【完結】その令嬢は号泣しただけ~泣き虫令嬢に悪役は無理でした~

春風由実

文字の大きさ
上 下
15 / 21

14.泣き虫令嬢は説き伏せられる

しおりを挟む
「はい?」


 驚いて目をぱちぱちと瞬きながら、殿下を見上げます。
 兄と同じ二歳差の殿下は兄とそう背丈も変わらないのでしょう。
 並び座っているとちょうどいつも兄を見上げる角度で目が合いました。

 殿下はにっこりと笑います。


「将来のために見識を深めたくてね。地方にも足を運びたいと思っていたんだ。ちょうどいいだろう?」


 えぇと……ちょうどいいのでしょうか?
 あれ?でも文通は?


「手紙の話は君と会う口実でね。父上と相談して、僕の教育の一環にご協力を願う形にしてみたんだけど。それでもあの二人は渋って渋って大変でねぇ。それで領地を出る前に最後に一度だけという約束でなんとか……ふふ。こちらの問題だから君は気にしなくて大丈夫だよ」


 いいえ、とっても気になります。
 もしかしてそれは……。


「それで今日は父上の協力の元、君のお母上にも協力していただいてこの通りさ。お母上からはようやくお許しを頂けたところでね」


 え?お母さままで?


「心変わりをせずに君を想い続けること。それから君を必ず守り通すこと。これらの根拠となる事象を明確に示す必要があったんだ。だから時間が掛かってしまって、申し訳なかったね」


 いえ、謝罪は結構ですよ?
 私は何も知りませんでしたから。

 というかうちの家族は大丈夫なのでしょうか?
 王族に対してあまりに不敬では……?


「それでやっとすべてが順調に運びそろそろと思ったところで、彼が君を逃がそうとするからさ。ことを急いてしまって、君を驚かせてしまったことは謝罪するよ。でもそれで君に会えたから、勝手だけれどこれで良かったとも思っている」


 私を逃がす?
 確かに私は物語の運命から逃げようとは思っていましたけれど……。


「そろそろ気付いて戻ってくるかもしれないから、少し話を急ぐね?」


 それから殿下は、私が王妃に向いている理由を百も並べて説明してくれました。

 えぇ、何故そのようなお話になっているのかは分かりません。
 私は物語の中の公爵令嬢ではなく、この世界で穏やかに生きられる。
 少し前にそう仰ったのは殿下でしたのに。

 何故また物語通りのお話に──?


「目立つことが苦手なのです。それに泣き虫ですし。私にはとてもお役目は務まりません」


 私は同じ言葉を返すしかありませんでした。それでも殿下は笑って言います。


「王妃になれば、ほとんどの時間を城の奥で穏やかに過ごすことが出来るんだよ。母上だってそうしているからね」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。 ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。 ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。 ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

身代わり皇妃は処刑を逃れたい

マロン株式
恋愛
「おまえは前提条件が悪すぎる。皇妃になる前に、離縁してくれ。」 新婚初夜に皇太子に告げられた言葉。 1度目の人生で聖女を害した罪により皇妃となった妹が処刑された。 2度目の人生は妹の代わりに私が皇妃候補として王宮へ行く事になった。 そんな中での離縁の申し出に喜ぶテリアだったがー… 別サイトにて、コミックアラカルト漫画原作大賞最終候補28作品ノミネート

所(世界)変われば品(常識)変わる

章槻雅希
恋愛
前世の記憶を持って転生したのは乙女ゲームの悪役令嬢。王太子の婚約者であり、ヒロインが彼のルートでハッピーエンドを迎えれば身の破滅が待っている。修道院送りという名の道中での襲撃暗殺END。 それを避けるために周囲の環境を整え家族と婚約者とその家族という理解者も得ていよいよゲームスタート。 予想通り、ヒロインも転生者だった。しかもお花畑乙女ゲーム脳。でも地頭は悪くなさそう? ならば、ヒロインに現実を突きつけましょう。思い込みを矯正すれば多分有能な女官になれそうですし。 完結まで予約投稿済み。 全21話。

光の王太子殿下は愛したい

葵川真衣
恋愛
王太子アドレーには、婚約者がいる。公爵令嬢のクリスティンだ。 わがままな婚約者に、アドレーは元々関心をもっていなかった。 だが、彼女はあるときを境に変わる。 アドレーはそんなクリスティンに惹かれていくのだった。しかし彼女は変わりはじめたときから、よそよそしい。 どうやら、他の少女にアドレーが惹かれると思い込んでいるようである。 目移りなどしないのに。 果たしてアドレーは、乙女ゲームの悪役令嬢に転生している婚約者を、振り向かせることができるのか……!? ラブラブを望む王太子と、未来を恐れる悪役令嬢の攻防のラブ(?)コメディ。 ☆完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。

【完結】愛されないあたしは全てを諦めようと思います

黒幸
恋愛
ネドヴェト侯爵家に生まれた四姉妹の末っ子アマーリエ(エミー)は元気でおしゃまな女の子。 美人で聡明な長女。 利発で活発な次女。 病弱で温和な三女。 兄妹同然に育った第二王子。 時に元気が良すぎて、怒られるアマーリエは誰からも愛されている。 誰もがそう思っていました。 サブタイトルが台詞ぽい時はアマーリエの一人称視点。 客観的なサブタイトル名の時は三人称視点やその他の視点になります。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

完膚なきまでのざまぁ! を貴方に……わざとじゃございませんことよ?

せりもも
恋愛
学園の卒業パーティーで、モランシー公爵令嬢コルデリアは、大国ロタリンギアの第一王子ジュリアンに、婚約を破棄されてしまう。父の領邦に戻った彼女は、修道院へ入ることになるが……。先祖伝来の魔法を授けられるが、今一歩のところで残念な悪役令嬢コルデリアと、真実の愛を追い求める王子ジュリアンの、行き違いラブ。短編です。 ※表紙は、イラストACのムトウデザイン様(イラスト)、十野七様(背景)より頂きました

処理中です...