつりと懲罰魔法の指示を下した。
「……アルヴィス、ノイへの懲罰魔法使用を許可する」
《 りょ、了解。ごめんッ 》
《 ご、っふぁ…… 》
「そのままノイを連れて戻ってこい。──第三隊、本隊ヘルーワィム殲滅完了」
《 警衛隊、了解 》
《 第二隊、了解 》
一悶着ありながら第三殲滅隊が本隊ヘルーワィムを全て駆除したその時。波力種汚染型ヘルーワィムの光が再び激しく収束し始めた。
《 警衛隊、まだいけるか! 》
《 あと3回は確実に防ぎ切ります 》
《 よし。第三隊、応援頼む! 》
「了解。飛車、金、桂と、鹵獲結晶を送ります。レオン、ラヴァイン、ルチル、上昇して第二隊へ加われ」
《 了解 》
「えええ、俺もぉ……? 人使い荒いわ」
ルチルがぶつぶつと漏らしつつ、渋々上空へ昇ってゆく。
レオンは上空を見上げ、2人より一拍遅れて上昇していった。
警衛隊の連携障壁の維持は、ヘルーワィムの高出力波が何度も襲えば次第に困難になってくる。
だが、波力種汚染型を屠ってしまえば英雄は取り返すことが出来ない。こちらの体制が崩れる間際、ギリギリまで英雄の奪還に時間を割く。
「総員防御体勢」
ユイガは短く指示をし、撃譜チャージ中のナイリと、戻ってきたアルヴィスとノイの前へ立った。
刀を横に構えて魔力を濃く練りあげ、4人分をカバーする障壁を大きく作り出す。
数刻後、青空を切り開くようなドス黒い光が瞬いた。ひりつく光線が障壁の外の空気を焼く。
「!……全くダメージがない……」
後ろのアルヴィスが小さく呟いた。
《 ──っあー、リレイドセンパイの特恵イイわ。被ダメ全然マシ 》
《 ん、……良かった 》
波力種汚染型に最も近いリレイドとザクロの声が通信から聞こえる。負傷はしたようだが防御に成功していた。
《 隊長、汚染型核の破壊、いつでもヤれるから 》
《 了解。常に詰めておけ 》
《 りょーかい 》
第三隊間の通信に被せるように、慌ただしく全体通信の報告が入る。
《 高出力波、防御成功。警衛隊1名ダウン、市街損害なし 》
《 第二隊、角1名、桂1名ダウン 》
「第三隊、損害なし」
《 殲滅隊員2名を保護 》
《 第二隊、了解 》
「──撃譜30秒前」
ナイリがすぅっと目線を上げ感情エネルギーのチャージ完了を告げた。
《 第二隊撃譜20秒前、総員防御体勢。第三隊もそろそろか? 第二隊、第三隊ともに撃譜はジングハーツ隊長中心に撃て 》
「了解。ナイリ、第二隊撃譜の後に英雄飛車中心に撃て」
「了解」
第二殲滅隊エクリ隊長の通信の後、続けざまに光と闇の撃譜魔法が放たれた。空が数刻のうちに昼と夜に塗りあげられる。
《 ──クソかってぇなァジングハーツ隊長は……今ので何故墜ちない 》
悔しそうなインカム越しの声が指しているのは、上空にひとり残る勇者然とした初代英雄だった。
第二隊・第三隊の動ける人員が隊長を含め総出で攻撃を放っている。だが勇者はそれを巧みに往なし躱し捌き、時に反撃しながら攻撃を受け切ってゆく。
「ノイ、起きろ。おい、…………令威」
「ッは!!? いったァッ!!!」
「俺も第二隊を援護する。アルヴィスとノイの二人でナイリを護れ。もしもの時はノイ、お前が汚染型に止めをさせ。半端なエネルギーを練るなよ」
「──、了解」
「ご武運を」
神妙な顔つきで頷くノイとアルヴィスを残し、ユイガも上空へ上がっていった。
激しい魔法攻撃が展開されている、英雄の方へ。
《 第二隊、了解 》
「第三隊、了解」
ナイリの放った闇が陽射しに消えてゆくと、聳えるような波力種汚染ヘルーワィムの赤黒い光が極大に達しようとしていた。こちらが高出力の魔法攻撃を放ったように、あちらも高出力のエネルギーが充填したらしい。
ヘルーワィムの繰り出す聖属性のエネルギー波。それは訓練された警衛隊隊員たちによる連携障壁がなければ、大地に易々と穴を開ける威力。その被ダメージは射出元に近いほどに、大きい。
警衛隊長からの報告に短く応答したユイガは自分の隊に指示を下す。
「続いて総員防御体勢。ラヴァインとレオンはナイリの防御を固めろ。凌いだ後、レオンは5Cまで飛べ」
「了解」
ヘルーワィムはすべて、高エネルギー体を嗅ぎ付けて狙ってくる。撃譜チャージ中のナイリはエネルギーの塊であり、しかも集中しているため無防備になりがちだ。まして、ナイリは撃譜以外の魔法操作能力がない。防御は他の隊員が引き受けることになる。
