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22.謝意を表する王女
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「私たちの結婚については、最近まで発表されていなかったとお聞きしました」
柔らかい笑みを浮かべて、そう言ったフロスティーン。
一瞬呆けてしまったのは、令嬢だけでなく、侯爵も同じだ。
ゼインとて多少は驚いていたのだから、それは自然な反応である。
だがゼインとすれば、突拍子のない発言だからこそ、いつものフロスティーンなのだと認識出来た。
──お手並み拝見といくか?だとしてもだ。
侯爵家の面々をぎろりと睨みつけたあと、重臣らへと目配せをするゼイン。
──王妃として扱えと言った後だ。ここをどう収めてくれようと、俺は許さない。
重臣らもそれぞれに目で同意を示した。
国内の貴族らを集めたこの場での愚行は、王への侮辱として捉えられる。
相手がフロスティーンであろうと、そこは関係ない。
しかも今日は将来の王妃を発表する祝いの席だ。
衆目があるからこそ甘い処罰で済ませるわけにはいかなかった。
要は見せしめ。
そして彼らは人選としてちょうどいい相手だった。
自分からのこのことやって来て醜態をさらしてくれたことだけは、ゼインも重臣たちも後で感謝することだろう。
「そ、そうね。それが何かしら?」
「ミュラー侯爵家には素晴らしい情報収集力がおありなのだと思いまして。私が相手と知ってから、この場に間に合うようにすみやかに他国の情報を入手したとすれば、その手腕は見事だと言えますね。ご領地で生産されている小麦を他国へと輸出されている関係でしょうか?」
誰もがフロスティーンを見ていた。
最も身近で見ている者がゼインとなる。
──やはり普段から考えてのことか。
意外とお喋りであることが判明した王女は、その発言のどれもが素直な心を吐露したものではなかったということ。
ゼインとしては、感じ取っていた結果であるも、明確に知りたいことではなかった。
それでも。
──食事中のあれだけは本音だろう。出て来るのは不穏な言葉ばかりだが。
自分だけが知る……のではないが、他には侍女らくらいしか知らないフロスティーンが存在することに強く安堵を感じて、ゼインは喉の奥だけで笑った。
──こんなときに。本当にどうかしている。
そう。こんなときに考えることではない。
「な、何よ、急に。どうしてうちが小麦を作っていることを知っているのよ」
「毎日頂いているパンの材料がそちらのご領地で生産されたものだとお聞きしました。安定した品質を維持出来るようにと改良を重ねたもので、他国でも人気があるそうですね?耐寒性を強めたことで、長期間栽培出来るようになり、価格を安定して供給出来るところも魅力なのでしょう?」
「か、改良……価格……?」
戸惑いながら、令嬢は胸を反らせた。
「それはうちの小麦は素晴らしいと世界中で評判でしてよ?それがどうしたと仰るの?」
「私もお礼を伝えたかったのです。おかげさまで柔らかいパンを頂くことが出来ています。ありがとう」
「うちの小麦が美味しいのは当然ですもの。王女様からお礼を頂くほどのことではございませんわ!」
言い終えてからはっとした令嬢。
意外と気付くのは早かった。
「ご機嫌を取ろうとでもいうのかしら?わたくしたちを褒めたってあなたが厄災の王女であることは変わりませんことよ?」
しかしこの娘、ゼインのことを抜きにしても、他国の王女相手に大分失礼な物言いをする。
それなのにフロスティーンは。
「認識がずれてしまいましたね。私の言葉が足りず誤解を与えてしまったのでしょうか?」
「誤解ですって?」
「私が認めたのは、厄災の王女と呼ばれていたという事象だけです」
不快さも示さずに、笑顔のまま淡々と言葉を発していく。
それはあの謁見の間で見せていた姿と変わらぬものであることに、ゼインだけでなく重臣たちも気が付いたようだ。
