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番外編
番外編2.もう一人の迷い人は追い詰められる
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王城への召喚状が届いたとき、私はどの外交でやらかしたのだろうか?と頭を悩ませたものでした。
思い至る記憶はいくつもあったからです。
自分ではうまく対処出来たと感じていても、それが後々予想もしなかった問題に発展することがあるのも国と国との付き合いというものでした。
国を代表し他国の要人たちに会うときにはいつでも、言いようのない緊張感を覚えています。
それは新人のときから何ら変わることのないものですが、だからこそ私はこの仕事が好きなのかもしれません。
そしてだからこそ、いつも緊張感のある職場に身を置いている私には、癒しとしての趣味の時間が必要だったのですが……。
謁見の間ではなく、知らない個室に案内された私は、机に並べられた紙の束を見て絶句することになりました。
絶叫しなかった私を褒めてあげたいくらいです。
卒倒しなかった点については褒めたくもあり、しかしながらここでは気を失っておいた方が良かったのでは?と自分の強さを恨みたくもなってしまうのでした。
どんな場面でも気を失うことだけはないよう外交官として厳しく躾けられてきた成果がこんなところでも活かされるなんて……。
え。え。なんで?なんでここに?
これまでの分は本棚の二重になった隠し棚に並べてあって…………いいえ、これは最新のもの。
机の鍵付きの引き出しの奥にある隠し引き出しの中にしまってあるはずで。それも今回の内容を踏まえて箱に入れてその箱にも鍵を付けて厳重に保管して…………なのに何故?
本当の命の危機に瀕したとき、人は冷や汗も出ないのだと私はここで知りました。
「安心して。君を咎めるために呼んだわけではないんだ。だからまずは座って」
そこでやっと目の前の美丈夫が誰だか気が付いた私は、床にへばり付くようにして頭を下げました。
だってまさかこんな部屋でこんなお近くでお会いする日が来るなんて思わないでしょう!
「も、も、も……申し訳ありません!」
このような声を上げることは、外交官としてあるまじきこと。
いかなる事態にも冷静に対処出来なければ、外交官失格なのです。
相手国の王族が交渉の場に現れることなどたびたび経験してまいりました。
それが自国の国王陛下に対してこの失態。
私は仕事を失うことも覚悟しました。いいえ、このまま処刑されることを覚悟していたのです。
だってこの物語は……。
ところが陛下は穏やかな声で言いました。
「聞こえなかったかな?そちらに座ってくれる?」
「は、はい」
なんとか声を出して、震える身体を叩くようにして、促されたソファーに座ることが出来ました。
喉がからからです。
外交官として経験を重ねてきた私ですが、これほどの緊張感を得た日はありませんでした。
「読ませて貰ったけれど、なかなか君は文才があるようだ」
「ひっ」
思わず悲鳴めいた声を出してしまいました。
え?読んだ?読んだと言いました?え?え?
「だから安心してよ。これは君の趣味なのだろう?誰にも読ませていないね?」
「も、も、も、もちろんです。この命に誓って誰にも見せたことはありません。これはすべて趣味でして」
「うんうん、影から聞いている通りに答えてくれて良かった」
は?影?
え?影?
いや、影って?
