【完結】その令嬢は号泣しただけ~泣き虫令嬢に悪役は無理でした~

春風由実

文字の大きさ
上 下
20 / 21
番外編

番外編3.もう一人の迷い人は時を流れる

しおりを挟む
「これを書くにあたって、君には何らかの意図はなかったし、僕への気持ちも──ないと思っていいね?」


「すみません。違うのです。申し訳ありません。これあはその、そういう目的ではなくて」


 あろうことか、私は国王陛下の王太子時代を相手役として、私がヒロインとなる恋愛小説を書いていたのでした。
 だから趣味だと言ったのです。

 昔は自分をヒロインにする物語なんて書いていなかったんですよ?
 でも外交官を始めて仕事が忙しくなるほど、何故かこう癒しとして自分を主人公に置いた物語を求めるようになって……ですから趣味なんですって!


「うんうん、分かっているよ。君は他にも沢山書いているようだからね」


「ひぃい」


 違う意味で口から悲鳴が漏れました。
 今まで書いてきたものを読まれたのですか?え?陛下が?

 まさかあの棚の奥のすべてを?

 これはもうあっさり処刑して頂いた方が私のためにもいいのでは?


「他の物語については軽く読んだだけだから、そう困らないで欲しいな。でも君がどんな異性を好み、どういうシチュエーションを好むかは理解してしまったね」


 陛下。お願いです。
 ひと思いに処刑を──。


「そんな男が現実にいたらどうだろうか?」


「はいい?」


「やはりあれは趣味で、現実にはもっと違う異性を求めているのだろうか?」


 何のお話でしょうか?
 まずいです。
 外交官として相手の言葉の意味を察する能力は必然ですのに。


「君の求めるシチュエーションまではその通りに実現出来る保証はないが、おそらく君の好きそうな相手ならば紹介出来るよ」


「ふぇ?」


「実は君にはお願いしたいことがあるんだ。僕を題材としたお詫びと、異性の紹介の見返りを合わせて、請け負ってくれないかな?」


「もちろんです。陛下の仰せのままに」


 内容を聞かずして承諾することも、外交官として致命的な行動ですが。
 今はそんなことを言ってられません。
 これは外交の場ではありませんし。


「良かった。ではしばし私の話に付き合って欲しい。君はいずれ迷い人として別の世界を生きることになるだろう」


「は……はい?迷い人ですか?」


 あまりに予測出来なかった言葉に、あろうことか私は不敬にも陛下に聞き返しておりました。
 陛下はにこにこと微笑まれ、お叱りではないようでほっとします。
 しかしやはり美しいお顔ですね。
 お近くで見れば目尻に皺が刻まれていることも分かりますが、ほぼ老いは感じられず、若い頃からずっと変わらず美しいご尊顔にあるのだと予想出来ました。


「あぁ、そうだったね。詳しい話の前に一筆書いて貰わなければならないんだった」


 侍従の方がさっと書類を私の前に起きました。
 こんなもの書かなくたって口外することはありませんとも。
 自身の恥について私が誰に言えましょうか。

 もちろん私は躊躇いもなく書類に急ぎサインします。




 そしてついに──時を流れるのです。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。 ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。 ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。 ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

所(世界)変われば品(常識)変わる

章槻雅希
恋愛
前世の記憶を持って転生したのは乙女ゲームの悪役令嬢。王太子の婚約者であり、ヒロインが彼のルートでハッピーエンドを迎えれば身の破滅が待っている。修道院送りという名の道中での襲撃暗殺END。 それを避けるために周囲の環境を整え家族と婚約者とその家族という理解者も得ていよいよゲームスタート。 予想通り、ヒロインも転生者だった。しかもお花畑乙女ゲーム脳。でも地頭は悪くなさそう? ならば、ヒロインに現実を突きつけましょう。思い込みを矯正すれば多分有能な女官になれそうですし。 完結まで予約投稿済み。 全21話。

【完】まさかの婚約破棄はあなたの心の声が聞こえたから

えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
伯爵令嬢のマーシャはある日不思議なネックレスを手に入れた。それは相手の心が聞こえるという品で、そんなことを信じるつもりは無かった。それに相手とは家同士の婚約だけどお互いに仲も良く、上手くいっていると思っていたつもりだったのに……。よくある婚約破棄のお話です。 ※他サイトに自立も掲載しております 21.5.25ホットランキング入りありがとうございました( ´ ▽ ` )ノ  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

愛を知らないアレと呼ばれる私ですが……

ミィタソ
恋愛
伯爵家の次女——エミリア・ミーティアは、優秀な姉のマリーザと比較され、アレと呼ばれて馬鹿にされていた。 ある日のパーティで、両親に連れられて行った先で出会ったのは、アグナバル侯爵家の一人息子レオン。 そこで両親に告げられたのは、婚約という衝撃の二文字だった。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

【完結】夢見る転生令嬢は前世の彼に恋をする

かほなみり
恋愛
田舎の領地で暮らす子爵令嬢ユフィール。ユフィールには十八歳の頃から、アレクという歳下の婚約者がいた。七年前に一度顔を合わせたきりのアレクとは、手紙のやりとりで穏やかに交流を深めてきた。そんな彼から、騎士学校を卒業し成人を祝う祝賀会が催されるから参加してほしいとの招待を受け、久し振りに王都へとやってきたユフィール。アレクに会えることを楽しみにしていたユフィールは、ふらりと立ち寄った本屋で偶然手にした恋愛小説を見て、溢れるように自分の前世を思い出す。 高校教師を夢見た自分、恋愛小説が心の拠り所だった日々。その中で出会った、あの背の高いいつも笑顔の彼……。それ以来、毎晩のように夢で見る彼の姿に惹かれ始めるユフィール。前世の彼に会えるわけがないとわかっていても、その思いは強くなっていく。こんな気持を抱えてアレクと婚約を続けてもいいのか悩むユフィール。それでなくとも、自分はアレクよりも七つも歳上なのだから。 そんなユフィールの気持ちを知りつつも、アレクは深い愛情でユフィールを包み込む。「僕がなぜあなたを逃さないのか、知りたくないですか?」 歳上の自分に引け目を感じ自信のないヒロインと、やっと手に入れたヒロインを絶対に逃さない歳下執着ヒーローの、転生やり直し恋愛物語。途中シリアス展開ですが、もちろんハッピーエンドです。 ※作品タイトルを変更しました

処理中です...