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13.空っぽな王女

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 二人の食事の席に侍従が一人待機するようになったのは、フロスティーンがよく話す王女であると知られてからだ。
 この侍従はアウストゥール王国の事務的な分野に知識が明るい男で、その知識はゼインのそれを軽々と超えており、此度の役目を与えられることになった。

「王妃の権限に関する法はございません。私の知る限りとなりますが、王族方の権限をこれと明記した書面もございません。お知りになりたい情報は、王妃の業務内容についてかと思いますが。歴代の王妃様について辿りましても、業務のために使用された権限はそのときどきで違っております。御名を用いて新法を制定なさった王妃もございますし、ご自身の予算から救護院を設立されて慈愛活動に従事した王妃もございました。逆にほとんど記録には残っていない王妃もございます」

「だそうだ。答えがこれでは不満か、フロスティーン?」

「いいえ、不満などはございません。つまり王妃の権限と義務は、その時々の王に従うものという理解でよろしいでしょうか?」

「まぁ、そうなるな。王妃となれど、俺の許しなく好き勝手にはさせられん」

「では何を決定するにも、ゼイン様のご判断を仰ぐことにいたします」

 十年も戦に明け暮れてきたゼインは、人間の隠した感情や本心を他者よりは鋭敏に感じ取れると自負していた。
 しかしどうにもこれまでの経験から得たものが、フロスティーンには通用しない。

 無表情で淡々と語るそこに悪意も敵意も感じはしないが、では何がある?と問われると、ゼインには答えが見えなかった。

 フロスティーンは何も隠さないし、聞けば先のように発言の目的だって明確に語ってくれる。
 それなのに、その本心は閉ざされたままだ。

 こうなってくると、ゼインにも薄々と察するものがあった。


「王妃としての仕事もさることながら、婚姻前にも何かすべきことがあれば、何なりとお申し付けくださいませ」


 ──単に何の願望も持っていないだけなのか?

 
 心にないものは、いくら経験を重ねようと、探れるものではない。

 侍女の言葉をすべて受け入れ、粛々と従う王女。
 好きな料理を聞かれても、好きな茶を問われても、何故か謝り、分からないと答える王女。
 甘味に関してはかなり好んでいるとは見受けられるも、ではどのデザートが好きかと問われれば、やはり同じで。
 好きな服ひとつとて、自分では選ぶことが出来ない。


 ──意外と本人も自分を知らないのかもしれないな。


「仕事が欲しいか?」

「与えてくださるならば、遂行します」


 ──さて、どうしたものか。


 ゼインはにやりと笑うと、会話の主導権を奪うことにした。



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