予想しなかった不穏な言葉を耳にして、私はやっと震えを止めることが出来ました。
この後の展開が予測不能で、それから命の危機に直面したことで、考えることを諦めたせいかもしれません。
そして冷静になると、この経験は今後の仕事に活かせるのでは?なんてことを、命が危ういこの状況で考え始めるのです。
私って根っからの仕事人間だったのですね……なんて現実逃避の強がりでした。
「僕の愛する妻を早々に退場させたことだけは不満だけれど」
「ひぃっ」
すべて嘘でした。
この状況で冷静になんてなれませんし、もう私は仕事をすることが叶わないようです。
「だからね、君には償って貰おうと思って」
「……分かりました。すぐに辞表、いえ、クビになるから必要ないのでしょうか?身の回りの整理、いえこれも人々の記憶から抹消されるようでしたら必要ないのでしょうか?」
「うん、何も分かっていないようで安心したよ」
にっこりと微笑まれて頷かれたのですが。
私は何ひとつ安心出来ないのでした。
思い至る記憶はいくつもあったからです。
自分ではうまく対処出来たと感じていても、それが後々予想もしなかった問題に発展することがあるのも国と国との付き合いというものでした。
国を代表し他国の要人たちに会うときにはいつでも、言いようのない緊張感を覚えています。
それは新人のときから何ら変わることのないものですが、だからこそ私はこの仕事が好きなのかもしれません。
そしてだからこそ、いつも緊張感のある職場に身を置いている私には、癒しとしての趣味の時間が必要だったのですが……。
謁見の間ではなく、知らない個室に案内された私は、机に並べられた紙の束を見て絶句することになりました。
絶叫しなかった私を褒めてあげたいくらいです。
卒倒しなかった点については褒めたくもあり、しかしながらここでは気を失っておいた方が良かったのでは?と自分の強さを恨みたくもなってしまうのでした。
どんな場面でも気を失うことだけはないよう外交官として厳しく躾けられてきた成果がこんなところでも活かされるなんて……。
え。え。なんで?なんでここに?
これまでの分は本棚の二重になった隠し棚に並べてあって…………いいえ、これは最新のもの。
机の鍵付きの引き出しの奥にある隠し引き出しの中にしまってあるはずで。それも今回の内容を踏まえて箱に入れてその箱にも鍵を付けて厳重に保管して…………なのに何故?
本当の命の危機に瀕したとき、人は冷や汗も出ないのだと私はここで知りました。
「安心して。君を咎めるために呼んだわけではないんだ。だからまずは座って」
そこでやっと目の前の美丈夫が誰だか気が付いた私は、床にへばり付くようにして頭を下げました。
だってまさかこんな部屋でこんなお近くでお会いする日が来るなんて思わないでしょう!
「も、も、も……申し訳ありません!」
このような声を上げることは、外交官としてあるまじきこと。
いかなる事態にも冷静に対処出来なければ、外交官失格なのです。
相手国の王族が交渉の場に現れることなどたびたび経験してまいりました。
それが自国の国王陛下に対してこの失態。
私は仕事を失うことも覚悟しました。いいえ、このまま処刑されることを覚悟していたのです。
だってこの物語は……。
ところが陛下は穏やかな声で言いました。
「聞こえなかったかな?そちらに座ってくれる?」
「は、はい」
なんとか声を出して、震える身体を叩くようにして、促されたソファーに座ることが出来ました。
喉がからからです。
外交官として経験を重ねてきた私ですが、これほどの緊張感を得た日はありませんでした。
「読ませて貰ったけれど、なかなか君は文才があるようだ」
「ひっ」
思わず悲鳴めいた声を出してしまいました。
え?読んだ?読んだと言いました?え?え?
「だから安心してよ。これは君の趣味なのだろう?誰にも読ませていないね?」
「も、も、も、もちろんです。この命に誓って誰にも見せたことはありません。これはすべて趣味でして」
「うんうん、影から聞いている通りに答えてくれて良かった」
は?影?
え?影?
いや、影って?
予想しなかった不穏な言葉を耳にして、私はやっと震えを止めることが出来ました。
この後の展開が予測不能で、それから命の危機に直面したことで、考えることを諦めたせいかもしれません。
そして冷静になると、この経験は今後の仕事に活かせるのでは?なんてことを、命が危ういこの状況で考え始めるのです。
私って根っからの仕事人間だったのですね……なんて現実逃避の強がりでした。
「僕の愛する妻を早々に退場させたことだけは不満だけれど」
「ひぃっ」
すべて嘘でした。
この状況で冷静になんてなれませんし、もう私は仕事をすることが叶わないようです。
「だからね、君には償って貰おうと思って」
「……分かりました。すぐに辞表、いえ、クビになるから必要ないのでしょうか?身の回りの整理、いえこれも人々の記憶から抹消されるようでしたら必要ないのでしょうか?」
「うん、何も分かっていないようで安心したよ」
にっこりと微笑まれて頷かれたのですが。
私は何ひとつ安心出来ないのでした。
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