──このひと月。本質は何も変わらなかった。俺は笑顔という仮面を付けさせただけか。
柔らかい笑みを浮かべて、そう言ったフロスティーン。
一瞬呆けてしまったのは、令嬢だけでなく、侯爵も同じだ。
ゼインとて多少は驚いていたのだから、それは自然な反応である。
だがゼインとすれば、突拍子のない発言だからこそ、いつものフロスティーンなのだと認識出来た。
──お手並み拝見といくか?だとしてもだ。
侯爵家の面々をぎろりと睨みつけたあと、重臣らへと目配せをするゼイン。
──王妃として扱えと言った後だ。ここをどう収めてくれようと、俺は許さない。
重臣らもそれぞれに目で同意を示した。
国内の貴族らを集めたこの場での愚行は、王への侮辱として捉えられる。
相手がフロスティーンであろうと、そこは関係ない。
しかも今日は将来の王妃を発表する祝いの席だ。
衆目があるからこそ甘い処罰で済ませるわけにはいかなかった。
要は見せしめ。
そして彼らは人選としてちょうどいい相手だった。
自分からのこのことやって来て醜態をさらしてくれたことだけは、ゼインも重臣たちも後で感謝することだろう。
「そ、そうね。それが何かしら?」
「ミュラー侯爵家には素晴らしい情報収集力がおありなのだと思いまして。私が相手と知ってから、この場に間に合うようにすみやかに他国の情報を入手したとすれば、その手腕は見事だと言えますね。ご領地で生産されている小麦を他国へと輸出されている関係でしょうか?」
誰もがフロスティーンを見ていた。
最も身近で見ている者がゼインとなる。
──やはり普段から考えてのことか。
意外とお喋りであることが判明した王女は、その発言のどれもが素直な心を吐露したものではなかったということ。
ゼインとしては、感じ取っていた結果であるも、明確に知りたいことではなかった。
それでも。
──食事中のあれだけは本音だろう。出て来るのは不穏な言葉ばかりだが。
自分だけが知る……のではないが、他には侍女らくらいしか知らないフロスティーンが存在することに強く安堵を感じて、ゼインは喉の奥だけで笑った。
──こんなときに。本当にどうかしている。
そう。こんなときに考えることではない。
「な、何よ、急に。どうしてうちが小麦を作っていることを知っているのよ」
「毎日頂いているパンの材料がそちらのご領地で生産されたものだとお聞きしました。安定した品質を維持出来るようにと改良を重ねたもので、他国でも人気があるそうですね?耐寒性を強めたことで、長期間栽培出来るようになり、価格を安定して供給出来るところも魅力なのでしょう?」
「か、改良……価格……?」
戸惑いながら、令嬢は胸を反らせた。
「それはうちの小麦は素晴らしいと世界中で評判でしてよ?それがどうしたと仰るの?」
「私もお礼を伝えたかったのです。おかげさまで柔らかいパンを頂くことが出来ています。ありがとう」
「うちの小麦が美味しいのは当然ですもの。王女様からお礼を頂くほどのことではございませんわ!」
言い終えてからはっとした令嬢。
意外と気付くのは早かった。
「ご機嫌を取ろうとでもいうのかしら?わたくしたちを褒めたってあなたが厄災の王女であることは変わりませんことよ?」
しかしこの娘、ゼインのことを抜きにしても、他国の王女相手に大分失礼な物言いをする。
それなのにフロスティーンは。
「認識がずれてしまいましたね。私の言葉が足りず誤解を与えてしまったのでしょうか?」
「誤解ですって?」
「私が認めたのは、厄災の王女と呼ばれていたという事象だけです」
不快さも示さずに、笑顔のまま淡々と言葉を発していく。
それはあの謁見の間で見せていた姿と変わらぬものであることに、ゼインだけでなく重臣たちも気が付いたようだ。
──このひと月。本質は何も変わらなかった。俺は笑顔という仮面を付けさせただけか。
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