16 / 21
15.そして泣き虫令嬢は囚われた
しおりを挟む
王子殿下は王妃になればお城に引きこもっていられると仰いますが。
一国の王妃様ともなれば、式典や外交など人前に立つお仕事があるのではないでしょうか?
「それは数えられる程度で終わることだし、常に僕が隣に立てるからね。君が困らないようサポートしよう。それよりどこかの家の夫人になる方が大変だと思うけれどなぁ」
確かにお茶会だの夜会だのと貴族の夫人が社交に忙しいことは知っています。
母だってそうだからです。
けれどもそれは王妃殿下とて同じことではないでしょか?
「そうでもないんだ。王妃は平等に徹するため貴族からの招待は受けないからね」
でも王家主催のお茶会などがあると聞いておりますよ?
「年に一度か二度の話だよ。それだと事前に段取りを知ることも出来るだろう?万全の準備をして挑むことが出来るんだから、泣くほど怖いことにはならない。それにね、リル。王妃は個々の貴族と話す時間が限られているんだ。それも誰か一人を特別扱いしないように、大抵は軽い挨拶で会話が終わるからね。そのすべてに僕も付き合うことが出来る。これって凄く楽だと思わないかな?一貴族の妻ではこうはならない」
貴族の妻としての働きを想像してみると……また泣きたくなってきました。
私は生涯独身でいる方が良いのではないでしょうか?
ですが私も公爵家の娘。
貴族として、そして家のためにも、責任を果たさなければなりません。
泣き虫を早く直さなければ。せめて社交デビューのその前までに──。
そのために私には何が出来るのでしょうか?
泣かないようにと耐える我慢は、いつもしてきているのです。
それは悉く失敗に終わっています。
はっ!そういえば先ほどいい気付きがありましたね。
しゃっくりと同じ要領で治療を試みてみましょうか?
王子殿下がくすりと笑いました。
そして私の頬をすっと指先で撫でたのです。
私は驚いて目を見開いてしまいました。
「リルは泣き虫のままでいいよ。だから僕にしておいて」
いえいえ、駄目でしょう。
泣き虫の王妃なんて聞いたことがありません。
「表に出る短い時間だけ頑張ればいいんだ。それならこれから一緒に練習すれば、なんとかなると思わない?」
そうですね。今から練習すれば……いえいえ、だめです。
私に王妃なんてとても務まりません。無理、無理、無理。
どのようにお断りしようかと考えあぐねいている間に、殿下のお話は私の理解の及ばないところにありました。
何故か私の泣き方がいかに素晴らしいかについて熱弁されていたのです。
泣き方の良し悪しとは……?
私の視線に気付いた殿下が言葉を止めて、またにっこりと微笑みました。
「とにかく、この件は今すぐに結論を出さなくていいからね。時間はたっぷりあるんだ。まずは一緒に公爵領を旅するとしよう」
殿下と領地を一緒に巡ることが、決定事項になっていました。
何がどうしてこんなことになったのでしょうか?
この時の私は、その旅の間にいかに私が王妃に向かないかをご理解いただければ済むものと、まだ安易に考えておりました。
しかしこの時にはすでに私はもう逃げられないところにいたのです。
まさか国王陛下並びに王妃殿下がすでに王子殿下の意志を了承していて、なおかつ率先して王子殿下の望みが叶うようにと動いていたなんて。
どうして十二歳の幼い私に知ることが出来たでしょうか?
たとえば王妃殿下と母が協力して、上手いこと父と兄を取り成してくださっていたり。
国王陛下が騒ぐ間もないほどに父と兄に沢山の仕事を与えていたり。
家庭教師の皆様も実は最初からそのつもりで私に通常の令嬢が学ぶ以上の知識を与えてくださっていたり。
しかもその学習の成果は逐一王家へと報告されていて。
そして我が家の侍女たちもまた、未来の王妃付きとなる勉強済みであったり──。
このように後から後から次々に知らされる事実に、私は驚き恐れおののいて、そして毎度泣いてしまうのでした。
それは旅の間も続きまして、こうして瞬く間に時は流れ────。
一国の王妃様ともなれば、式典や外交など人前に立つお仕事があるのではないでしょうか?
「それは数えられる程度で終わることだし、常に僕が隣に立てるからね。君が困らないようサポートしよう。それよりどこかの家の夫人になる方が大変だと思うけれどなぁ」
確かにお茶会だの夜会だのと貴族の夫人が社交に忙しいことは知っています。
母だってそうだからです。
けれどもそれは王妃殿下とて同じことではないでしょか?
「そうでもないんだ。王妃は平等に徹するため貴族からの招待は受けないからね」
でも王家主催のお茶会などがあると聞いておりますよ?
「年に一度か二度の話だよ。それだと事前に段取りを知ることも出来るだろう?万全の準備をして挑むことが出来るんだから、泣くほど怖いことにはならない。それにね、リル。王妃は個々の貴族と話す時間が限られているんだ。それも誰か一人を特別扱いしないように、大抵は軽い挨拶で会話が終わるからね。そのすべてに僕も付き合うことが出来る。これって凄く楽だと思わないかな?一貴族の妻ではこうはならない」
貴族の妻としての働きを想像してみると……また泣きたくなってきました。
私は生涯独身でいる方が良いのではないでしょうか?
ですが私も公爵家の娘。
貴族として、そして家のためにも、責任を果たさなければなりません。
泣き虫を早く直さなければ。せめて社交デビューのその前までに──。
そのために私には何が出来るのでしょうか?
泣かないようにと耐える我慢は、いつもしてきているのです。
それは悉く失敗に終わっています。
はっ!そういえば先ほどいい気付きがありましたね。
しゃっくりと同じ要領で治療を試みてみましょうか?
王子殿下がくすりと笑いました。
そして私の頬をすっと指先で撫でたのです。
私は驚いて目を見開いてしまいました。
「リルは泣き虫のままでいいよ。だから僕にしておいて」
いえいえ、駄目でしょう。
泣き虫の王妃なんて聞いたことがありません。
「表に出る短い時間だけ頑張ればいいんだ。それならこれから一緒に練習すれば、なんとかなると思わない?」
そうですね。今から練習すれば……いえいえ、だめです。
私に王妃なんてとても務まりません。無理、無理、無理。
どのようにお断りしようかと考えあぐねいている間に、殿下のお話は私の理解の及ばないところにありました。
何故か私の泣き方がいかに素晴らしいかについて熱弁されていたのです。
泣き方の良し悪しとは……?
私の視線に気付いた殿下が言葉を止めて、またにっこりと微笑みました。
「とにかく、この件は今すぐに結論を出さなくていいからね。時間はたっぷりあるんだ。まずは一緒に公爵領を旅するとしよう」
殿下と領地を一緒に巡ることが、決定事項になっていました。
何がどうしてこんなことになったのでしょうか?
この時の私は、その旅の間にいかに私が王妃に向かないかをご理解いただければ済むものと、まだ安易に考えておりました。
しかしこの時にはすでに私はもう逃げられないところにいたのです。
まさか国王陛下並びに王妃殿下がすでに王子殿下の意志を了承していて、なおかつ率先して王子殿下の望みが叶うようにと動いていたなんて。
どうして十二歳の幼い私に知ることが出来たでしょうか?
たとえば王妃殿下と母が協力して、上手いこと父と兄を取り成してくださっていたり。
国王陛下が騒ぐ間もないほどに父と兄に沢山の仕事を与えていたり。
家庭教師の皆様も実は最初からそのつもりで私に通常の令嬢が学ぶ以上の知識を与えてくださっていたり。
しかもその学習の成果は逐一王家へと報告されていて。
そして我が家の侍女たちもまた、未来の王妃付きとなる勉強済みであったり──。
このように後から後から次々に知らされる事実に、私は驚き恐れおののいて、そして毎度泣いてしまうのでした。
それは旅の間も続きまして、こうして瞬く間に時は流れ────。
29
お気に入りに追加
218
あなたにおすすめの小説