ユイガの指示後間もなく、波力種汚染型は不穏な光を大きく閃かせ、辺り一面に死の光線を吐き出した。
《 っく、ぅっ──つ!》
敵陣に乗り込み、敏捷βを引き付けていたニーノが耐えきれなかったらしい。意識を失った身体が地上へ墜ちて行く。
数秒差で、上空からも2名墜ちてきた。その中にはメトロメニアらしき明青色もある。
英雄との戦いは、本隊ヘルーワィムとの戦闘とは一線を画す。第二隊も疲弊してきている。
《 高出力波、防御成功。市街損害なし 》
《 第二隊、桂1名、銀1名ダウン 》
「第三隊、香1名ダウン」
《 殲滅隊員3名を保護 》
《 第二隊、了解 》
「第三隊、了解」
報告と応答をするユイガの近くから、赤色の少年が熱気を帯びて前方へと飛び出した。ユイガも、回復させていた角行クラスのリレイドを転移魔法で敵陣前へ送り、攻めの陣形にしてゆく。
「あーくっそ、やられた! 超滲みるクソッ」
「だっせ、ベッタベタだな、ライ」
「うっせえぞシュアン、お前もヤられる呪いがかかれ」
「バカじゃね?」
ヘルーワィムに喰われていたルチルが、ナイリとアルヴィスの働きにより救出され戻ってきた。気が合うのだろうルチルとザクロはやはり、ミドルネームで呼び合っている。
「ルチルが戻ってきたか。ノイ、代わりにアルヴィスの後方4Eへ付け。ザクロは7Gへ。近接Ⅰを誘え。アルヴィスはレオンの後方でサポートしてやれ」
「ウケんなぁ、また飲まれるパターンじゃん新入りィ」
「うええ……マジかよマジだぁ」
出血し、痛々しい痣が所々に浮いたルチルは、ノイの肩を雑に叩いてエールを送った。
アルヴィスの後方につき、アルヴィスがレオンのサポートの為に移動して道を開ければ、ノイは波力種ヘルーワィムに対して一気に攻撃を仕掛けることができる位置となる。
そうすれば親玉を守る盾になるために、他のヘルーワィムが集まってくる。敵を手っ取り早く減らす為によく使われる挑発法だ。
しかし飲まれれてしまえば当然、また痛みと悪心に襲われる。ノイは涙目になりながら飛び出していった。
「敏捷βとかγに喰われるより全然マシだからな? ヤツらのナカ冗談抜きにエグい」
《 そうそう。でもそれ以外は慣れたら気持ちよくなってくるからな逆に 》
《 ドラッグ常用者みたいなコト言わないでくださいよぉ、絶対嘘だ!! 》
「うるさい、インカムで談笑しすぎだ。あと、ヘルーワィムは組織液を口にしなければそんなに悪い心地じゃない。慣れればだが」
《 ほらみろ 》
「隊長のってくんじゃんウケるわ」
「倒せば飲まれることもない、ノイ。ラヴァインの特恵賦与を活かせ」
《 ッぐぬぅぅ……! っ、薫風の讃歌、檻を成し豪旋よ穿て── 》
歌うような詠唱に従って顕現したのは目視できるほどの風圧の檻。そして続けて撃ち出される、嵐を圧縮したかのような空気の砲弾。
それは確かにヘルーワィムを撃ち抜き、いくつもの大穴を開けたのだが……
《 加護を聞こし召せ──リグ・ガンダヴァ、……ふぁっ!? えええ止まんねえええええいぎゃぁ》
ヘルーワィムは尚も進行を止めない。
そのまま翠髪の少年に突っ込んでいったヘルーワィムは、開けられた風穴からずぶずぶと少年を取り込んでしまった。
「攻撃は貫通しましたが飲まれましたね」
「徹底的に鍛え上げる必要があるな……」
抵抗する褐色の手足がバタバタと暴れている。
その様を見て、ナイリの前に壁となって立つララヴァインは冷静に状況を述べ、ユイガは目を細めて呟いた。
「リレイドは5Bへ。第三隊で波力種汚染を押さえる。ザクロは近接Ⅰに止めを刺して進軍しリレイドを援護しろ。アルヴィス、ノイを回収してやれ」
《 了解 》
ノイを飲み込み、風属性の魔力操作能力を乗っ取った敏捷α型ヘルーワィムは、身体中の凶器のようなスパイクを回転させていた。
そこから産み出される風刃は大気の塵や波力種を巻き込んで、ビルを破壊しそうな衝撃波を市街地へと放っている。
柔和な眼差しを鋭くし、最小限の身のこなしでアルヴィスは銃剣を振るう。
障壁を張り身を守りながら攻撃への魔力操作も怠らない。アルヴィスの魔力調整は巧みだった。
剣のきっさきは、光属性の波力種との共鳴で眩ゆい軌跡を描く。硬い筈のヘルーワィムの殻は熔けるように刻まれてゆき、その度に鈴の音の様な、澄んだ音が辺りに響いていた。
傷つけられ激しくなったヘルーワィムの抵抗をアルヴィスは冷静に受け捌く。
