4 / 21
3.泣き虫令嬢は逃げると決める
しおりを挟む
馬車を降りたところから、私はあの既視感に悩まされておりました。
来たことのないはじめての場所であるのに、懐かしい感じがしたのです。
あぁ、ここは良くない。
私は何故かそのように察しました。
けれども兄がずっと手を繋いでくれていたこと、それから公爵家の一員としてしっかりしなければと自身を奮い立たせていたこともあって、そこまでの強い不安や逃げ出したい気持ちに襲われることはなかったのです。
それから庭園に案内されてしばらく花を愛でているうち、その不安は解消されて、むしろ高まる緊張感に胸を押さえておりました。
粗相のないよう頑張らないと。
兄と仲が良い方ならきっと優しい人のはず。
少しの粗相は許してくださるかしら?
今日は何のお話をすればいいのでしょう。
どのようにお手紙を書けばよろしいかしら?
考えが様々流れて、より緊張感を誘いました。
「シェリー落ち着いて。大丈夫だよ。適当にあしらえばいいからね。兄さまがついているから困ったことにもならない」
適当にあしらうことは無理そうですが。
私には兄が付いています。それが何よりの心の支えでした。
だからきっと大丈夫。
緊張感も少し和らぎ、改めて頑張ろうと心に決めていたのです。
それなのに。
「待たせて申し訳ない」
その声は、不思議と懐かしい声でした。
そして私は声の方に振り返った瞬間に、また不思議なことを思ったのです。
──面影があるわ。
面影?面影とはなんでしょうか。
途端浮かんできた絵姿。
それと一緒に文章の羅列が私を襲います。
これは──っ!
私ははじめて、いままで感じてきたおかしなことの理由を理解したのです。
そして気が付けば泣いて……いえ、号泣しておりました。
涙が止まらなくて、ただただ恐ろしくて、そして情けなくて。
感情はぐちゃぐちゃ。
十二歳にもなって人前で泣き止むことの出来ない駄目な令嬢がそこにいたのです。
そして私は思いました。
逃げよう、と。
来たことのないはじめての場所であるのに、懐かしい感じがしたのです。
あぁ、ここは良くない。
私は何故かそのように察しました。
けれども兄がずっと手を繋いでくれていたこと、それから公爵家の一員としてしっかりしなければと自身を奮い立たせていたこともあって、そこまでの強い不安や逃げ出したい気持ちに襲われることはなかったのです。
それから庭園に案内されてしばらく花を愛でているうち、その不安は解消されて、むしろ高まる緊張感に胸を押さえておりました。
粗相のないよう頑張らないと。
兄と仲が良い方ならきっと優しい人のはず。
少しの粗相は許してくださるかしら?
今日は何のお話をすればいいのでしょう。
どのようにお手紙を書けばよろしいかしら?
考えが様々流れて、より緊張感を誘いました。
「シェリー落ち着いて。大丈夫だよ。適当にあしらえばいいからね。兄さまがついているから困ったことにもならない」
適当にあしらうことは無理そうですが。
私には兄が付いています。それが何よりの心の支えでした。
だからきっと大丈夫。
緊張感も少し和らぎ、改めて頑張ろうと心に決めていたのです。
それなのに。
「待たせて申し訳ない」
その声は、不思議と懐かしい声でした。
そして私は声の方に振り返った瞬間に、また不思議なことを思ったのです。
──面影があるわ。
面影?面影とはなんでしょうか。
途端浮かんできた絵姿。
それと一緒に文章の羅列が私を襲います。
これは──っ!
私ははじめて、いままで感じてきたおかしなことの理由を理解したのです。
そして気が付けば泣いて……いえ、号泣しておりました。
涙が止まらなくて、ただただ恐ろしくて、そして情けなくて。
感情はぐちゃぐちゃ。
十二歳にもなって人前で泣き止むことの出来ない駄目な令嬢がそこにいたのです。
そして私は思いました。
逃げよう、と。
28
お気に入りに追加
218
あなたにおすすめの小説

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない
ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。
ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。
ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。
ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

身代わり皇妃は処刑を逃れたい
マロン株式
恋愛
「おまえは前提条件が悪すぎる。皇妃になる前に、離縁してくれ。」
新婚初夜に皇太子に告げられた言葉。
1度目の人生で聖女を害した罪により皇妃となった妹が処刑された。
2度目の人生は妹の代わりに私が皇妃候補として王宮へ行く事になった。
そんな中での離縁の申し出に喜ぶテリアだったがー…
別サイトにて、コミックアラカルト漫画原作大賞最終候補28作品ノミネート

所(世界)変われば品(常識)変わる
章槻雅希
恋愛
前世の記憶を持って転生したのは乙女ゲームの悪役令嬢。王太子の婚約者であり、ヒロインが彼のルートでハッピーエンドを迎えれば身の破滅が待っている。修道院送りという名の道中での襲撃暗殺END。
それを避けるために周囲の環境を整え家族と婚約者とその家族という理解者も得ていよいよゲームスタート。
予想通り、ヒロインも転生者だった。しかもお花畑乙女ゲーム脳。でも地頭は悪くなさそう?
ならば、ヒロインに現実を突きつけましょう。思い込みを矯正すれば多分有能な女官になれそうですし。
完結まで予約投稿済み。
全21話。

光の王太子殿下は愛したい
葵川真衣
恋愛
王太子アドレーには、婚約者がいる。公爵令嬢のクリスティンだ。
わがままな婚約者に、アドレーは元々関心をもっていなかった。
だが、彼女はあるときを境に変わる。
アドレーはそんなクリスティンに惹かれていくのだった。しかし彼女は変わりはじめたときから、よそよそしい。
どうやら、他の少女にアドレーが惹かれると思い込んでいるようである。
目移りなどしないのに。
果たしてアドレーは、乙女ゲームの悪役令嬢に転生している婚約者を、振り向かせることができるのか……!?
ラブラブを望む王太子と、未来を恐れる悪役令嬢の攻防のラブ(?)コメディ。
☆完結しました。ありがとうございました。番外編等、不定期更新です。

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
完膚なきまでのざまぁ! を貴方に……わざとじゃございませんことよ?
せりもも
恋愛
学園の卒業パーティーで、モランシー公爵令嬢コルデリアは、大国ロタリンギアの第一王子ジュリアンに、婚約を破棄されてしまう。父の領邦に戻った彼女は、修道院へ入ることになるが……。先祖伝来の魔法を授けられるが、今一歩のところで残念な悪役令嬢コルデリアと、真実の愛を追い求める王子ジュリアンの、行き違いラブ。短編です。
※表紙は、イラストACのムトウデザイン様(イラスト)、十野七様(背景)より頂きました

今、知りたくはなかった。
こうやさい
恋愛
あたしは本来悪役令嬢で、婚約を破棄されるはずだった。
前世の記憶でその運命を回避したと思っていたけれど……。
フラグを折りきれなかったという話かも。よくあるよくある。
……ところでダンナってヒロインと不倫してるんだよね? 一方的にストーカーしてるんじゃないよね?
ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる