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第一章 厄災の王女
10.知られることのないままに
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吐き捨てるように言ったゼインに、鉄格子の向こうから男は声を荒げた。
「なんだと?俺が愚かだと言ったのか?」
「愚かでなくて何なのだ?来る前に手を出さなかったことには、礼を言ってやる。どうせここまでの命だ。愚かなお前にも一度くらいは与えられる感謝というものを知らせてやろう。喜ぶといい」
男は瞠目したあとに、今度はゼインを睨みつけながらぎりぎりと音を立てて歯を噛み締めた。
「話が違うじゃねぇか」
「話とは?何のことだ?」
わざとらしくならないように、ゼインが問えば。
男はすらすらと内情を語り出す。
今までこの地下牢に置いてきた者たちを思い出せば。
なんと扱いやすい者たちだろうか。
ゼインだけでなく、この場を守るアウストゥールの騎士たちもそれを感じた。
「あんたに渡した書状に書いてあっただろうよ。要らぬなら俺たちで処理すると。あんただって、だから俺たちを引き留めていたんだろう?自国の奴らに国際問題になりそうな面倒事を押し付けたくはねぇよな」
そこまで聞き出したゼインは、小さく息を吐き出しながら笑った。
それで男はまた少しの期待をしてしまったのだろう、表情が明るくなるも。
「どこまでも愚かだな。正式な書状にそのようなことが書かれているわけがなかろう。そんなものを他国に与えれば、いくらでも使い道があるのだぞ?」
あっという間に男の顔が青ざめていく。
同時に他の牢に入る者たちも顔色が悪くなった。
「そんなはずは……俺たちについては書いておくと。確かに王子がそう言って……」
ゼインはにやりと笑ったが、牢に入る者たちはその意味を深く考えない。
「そうだな。お前たちについての記述はあった」
ほら見ろ!というように、たちまち表情を明るくした男たちであったが。
「お前たちのことは好きにせよということだ。だからこうして好きにしているわけだが」
「は?」
「え?」
男たちと女が目に見えて動揺し、ゼインは声を上げて笑った。
「嘘よ!そんなことあり得ないわ!」
今度は女が叫ぶ。
ゼインがぎろりと睨めば、一瞬は怯んだ女であったが。
鉄格子を両手で掴むとこの女もまた唾を飛ばす勢いで叫んで来た。
「こいつらのことは知らないわ。だけどわたくしは違うはずよ!わたくしは城の侍女だもの!」
「区別はない。王女に従い国を出た者たちだから、あとは知らぬということだ」
「何ですって!そんなの、話が違うわ!」
ゼインは書状に関して何一つ嘘を吐いてはいなかった。
婉曲な言い回しではあったが、書状にはゼインがたった今言った通りのことが書かれていたのだ。
王女の輿入れとなれば、他国に引き連れていく騎士や侍女がいるのは自然なこと。
むしろいない方がおかしいことになる。
自ら付き従いたいと願い出る者はおらず、体裁を整えるつもりで用意出来たのがここにいる者たちだけだったのか。
サヘラン王国の王家の意図は分からないも、ゼインは今のところは書かれた通りに受け取るだけ。
「……俺たちは裏切られたのか?」
ぼそりと一人が呟けば。
また女が声を張り上げた。
「裏切られたですって?嘘でしょう?あなたたちだけならともかく、わたくしは──」
「はっ。何を偉そうに。お前だって下っ端の侍女なんだろう?王女の顔すら知らなかったじゃねぇか」
「厄災女の顔なんか知る侍女はいないわ!あなたたちと一緒にしないでちょうだい」
「俺たちだって騎士として雇われてきたんだぜ?王に雇われたなら、城の騎士だろう?」
「本当の城の騎士を知らないからそんなことが言えるのだわ。見目も品位もあんたたちとは雲泥の差よ」
「ふん。金を掛りゃあ、誰でも綺麗になるだろうさ。ははっ。だがそれが何だって言うんだ?お前も俺たち同様捨て駒にされたんだろうよ」
「捨て駒ですって?このわたくしが?城の侍女のわたくしが?……あはは」
女が本当にただの城の侍女であったなら、この状況だ。
すでに気が狂っていてもおかしくはなかった。
「そうなの。うふふ。そのつもりならわたくしにだって考えがあるわ!ねぇ、あなた。本当のことを教えてあげる」
「おい、やめろ!勝手なことをするな!帰れなくなるぞ!」
「どうして?私たちはあの女と共に捨てられたのよ?あんな女と一緒にこの地で朽ちていいわけ?」
「はん。そんなことになるくらいなら俺たちは──」
「逃げられなかったから、今もここにいるのでしょう?何も出来ないなら、わたくしに任せてちょうだい」
男たちが静かになれば、女は勝ち誇ったような顔をしてゼインを見詰めた。