攻防の中、一瞬できた隙を彼は逃さなかった。ぶっすりと容赦なく銃剣をヘルーワィムに突き刺して、銃口から波力種の弾丸を連続で射出する。
ダダダダダ、という発砲音が止むと、巨大なウイルスは遂に己の形を留めておけずに仮死結晶化していった。
《 ッ、ごほっ、はぁっ 》
解放されたノイは組織液まみれだ。
肺が新鮮な空気を求めて、口に入った粘液を吐き出そうと咳き込んでいる。
《 大丈夫── 》
《 ふええアルヴ様ぁ……っ 》
《 う"っ…… 》
《 やっべこのぬるぬる感これは 》
手を差し伸べたアルヴィスに、ノイは涙を滲ませながら元気よくしがみついた。ヘルーワィムの組織液を拭かぬままだったせいで二人してベタベタだ。
見兼ねたユイガは、アルヴィスへぽつりと懲罰魔法の指示を下した。
「……アルヴィス、ノイへの懲罰魔法使用を許可する」
《 りょ、了解。ごめんッ 》
《 ご、っふぁ…… 》
「そのままノイを連れて戻ってこい。──第三隊、本隊ヘルーワィム殲滅完了」
《 警衛隊、了解 》
《 第二隊、了解 》
一悶着ありながら第三殲滅隊が本隊ヘルーワィムを全て駆除したその時。波力種汚染型ヘルーワィムの光が再び激しく収束し始めた。
《 警衛隊、まだいけるか! 》
《 あと3回は確実に防ぎ切ります 》
《 よし。第三隊、応援頼む! 》
「了解。飛車、金、桂と、鹵獲結晶を送ります。レオン、ラヴァイン、ルチル、上昇して第二隊へ加われ」
《 了解 》
「えええ、俺もぉ……? 人使い荒いわ」
ルチルがぶつぶつと漏らしつつ、渋々上空へ昇ってゆく。
レオンは上空を見上げ、2人より一拍遅れて上昇していった。
警衛隊の連携障壁の維持は、ヘルーワィムの高出力波が何度も襲えば次第に困難になってくる。
だが、波力種汚染型を屠ってしまえば英雄は取り返すことが出来ない。こちらの体制が崩れる間際、ギリギリまで英雄の奪還に時間を割く。
「総員防御体勢」
ユイガは短く指示をし、撃譜チャージ中のナイリと、戻ってきたアルヴィスとノイの前へ立った。
刀を横に構えて魔力を濃く練りあげ、4人分をカバーする障壁を大きく作り出す。
数刻後、青空を切り開くようなドス黒い光が瞬いた。ひりつく光線が障壁の外の空気を焼く。
「!……全くダメージがない……」
後ろのアルヴィスが小さく呟いた。
《 ──っあー、リレイドセンパイの特恵イイわ。被ダメ全然マシ 》
《 ん、……良かった 》
波力種汚染型に最も近いリレイドとザクロの声が通信から聞こえる。負傷はしたようだが防御に成功していた。
《 隊長、汚染型核の破壊、いつでもヤれるから 》
《 了解。常に詰めておけ 》
《 りょーかい 》
第三隊間の通信に被せるように、慌ただしく全体通信の報告が入る。
《 高出力波、防御成功。警衛隊1名ダウン、市街損害なし 》
《 第二隊、角1名、桂1名ダウン 》
「第三隊、損害なし」
《 殲滅隊員2名を保護 》
《 第二隊、了解 》
「──撃譜30秒前」
ナイリがすぅっと目線を上げ感情エネルギーのチャージ完了を告げた。
《 第二隊撃譜20秒前、総員防御体勢。第三隊もそろそろか? 第二隊、第三隊ともに撃譜はジングハーツ隊長中心に撃て 》
「了解。ナイリ、第二隊撃譜の後に英雄飛車中心に撃て」
「了解」
第二殲滅隊エクリ隊長の通信の後、続けざまに光と闇の撃譜魔法が放たれた。空が数刻のうちに昼と夜に塗りあげられる。
《 ──クソかってぇなァジングハーツ隊長は……今ので何故墜ちない 》
悔しそうなインカム越しの声が指しているのは、上空にひとり残る勇者然とした初代英雄だった。
第二隊・第三隊の動ける人員が隊長を含め総出で攻撃を放っている。だが勇者はそれを巧みに往なし躱し捌き、時に反撃しながら攻撃を受け切ってゆく。
「ノイ、起きろ。おい、…………令威」
「ッは!!? いったァッ!!!」
「俺も第二隊を援護する。アルヴィスとノイの二人でナイリを護れ。もしもの時はノイ、お前が汚染型に止めをさせ。半端なエネルギーを練るなよ」
「──、了解」
「ご武運を」
神妙な顔つきで頷くノイとアルヴィスを残し、ユイガも上空へ上がっていった。
激しい魔法攻撃が展開されている、英雄の方へ。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開




飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる