上 下
4 / 84

早朝に呼び出された執事長と侍女長

しおりを挟む
 公爵家に仕える執事長と侍女長は、揃って早朝からレオンの自室に呼び出された。
 隣室に続く扉の向こうでは、まだオリヴィアは眠っている。

 椅子に座るレオンの不機嫌さに、これはただ事ではないと感じ取った執事長らは緊張しているが、実はレオンがとてつもなく不機嫌な顔をしているのは、呼び出した二人だけが理由ではなかった。

 昨夜は妻と大変有意義な夜を過ごしたレオンだったが、話に夢中となって気付けばすでに真夜中である。
 そこで夫婦なのだからこれからは寝室を共にしようではないかと提案したレオンは、困惑する妻をなんとか説き伏せ、同じベッドで眠ることに成功したのだ。

 それで寝不足となったレオンは、今朝は酷く気が立っている。
 夜分遅くまで話していたとはいえ、普段のレオンの生活から考えれば十分な睡眠時間はあったはずだから、理由は察して欲しい。

「呼び出したのは、妻のことだ。お前たちには妻の世話をよくするよう頼んでおいたはずだな?」

 結婚式はそれまでの長雨が嘘のように、まるで天に祝福されているかのごとく見事な晴天だった。
 それが翌日からは一転、雨が戻り、ついには領内の一部の川に氾濫の兆候有との知らせが入って、レオンはこの対策に奔走していたのである。

 そしてようやく天候も回復して数日。
 この大雨で氾濫した川もあったが、領民を早々に避難させ対策を取っていたことで大きな被害は出ずに済み、氾濫した地域の復興の目途も立って、レオンが夜分にもかかわらず妻の元へと急いだのも昨夜のこと。

 だがその久しぶりに会った妻は、どうもレオンの期待した通りに過ごしていなかったようなのだ。

「はっ。奥様が何不自由なきように細やかなお世話をするよう、私の方からも侍女長に指示を出しておりました」

 執事長はちらと隣の侍女長に視線を送った。
 私は知らんぞ、と言っているようでもありレオンは少々不快さを覚えたが、確かに執事長はその通り指示を出していたのである。

「はい。わたくし共も、奥様が何不自由なき様にとよく計らいまして、お世話に務めて参りました」

 侍女長もまた、自分たちに落ち度があったとは思っていないらしい。
 レオンの視線は一段と鋭くなって、目の前に立つ二人を順に睨み付けていった。

「とてもそうは見えなかったが。お前たちは本当に何の問題も感じていなかったのだな?」

 執事長は責任から逃れられないことを悟る。
 屋敷の使用人たちを統括する立場にあっては、侍女らのことはすべて侍女長任せというわけにもいかないことは分かっていた。
 だがレオンが忙しかったように、執事長もまた、いつもにはない結婚後に必要な対応に加え、大雨の対策にと、とても忙しかったのだ。
 それに奥様の世話となれば、侍女らの方がプロである。婦人に必要な細やかな配慮というものは、いくら執事長であっても侍女らには適わない。

「何か奥様に関して問題が生じていたということでございましょうか?」

「あぁ、そうだ。それもあり過ぎる。まず一つ目、オリヴィアの食事は一日一食であったそうだな?」

 執事長がレオンの発言に目をひん剥いて驚いた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

契約結婚の終わりの花が咲きます、旦那様

日室千種・ちぐ
恋愛
エブリスタ新星ファンタジーコンテストで佳作をいただいた作品を、講評を参考に全体的に手直ししました。 春を告げるラクサの花が咲いたら、この契約結婚は終わり。 夫は他の女性を追いかけて家に帰らない。私はそれに傷つきながらも、夫の弱みにつけ込んで結婚した罪悪感から、なかば諦めていた。体を弱らせながらも、寄り添ってくれる老医師に夫への想いを語り聞かせて、前を向こうとしていたのに。繰り返す女の悪夢に少しずつ壊れた私は、ついにある時、ラクサの花を咲かせてしまう――。 真実とは。老医師の決断とは。 愛する人に別れを告げられることを恐れる妻と、妻を愛していたのに契約結婚を申し出てしまった夫。悪しき魔女に掻き回された夫婦が絆を見つめ直すお話。 全十二話。完結しています。

【完結】初夜の晩からすれ違う夫婦は、ある雨の晩に心を交わす

春風由実
恋愛
公爵令嬢のリーナは、半年前に侯爵であるアーネストの元に嫁いできた。 所謂、政略結婚で、結婚式の後の義務的な初夜を終えてからは、二人は同じ邸内にありながらも顔も合わせない日々を過ごしていたのだが── ある雨の晩に、それが一変する。 ※六話で完結します。一万字に足りない短いお話。ざまぁとかありません。ただただ愛し合う夫婦の話となります。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載中です。

花婿が差し替えられました

凛江
恋愛
伯爵令嬢アリスの結婚式当日、突然花婿が相手の弟クロードに差し替えられた。 元々結婚相手など誰でもよかったアリスにはどうでもいいが、クロードは相当不満らしい。 その不満が花嫁に向かい、初夜の晩に爆発!二人はそのまま白い結婚に突入するのだった。 ラブコメ風(?)西洋ファンタジーの予定です。 ※『お転婆令嬢』と『さげわたし』読んでくださっている方、話がなかなか完結せず申し訳ありません。 ゆっくりでも完結させるつもりなので長い目で見ていただけると嬉しいです。 こちらの話は、早めに(80000字くらい?)完結させる予定です。 出来るだけ休まず突っ走りたいと思いますので、読んでいただけたら嬉しいです! ※すみません、100000字くらいになりそうです…。

転生先が意地悪な王妃でした。うちの子が可愛いので今日から優しいママになります! ~陛下、もしかして一緒に遊びたいのですか?

朱音ゆうひ
恋愛
転生したら、我が子に冷たくする酷い王妃になってしまった!  「お母様、謝るわ。お母様、今日から変わる。あなたを一生懸命愛して、優しくして、幸せにするからね……っ」 王子を抱きしめて誓った私は、その日から愛情をたっぷりと注ぐ。 不仲だった夫(国王)は、そんな私と息子にそわそわと近づいてくる。 もしかして一緒に遊びたいのですか、あなた? 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5296ig/)

婚約破棄3秒前→5秒後結婚物語

豊口楽々亭
恋愛
『私』が目覚めた時、そこは乙女ゲームの最終盤面、結婚破棄の3秒前でした。 皇子の身体の中に入ってしまっている『私』。目の前には今にも捨てられそうな婚約者のユーノ、隣にはヒロインの篠宮きらら。 そしてその背後には、最早ヒロインに籠絡済みの攻略対象者たちがずらり、と並んでいる。 あれ、これってもしかしなくても、ハーレムエンドじゃん? 『私』は、このままハーレムエンドを受け入れるべきなのか?それとも他のルートを選ぶべきか!?   選択するために、『私』は5秒間必死に過去を振り返る。 そこには、『私』の予期していなかった記憶があった─── ※数ページで終わる予定の短編です。気楽にお読みください。 ※小説家になろうに公開済みです。 ※2023/06/28に加筆修正。内容に変更はありません。 ※本編完結しましたが、後日談を書く予定です。 内容は、きらら視点での学生生活と本編の後日談。 『私』が受肉した話し。 アステリオスとユーノの結婚生活などを考えております。

完結 若い愛人がいる?それは良かったです。

音爽(ネソウ)
恋愛
妻が余命宣告を受けた、愛人を抱える夫は小躍りするのだが……

処理中です...