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27.見えぬ足の引っ張り合い

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 ゼインはその治世から、古き良き家を主張する多くの貴族を遠ざけてきた。
 彼らこそがアウストゥール王国が変化をせぬよう堰き止めてきた要因とみなしていたからである。

 ゼインが即位直後の彼らの騒ぎようは特に酷いものだった。

 当然重臣に選ばれるものだと信じていたのだろう。
 選ばれなかった彼らの恨みは根深く。
 遠巻きにしながらも若き王はものを知らぬと囁き合っていたこと。
 どうせすぐに泣き付いてくるだろうと期待して待っていたこと。
 それらすべてをゼインはしっかり把握していた。

 だからと言って、古くからある貴族家の全員を遠ざけていたわけでもない。
 変化に寛容で、ゼインの期待に応えた貴族らは、適材適所で重用してきたのだ。
 
 ゼインからすれば、不満があるなら態度や結果で示せというところ。


 そのうち戦が始まれば、足を引っ張ったのはやはり彼らで。
 はじめは猛反対し、戦には協力しないと宣言するや、各自領地に籠って本当に何もしなかった。

 彼らが変わったのは、アウストゥール王国が最初の勝利を収めて、一国を併合した後である。
 
 見事に手のひらを返し、ゼインを称賛しながら擦り寄ってきた彼ら。
 功績を上げようと領地で多くの兵を集めては、誰の許可なく国境沿いへと派遣したし。
 領地の特産物をせっせと王城に献上しては、初戦に兵を出さなかったのはこの蓄えを作っておいたからだぞ喜べという態度。
 そして誰もが我が娘、姪、孫……と関わり深い娘を妃にどうかと言ってきたわけである。


 ここで騒ぎ始めた侯爵もこの一人だ。


「発言に一貫性のない者を俺は相談役に選ばない」

「なっ。私どもの発言は一貫しておりましょう!」

「よく言うものだ。そういえば、お前も早く王妃を選べと煩く言っていたな?俺は選んだが、それで何が不満だ?」

「ですから!そのような大事を私どもにご相談なくお決めになられては困るのです!」

 戦が落ち着けばゼインの意思も変わるだろう。
 貴族らは期待して、それぞれに作戦を練っていたはず。

 その矢先にフロスティーンの登場である。

 なんとしても此度の婚姻を無効にしてやろうと考え、この場に足を運んでいるのは、侯爵一人ではないだろう。


 ──上手く破談へと運べば、娘を妃にするのに後押ししてやるとでも言われたか。

 ──ほんの少し先も見えぬ男が外戚を願うなど。愚かにも程があろう。


 たとえフロスティーンとの結婚の話が奇跡的に破談になろうとも、この場で問題を起こすような娘を妃に据えることを他の貴族らは決して認めないだろう。

 それを分かっていないのは、侯爵だけ。

 侯爵を唆した者たちは、今日でライバルが一人減ったと、喜んでいるに違いない。

「こういった国の大事こそ、私どものような古くからある家を頼っていただかなければ。それは陛下のためでもございます」


 ──まだと言うか。自分一人で責任を取る覚悟がないから、こうなるといういい例だな。



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