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25.開示する王女

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「私も同じように考えていたときがありました。けれども私が生まれた際にどなたかに不幸が起きたという事実はありません。これは私の出生時に同室にあった方に確認しています」


 ──出生のときにも何もなかっただと?ならば……。


 ゼインは疑いを持ったが、フロスティーンを見詰めたところでその答えは得られない。

 サヘラン王国では、王と王妃の娘としてフロスティーンの存在は正式に公表されている。
 サヘランの現王に側妃や妾妃がいるという話も聞かないし、王妃の懐妊もフロスティーンが生まれる時期に合うよう発表されていた。

 外から見る限りは、おかしな点はないのだ。
 ただひとつ、王家の娘があえて『厄災の王女』と呼ばれている以外には。


 ──実は他の女の子どもか?あるいは父親が違ったか?


 王と王妃の仲の良さが諸外国にも知れ渡っていることから、その線は考えられた。
 フロスティーンの両親の片方が公表と違っていれば、王家としては受け入れ難い醜聞と言えたのかもしれない。


 ──だとしても、おかしい。


 ならば生まれる前に、あるいは生まれたあとに、その子を処理すればいい話だ。
 どこの王家にだってそれくらいは容易いこと。
 発覚したのが王妃の懐妊を発表した後だったとしても、悲しいことが起きてしまったと公表すればそれで済んだ。

 不名誉な呼び名を与えあえて生かしておいた理由が、どうしても分からないゼインだった。
 だがそれを有難いとも感じている。


「生まれた後については、私に関わりの深い人として、幼い私の世話をしてくれた方が一名亡くなっておりますが」


 ──それは笑顔で言うことではないぞ、フロスティーン。


 目を泳がせ続けていた侯爵も、今は顔を引き攣らせ、フロスティーンの笑顔を見詰め固まっていた。
 侯爵のことはどうでも良かったが、笑って人の死を語るものではないことを急ぎ教えようとゼインは決める。


「その方が亡くなったのは、私と離れてから大分後のことでした。私の影響が確かにあったと言えるような、厄災らしい亡くなり方もしておりません」

 練習の賜物で、柔らかく微笑むフロスティーンの言葉は続く。

「ですから厄災の王女と呼ばれていたことは事実でも、そう呼ばれるに値する力を私が本当に持っているかどうか、根拠が不十分であり、これを認めることは出来ないのです」

 フロスティーンが発言を止めれば、とても夜会が開かれている場所とは思えない静寂が会場を包んだ。

 誰もがふわりと柔らかく微笑むフロスティーンを見詰めているなかで、フロスティーンの視線だけが侯爵へと向かっている。

 やがて。

 額に汗を滲ませた侯爵が、沈黙に観念したように口を開いた。

「周りからそのように呼ばれていた、その事実だけで十分でございましょう。サヘラン王国が厄災の王女と知ってあなたを送って来た、これが問題なのです」

 フロスティーンは笑顔のまま静かに頷いた。
 だが続く発言はない。

 侯爵は笑みを浮かべるフロスティーンの視線にはすぐに耐えられなくなって。
 
 目を逸らして、ついにゼインを見た。

 冷え冷えとした瞳に気付き一瞬は怯んだ侯爵だったが、それでも目的のためにと重い口を開いて語る。

「陛下、この通りですから。私どもは、厄災の王女との婚姻を取りやめるよう進言いたします」




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