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スペアとして最後の時間

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 まさしく今考えていたことを殿下から命じられました。
 自ら降りるほどの価値も私にはなかったということです。

 けれども私の意識は何故か、呼び方を変えられたことに向かいました。
 そして胸の奥のあの場所に強い痛みが戻ってきたのです。
 私はそれで少しの間あの痛みを感じていなかったことに気付きます。

 横になって休めば治る、そういうものだったということでしょうか?
 これは私にとっては朗報でもあります。

 スペアを降りてしばらくは、申し訳ありませんが療養させていただくことになるかもしれせん。
 でもその先を考えられるということですから。

 スペアを降りたとしても、私はこの方のお役に立てるように生きていきたいと思いました。
 たとえお側にいられなくても。

 ずっと学んできたことは、この方の世に活かしたいと。
 スペアでない身でも、少しでもお役に立てる何かをしたいと。
 そう願わずにはいられません。

 元第一王子の現状を想いますに、この方はしばらくスペアなしでその重責を背負っていかれることになるでしょう。
 もちろん継承権をお持ちの方は他にもおりますけれど、その方々が今さら王になるというのは考えにくいもの。
 ですからお世継ぎとして王子殿下が生まれるそのときまで、この方はお一人で──。

 胸がきゅうっと痛んで、改めて毛布を握り締めてしまいました。

「マリー、話を聞けそうかな?後にするかい?」

「大丈夫です。お話をお聞かせ願えますか?」

 普段からお忙しい方でした。
 今はもう私には考えられないほどに忙しいのではないでしょうか。
 そんなときに私が何度もお会いしてお時間を頂戴するわけにはいきません。

 私は横になったまま、殿下のご尊顔を拝しました。
 目の下に隈があって、やはり忙しいのだと察します。
 ちゃんとお休みを取られているのでしょうか?
 私もお役に立てたら良かったですのに。

 でももう最後。

 このように間近で、そしてこんな体勢で、この方にお目見えする機会はもうないのだなぁと思えば、押し寄せる想いもあります。
 最後のときがこのような形となるのが本当に残念でなりません。

 せめて最後は美しく頭を下げたかった。


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