【完結】その令嬢は号泣しただけ~泣き虫令嬢に悪役は無理でした~

春風由実

文字の大きさ
上 下
21 / 21
番外編

番外編4.もう一人の迷い人はここで祈る

しおりを挟む
 その時の流れ──どちらに流れたか分かりませんが──確かに私はここに辿り着きます。



 あのとき陛下からお聞きした信じられない話を、今まさに思い出した私は激しく後悔し頭を抱えておりました。
 何故、思い出すのが今なのか。
 何故、もっと早く……。

 私はもう例の物語を世に送り出してしまっていたのです。


 だから私は今日もこの物語を書いています。

 どうかどうか。
 例のあの御方が、あちらの世界に向かわれる前のあの御方が、この物語を読んでくださいますようにと願って。



 陛下。
 約束は果たしましたので、どうかその世界で読んだものはお忘れください。
 いえ、もう私のような一介の外交官の存在ごと記憶から抹消してくださいませ。

 どうかどうか、あの件は何卒よろしくお願いいたします。


 陛下がいかに王妃殿下を愛されているか、仔細書いておきますから──!



 あれから何日にも渡って私は陛下から話を聞くことになりました。

 おかげで容姿や仕草、口癖はもちろんのこと、お好みの香りの調合の割合まで詳しく書くことが出来ます。
 お二人が過ごされる環境も忠実に再現しました。
 たとえばお部屋の家具の配置なんて絶対に一外交官が知り得ない情報まで仔細書いてあるのです。
 もっと恐ろしいことには、お二人しか知り得ない愛を囁き合った時間の仔細など……これについては陛下が一部だけ特別に教えてくださったのですが。

 それはそれで何か良からぬ方向に疑われるのでは?と心配にもなっていますが、そこは向こうで陛下がなんとかしてくださっていると信じましょう。
 すべては思い出せませんが、今のところかつての私がその手のトラブルに見舞われた記憶はありませんし、今は恐れずに書くことにいたします。

 今回は挿絵にも口を出しより陛下のお姿に近付けておきましたから、本を手に取って頂けたならあの御方もすぐに思い出してくださるのではないでしょうか。

 
 一方で、この世界の私は苦しんでいることもありました。
 元の小説を好んでくれている皆様から非難轟轟なのです。

 それでも私はもっと恐ろしいかつてを知っているので、今日も続きを書き綴ります。

 あぁ、でもなぜか。
 この陛下に捧げる物語で新しいファンを獲得したようでして。
 企画ものとして再現した香水がじわじわと売れ行きを伸ばしているのです。

 香りだけでも、こちらにいるはずのあの御方に届くとよろしいのですが──。




しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。 ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。 ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。 ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

所(世界)変われば品(常識)変わる

章槻雅希
恋愛
前世の記憶を持って転生したのは乙女ゲームの悪役令嬢。王太子の婚約者であり、ヒロインが彼のルートでハッピーエンドを迎えれば身の破滅が待っている。修道院送りという名の道中での襲撃暗殺END。 それを避けるために周囲の環境を整え家族と婚約者とその家族という理解者も得ていよいよゲームスタート。 予想通り、ヒロインも転生者だった。しかもお花畑乙女ゲーム脳。でも地頭は悪くなさそう? ならば、ヒロインに現実を突きつけましょう。思い込みを矯正すれば多分有能な女官になれそうですし。 完結まで予約投稿済み。 全21話。

【完】まさかの婚約破棄はあなたの心の声が聞こえたから

えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
伯爵令嬢のマーシャはある日不思議なネックレスを手に入れた。それは相手の心が聞こえるという品で、そんなことを信じるつもりは無かった。それに相手とは家同士の婚約だけどお互いに仲も良く、上手くいっていると思っていたつもりだったのに……。よくある婚約破棄のお話です。 ※他サイトに自立も掲載しております 21.5.25ホットランキング入りありがとうございました( ´ ▽ ` )ノ  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

愛を知らないアレと呼ばれる私ですが……

ミィタソ
恋愛
伯爵家の次女——エミリア・ミーティアは、優秀な姉のマリーザと比較され、アレと呼ばれて馬鹿にされていた。 ある日のパーティで、両親に連れられて行った先で出会ったのは、アグナバル侯爵家の一人息子レオン。 そこで両親に告げられたのは、婚約という衝撃の二文字だった。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

【完結】夢見る転生令嬢は前世の彼に恋をする

かほなみり
恋愛
田舎の領地で暮らす子爵令嬢ユフィール。ユフィールには十八歳の頃から、アレクという歳下の婚約者がいた。七年前に一度顔を合わせたきりのアレクとは、手紙のやりとりで穏やかに交流を深めてきた。そんな彼から、騎士学校を卒業し成人を祝う祝賀会が催されるから参加してほしいとの招待を受け、久し振りに王都へとやってきたユフィール。アレクに会えることを楽しみにしていたユフィールは、ふらりと立ち寄った本屋で偶然手にした恋愛小説を見て、溢れるように自分の前世を思い出す。 高校教師を夢見た自分、恋愛小説が心の拠り所だった日々。その中で出会った、あの背の高いいつも笑顔の彼……。それ以来、毎晩のように夢で見る彼の姿に惹かれ始めるユフィール。前世の彼に会えるわけがないとわかっていても、その思いは強くなっていく。こんな気持を抱えてアレクと婚約を続けてもいいのか悩むユフィール。それでなくとも、自分はアレクよりも七つも歳上なのだから。 そんなユフィールの気持ちを知りつつも、アレクは深い愛情でユフィールを包み込む。「僕がなぜあなたを逃さないのか、知りたくないですか?」 歳上の自分に引け目を感じ自信のないヒロインと、やっと手に入れたヒロインを絶対に逃さない歳下執着ヒーローの、転生やり直し恋愛物語。途中シリアス展開ですが、もちろんハッピーエンドです。 ※作品タイトルを変更しました

処理中です...