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない
ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。
ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。
ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。
ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

所(世界)変われば品(常識)変わる
章槻雅希
恋愛
前世の記憶を持って転生したのは乙女ゲームの悪役令嬢。王太子の婚約者であり、ヒロインが彼のルートでハッピーエンドを迎えれば身の破滅が待っている。修道院送りという名の道中での襲撃暗殺END。
それを避けるために周囲の環境を整え家族と婚約者とその家族という理解者も得ていよいよゲームスタート。
予想通り、ヒロインも転生者だった。しかもお花畑乙女ゲーム脳。でも地頭は悪くなさそう?
ならば、ヒロインに現実を突きつけましょう。思い込みを矯正すれば多分有能な女官になれそうですし。
完結まで予約投稿済み。
全21話。

【完】まさかの婚約破棄はあなたの心の声が聞こえたから
えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
伯爵令嬢のマーシャはある日不思議なネックレスを手に入れた。それは相手の心が聞こえるという品で、そんなことを信じるつもりは無かった。それに相手とは家同士の婚約だけどお互いに仲も良く、上手くいっていると思っていたつもりだったのに……。よくある婚約破棄のお話です。
※他サイトに自立も掲載しております
21.5.25ホットランキング入りありがとうございました( ´ ▽ ` )ノ
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?


愛を知らないアレと呼ばれる私ですが……
ミィタソ
恋愛
伯爵家の次女——エミリア・ミーティアは、優秀な姉のマリーザと比較され、アレと呼ばれて馬鹿にされていた。
ある日のパーティで、両親に連れられて行った先で出会ったのは、アグナバル侯爵家の一人息子レオン。
そこで両親に告げられたのは、婚約という衝撃の二文字だった。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

【完結】夢見る転生令嬢は前世の彼に恋をする
かほなみり
恋愛
田舎の領地で暮らす子爵令嬢ユフィール。ユフィールには十八歳の頃から、アレクという歳下の婚約者がいた。七年前に一度顔を合わせたきりのアレクとは、手紙のやりとりで穏やかに交流を深めてきた。そんな彼から、騎士学校を卒業し成人を祝う祝賀会が催されるから参加してほしいとの招待を受け、久し振りに王都へとやってきたユフィール。アレクに会えることを楽しみにしていたユフィールは、ふらりと立ち寄った本屋で偶然手にした恋愛小説を見て、溢れるように自分の前世を思い出す。
高校教師を夢見た自分、恋愛小説が心の拠り所だった日々。その中で出会った、あの背の高いいつも笑顔の彼……。それ以来、毎晩のように夢で見る彼の姿に惹かれ始めるユフィール。前世の彼に会えるわけがないとわかっていても、その思いは強くなっていく。こんな気持を抱えてアレクと婚約を続けてもいいのか悩むユフィール。それでなくとも、自分はアレクよりも七つも歳上なのだから。
そんなユフィールの気持ちを知りつつも、アレクは深い愛情でユフィールを包み込む。「僕がなぜあなたを逃さないのか、知りたくないですか?」
歳上の自分に引け目を感じ自信のないヒロインと、やっと手に入れたヒロインを絶対に逃さない歳下執着ヒーローの、転生やり直し恋愛物語。途中シリアス展開ですが、もちろんハッピーエンドです。
※作品タイトルを変更しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる