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66.従姉妹が知らない人のようでした
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「また何か勘違いをしているようね。ミシェルは伯の娘ですよ」
お母さまの静かな怒りを受け止めてもなお、ミーネは叫びました。
本当にこんなに強い子だったことには驚きです。
「おばさまたちにとっては姪なのでしょう?それならわたくしたちと同じじゃない!」
「同じではありません。ミシェルはわたくしたち夫婦の子だと言っています」
「だぁかぁらぁ。それがおかしいって言っているのよ!」
不貞の子でなかったことに心からほっとしていたのですが。
私にはまだおかしな点があるのでしょうか?
今までは生まれの卑しい私を、これまで大切に育ててくれた両親や、アルと差を付けず親切にしてくださった領内の皆様のために、少しでもお役に立てたらと願ってきたのですが。
それが違うと分かった今も、これまで皆様に良くしていただきながらお役に立てなかったことは事実で、皆様に恩返し出来たらと願う気持ちは変わりませんでした。
無事に侯爵家に嫁ぎ妻となれましたから、少しは家の役に立っていると嬉しいなと思います。
けれどもまだまだ足りていないのかもしれません。
ミーネは大変怒っておりましたが、やはりレーネは俯いていて顔色が悪く見えました。
「お姉さまも黙っていないで、何とか言いなさいよ!」
それにやっとミーネも気が付いたようです。
レーネの顔が少し上がって、けれども視線は落ちたままでした。
「わたくしはおかしいなと思っていたのです」
震える声はそのように語ります。
するとミーネの怒りは、今度はレーネへと向かいました。
「何ですって?どういうことよ!」
「妹の子だとは聞いておりましたけれど。お母さまから聞くお話とのずれを感じていて」
「なによ、ずれって。どういうことよ」
ミーネがどれだけ苛立っているかは、その口調から分かりました。
おもちゃを取り上げられたミーネが大泣きしていた幼い日々が重なります。
「お母さまは、おばさまのことを嫌っていたでしょう?それはおばさまが本性を見せずにおじさまに選んでもらったせいだとあなたも聞いていたわね?」
恐ろしくて、母の顔は見られませんでした。
まだ扇の音は鳴っていません。
「そこにもう一人、お母さまの嫌いな女が出てきたじゃないの」
「覚えていないわ!」
「そう、残念だわ。お母さまはいつもこう言っていたのよ。あの女も後押しをしてくれたらいいものを、可愛がってやっても役に立たないだけでなく、懐きもしない可愛げのない女だったって。だから亡くなってせいせ……つまりそういうことよ」
途中で言葉を止めたレーネは、最後にきゅっと唇を噛んでいました。
みしっと扇を潰す……いえ、握り締める音を聞いた気がするのですが、それは気のせいだと思っておくことにします。
「つまりどういうことよ!」
「いいのよ、分からないならもう」
「良くないわ!ミシェルお姉さまがわたくしたちより格下であることは変わらないのよね?」
レーネはいつまでも妹であるミーネの顔を見ませんでした。
やっとその視線が上がりますと、今度はお母さまに問い掛けます。
「父はすでに除籍され、母も離縁ののち実家には戻れなかったのですね?」
「そう言いましたよ」
「分かりました。王都での裁きを受け入れます」
「お姉さま!」
「ミーネ、わたくしたちはもう平民なのですわ。平民として貴族相手に裁かれることがどういうことか、さすがにあなたでも分かるわよね?」
「なによ、馬鹿にして!」
「馬鹿にしていないわ。辺境伯家の庇護下にないわたくしたちなど、王都では誰もお呼びでないことは、分かっているわね?」
「うるさいわね。いつもいつもお小言ばかり。賢しい女だからお姉さまは嫌われるのよ!それならこういうときこそ、役に立ちなさいよね!」
まぁ、なんてこと。
ミーネは、レーネにも厳しかったのですね。
「そうだわ、お姉さま。お一人で裁かれてきたらいいわよ。そうよ、全部お姉さま一人のせいにすればいいんだわ。でも、だめね。それでは足りないわ。ミシェルお姉さまだけが幸せになるなんて許せないもの!」
鳥肌が立つような感覚があって腕を擦ろうとしたら、先にジンに擦られてしまいました。
ここにいるのは、本当に私の知っている可愛いミーネなのかしら?