──阿呆な。どこまでも見下しているのだろうが。自ら進むか。
「いいことを教えてあげるわ!あの王女はね、サヘラン王国では『厄災の王女』と呼ばれているのよ!」
「なんだと?俺が愚かだと言ったのか?」
「愚かでなくて何なのだ?来る前に手を出さなかったことには、礼を言ってやる。どうせここまでの命だ。愚かなお前にも一度くらいは与えられる感謝というものを知らせてやろう。喜ぶといい」
男は瞠目したあとに、今度はゼインを睨みつけながらぎりぎりと音を立てて歯を噛み締めた。
「話が違うじゃねぇか」
「話とは?何のことだ?」
わざとらしくならないように、ゼインが問えば。
男はすらすらと内情を語り出す。
今までこの地下牢に置いてきた者たちを思い出せば。
なんと扱いやすい者たちだろうか。
ゼインだけでなく、この場を守るアウストゥールの騎士たちもそれを感じた。
「あんたに渡した書状に書いてあっただろうよ。要らぬなら俺たちで処理すると。あんただって、だから俺たちを引き留めていたんだろう?自国の奴らに国際問題になりそうな面倒事を押し付けたくはねぇよな」
そこまで聞き出したゼインは、小さく息を吐き出しながら笑った。
それで男はまた少しの期待をしてしまったのだろう、表情が明るくなるも。
「どこまでも愚かだな。正式な書状にそのようなことが書かれているわけがなかろう。そんなものを他国に与えれば、いくらでも使い道があるのだぞ?」
あっという間に男の顔が青ざめていく。
同時に他の牢に入る者たちも顔色が悪くなった。
「そんなはずは……俺たちについては書いておくと。確かに王子がそう言って……」
ゼインはにやりと笑ったが、牢に入る者たちはその意味を深く考えない。
「そうだな。お前たちについての記述はあった」
ほら見ろ!というように、たちまち表情を明るくした男たちであったが。
「お前たちのことは好きにせよということだ。だからこうして好きにしているわけだが」
「は?」
「え?」
男たちと女が目に見えて動揺し、ゼインは声を上げて笑った。
「嘘よ!そんなことあり得ないわ!」
今度は女が叫ぶ。
ゼインがぎろりと睨めば、一瞬は怯んだ女であったが。
鉄格子を両手で掴むとこの女もまた唾を飛ばす勢いで叫んで来た。
「こいつらのことは知らないわ。だけどわたくしは違うはずよ!わたくしは城の侍女だもの!」
「区別はない。王女に従い国を出た者たちだから、あとは知らぬということだ」
「何ですって!そんなの、話が違うわ!」
ゼインは書状に関して何一つ嘘を吐いてはいなかった。
婉曲な言い回しではあったが、書状にはゼインがたった今言った通りのことが書かれていたのだ。
王女の輿入れとなれば、他国に引き連れていく騎士や侍女がいるのは自然なこと。
むしろいない方がおかしいことになる。
自ら付き従いたいと願い出る者はおらず、体裁を整えるつもりで用意出来たのがここにいる者たちだけだったのか。
サヘラン王国の王家の意図は分からないも、ゼインは今のところは書かれた通りに受け取るだけ。
「……俺たちは裏切られたのか?」
ぼそりと一人が呟けば。
また女が声を張り上げた。
「裏切られたですって?嘘でしょう?あなたたちだけならともかく、わたくしは──」
「はっ。何を偉そうに。お前だって下っ端の侍女なんだろう?王女の顔すら知らなかったじゃねぇか」
「厄災女の顔なんか知る侍女はいないわ!あなたたちと一緒にしないでちょうだい」
「俺たちだって騎士として雇われてきたんだぜ?王に雇われたなら、城の騎士だろう?」
「本当の城の騎士を知らないからそんなことが言えるのだわ。見目も品位もあんたたちとは雲泥の差よ」
「ふん。金を掛りゃあ、誰でも綺麗になるだろうさ。ははっ。だがそれが何だって言うんだ?お前も俺たち同様捨て駒にされたんだろうよ」
「捨て駒ですって?このわたくしが?城の侍女のわたくしが?……あはは」
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すでに気が狂っていてもおかしくはなかった。
「そうなの。うふふ。そのつもりならわたくしにだって考えがあるわ!ねぇ、あなた。本当のことを教えてあげる」
「おい、やめろ!勝手なことをするな!帰れなくなるぞ!」
「どうして?私たちはあの女と共に捨てられたのよ?あんな女と一緒にこの地で朽ちていいわけ?」
「はん。そんなことになるくらいなら俺たちは──」
「逃げられなかったから、今もここにいるのでしょう?何も出来ないなら、わたくしに任せてちょうだい」
男たちが静かになれば、女は勝ち誇ったような顔をしてゼインを見詰めた。
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