【完結】その令嬢は号泣しただけ~泣き虫令嬢に悪役は無理でした~

春風由実

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2.泣き虫令嬢は回顧する

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 私たち兄妹は生まれてからずっと王都の屋敷で過ごしてきました。

 学んだところによりますと、貴族には二種類あるそうです。
 領地に住まい自身で領地を治める貴族と、王都に住んで領地経営を代理の者に任せている貴族です。

 我が公爵家の当主である父は、後者を選んでいました。
 というのも、父は王城での仕事を抱えていたからです。

 それに領地は一つではありません。
 そのどの領地の間も馬車でひと月は掛かる距離でした。
 これらの領地を一人の当主がすべて自分の目で見て管理することは難しいでしょう。

 そこで代理の者にそれぞれの領地の運営をお任せしているわけですが、この代理の者の選出には一定の規則を設けておりません。
 分家など公爵家所縁の方であったり、能力の高さで父が選んだ方であったり、試験で後任を選んだり、それぞれに任命の仕方、選出の仕方が異なっていたのです。
 中にはいつかの当主が決めた方のご子孫となられる方が連綿と領主代行を務めている領地もあります。

 そしてどの領地の運営に関しても、基本的に当主である父が口を挟むことはほとんどありません。
 つまり代行者に丸投げとも言えるのですが、父が言うには領民の声が届くようにしているから問題ないのだとか。
 父の出番は代行者が民から不信任を突き付けられたそのときだと言うのです。
 今のところ、皆さん善良に領主代行として領地を運営されているとのことで、大変有難いですね。

 とはいえ、領地について上がってくる様々な報告書にはすべて目を通しているようですから王城での仕事も合わせれば父の仕事量は相当なもので、兄は早くから父の仕事を手伝っておりました。
 実は私も以前から何か出来ることがあれば手伝わせて欲しいとお願いしてきたのですが、ようやく今年から母と一緒に少しの書類の確認をするようになったばかりで、父や兄の大変さを思い知らされる日々を送っています。


 さて、そういうわけで領地のことをほんの少し知っているだけの王都生まれ王都育ちの私たち兄妹ですが、少し前から領地を巡ってはどうかという話が出ていました。

 兄は十四歳。私は十二歳です。

 この国の成人は十八歳。
 成人すると兄は父の下で正式に働き始めることになります。
 今は成人前の子どもですから、あくまで手伝いという立場でした。

 成人してしまえば、兄はもう自由が利かない身になるでしょう。
 父の王城の仕事の補佐も正式に担うようになれば、王都を動くことは叶わなくなります。

 ですから今のうちにと兄が希望したのです。
 自身の目で見て確かめて領地を知りたい、当主代行者たちに挨拶もしておきたいし、人となりも見ておきたいと言ったときには、お兄さまはなんて立派な方なのでしょうと尊敬したものです。

 そこで私も兄に随行したいと願いました。

 私の場合はいつまでお手伝いが出来るか分からない身ですが、いずれにせよ身に着けた知識は未来の私を助けるような気がしたからです。
 それになんというか、あの不思議な感覚が『この世界を観たい』という欲を与えてくるのでした。


 結果、兄が両親を説得してくれまして、兄と共に領地を巡ることが決まったのです。
 それがつい数日前の話でした。
 
 すると何故か、王家から私宛にお手紙が届いたのです。

 なんでも王子殿下がお手紙を書く腕を磨きたくお友だちをお求めだとか。
 それで遠くの領地を巡る私が適任者として選ばれたとのこと。

 それなら元々仲のよろしい兄で良いのでは?と思いましたけれど、女性とも手紙のやりとりをしたいという旨がお手紙に書かれておりました。
 それこそ私よりももっと相応しい練習相手となる淑女の皆様がいらっしゃるように感じましたが、同年代の女性でかつ身分差が最もない女性がいいとのことで、それは確かに私くらいしかいないと分かります。

 我が家の起こりはかつての王弟であり、その時期は建国時にまで遡りまして、これほど長く王家に仕えてきた公爵家は他にありません。
 他にも公爵家はありますが、あえて比較すれば最上位にあると言っても良いでしょう。
 と言いましたが、私は他の貴族と直接お会いしたことがありません。すべては家庭教師の皆様から爵位について学んだときに聞いて知っただけの知識で、身分についての実感を伴った経験はまだないのです。


 それで私は、兄と一緒にお城に招待されることになりました。
 非公式なものだから気楽に来て欲しい、お友だちになりましょう。お手紙にその文面がなかったら、緊張と不安に泣いてお城に向かうことが出来なかったように思います。
 兄と一緒にどうぞ、と誘っていただいたことも大きいです。

 そしてなんとか泣くことなく、私は当日を迎えたのでした。




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