記憶のどのお顔とも、今のミーネの表情が一致しません。
お母さまの静かな怒りを受け止めてもなお、ミーネは叫びました。
本当にこんなに強い子だったことには驚きです。
「おばさまたちにとっては姪なのでしょう?それならわたくしたちと同じじゃない!」
「同じではありません。ミシェルはわたくしたち夫婦の子だと言っています」
「だぁかぁらぁ。それがおかしいって言っているのよ!」
不貞の子でなかったことに心からほっとしていたのですが。
私にはまだおかしな点があるのでしょうか?
今までは生まれの卑しい私を、これまで大切に育ててくれた両親や、アルと差を付けず親切にしてくださった領内の皆様のために、少しでもお役に立てたらと願ってきたのですが。
それが違うと分かった今も、これまで皆様に良くしていただきながらお役に立てなかったことは事実で、皆様に恩返し出来たらと願う気持ちは変わりませんでした。
無事に侯爵家に嫁ぎ妻となれましたから、少しは家の役に立っていると嬉しいなと思います。
けれどもまだまだ足りていないのかもしれません。
ミーネは大変怒っておりましたが、やはりレーネは俯いていて顔色が悪く見えました。
「お姉さまも黙っていないで、何とか言いなさいよ!」
それにやっとミーネも気が付いたようです。
レーネの顔が少し上がって、けれども視線は落ちたままでした。
「わたくしはおかしいなと思っていたのです」
震える声はそのように語ります。
するとミーネの怒りは、今度はレーネへと向かいました。
「何ですって?どういうことよ!」
「妹の子だとは聞いておりましたけれど。お母さまから聞くお話とのずれを感じていて」
「なによ、ずれって。どういうことよ」
ミーネがどれだけ苛立っているかは、その口調から分かりました。
おもちゃを取り上げられたミーネが大泣きしていた幼い日々が重なります。
「お母さまは、おばさまのことを嫌っていたでしょう?それはおばさまが本性を見せずにおじさまに選んでもらったせいだとあなたも聞いていたわね?」
恐ろしくて、母の顔は見られませんでした。
まだ扇の音は鳴っていません。
「そこにもう一人、お母さまの嫌いな女が出てきたじゃないの」
「覚えていないわ!」
「そう、残念だわ。お母さまはいつもこう言っていたのよ。あの女も後押しをしてくれたらいいものを、可愛がってやっても役に立たないだけでなく、懐きもしない可愛げのない女だったって。だから亡くなってせいせ……つまりそういうことよ」
途中で言葉を止めたレーネは、最後にきゅっと唇を噛んでいました。
みしっと扇を潰す……いえ、握り締める音を聞いた気がするのですが、それは気のせいだと思っておくことにします。
「つまりどういうことよ!」
「いいのよ、分からないならもう」
「良くないわ!ミシェルお姉さまがわたくしたちより格下であることは変わらないのよね?」
レーネはいつまでも妹であるミーネの顔を見ませんでした。
やっとその視線が上がりますと、今度はお母さまに問い掛けます。
「父はすでに除籍され、母も離縁ののち実家には戻れなかったのですね?」
「そう言いましたよ」
「分かりました。王都での裁きを受け入れます」
「お姉さま!」
「ミーネ、わたくしたちはもう平民なのですわ。平民として貴族相手に裁かれることがどういうことか、さすがにあなたでも分かるわよね?」
「なによ、馬鹿にして!」
「馬鹿にしていないわ。辺境伯家の庇護下にないわたくしたちなど、王都では誰もお呼びでないことは、分かっているわね?」
「うるさいわね。いつもいつもお小言ばかり。賢しい女だからお姉さまは嫌われるのよ!それならこういうときこそ、役に立ちなさいよね!」
まぁ、なんてこと。
ミーネは、レーネにも厳しかったのですね。
「そうだわ、お姉さま。お一人で裁かれてきたらいいわよ。そうよ、全部お姉さま一人のせいにすればいいんだわ。でも、だめね。それでは足りないわ。ミシェルお姉さまだけが幸せになるなんて許せないもの!」
鳥肌が立つような感覚があって腕を擦ろうとしたら、先にジンに擦られてしまいました。
ここにいるのは、本当に私の知っている可愛いミーネなのかしら?
記憶のどのお顔とも、今のミーネの表情が一致しません。
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