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62.私も訴えられたのだと思いました
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「あなたに渡すものがあります」
お母さまが近付いてこられまして、私はジンの膝の上に座ったまま、それを受け取りました。
これは何かしら?
とても分厚い紙の束ですが……まさかっ!私にも訴訟に関する書状が!
「あなたがどうして他家から訴えられるのです?」
「あ、そうですね」
お母さまに言われて気が付きましたが、生まれてから嫁ぐまで領地に引き籠っていた私が他家の方々から訴えられる理由は見当たりませんでした。
交流もないのに訴えられるとしたら……何でしょう?生まれが卑しいから?
いえ、そんな理由でよそ様の家の事情に口を出す貴族はないでしょう。
調べて訴えて何をしたいのか、という話です。
はっ!まさか隣国の──。
「ミシェル。まずはそれをお読みなさい」
「はい!」
恐ろしく分厚い紙の束は、麻紐でまとめられておりました。
まずはその紐を解きまして、そして折られた紙を開いていけば。
あら、知った字があらわれたではありませんか。
「お父さまがこれを?」
「えぇ、本当にうじうじと……読んであげなさい」
「はい!」
うじうじとしていたのは、お父さまということかしら?
うじうじとしながら、こんなに長い文章を書けたのは不思議です。
一体どういうことかしら?と気になりますが、まずはお父さまの手記?の内容を確認することに致します。
『愛しい、愛しい、可愛い、可愛い我が娘ミシェルへ』
そう始まっているからには、これは手紙なのかしら?
けれども何故二度ずつ同じ言葉を繰り返しているのかしらね?
…………。
読み始めて五行くらいで、私は疲れました。
そんなつもりではなかった。
あんなことにはなるとは思わなかった。
申し訳ない。
どうかこれからもパパと呼んでくれ。
……パパとは?
どうしましょう、私はパパと呼んだ覚えがないのですが。
これももしや、父を騙る叔父さまの手紙だったり……。
「ミシェル。それは間違いなく伯からの手紙です」
「あ、はい」
「ですが……そうですね。前半はすっ飛ばして構いません。あとで余程時間が有り余っているときに、じっくり読んであげなさい」
私もそうした方が良いと思っていました。
父が何について書いているのか、まったく理解出来ない内容だったからです。
『……であるからして、私は今も後悔しているが、過去は変えられない。だからミシェルを娘として大切に育てようと……』
まだ分かりそうもありませんね。
もう少し先に進んでみましょうか。
『ミシェルの父親の死を望んだことなどなかった。本当だ。ただ結婚のための試練として……』
私の父親?
『愛する可愛いレイチェルにどれだけ嫌われようと……』
レイチェル?
もしかしてこれがお父さまの愛した方のお名前でしょうか。
そうすると、この方は私の──。
『まさか愛しいレイチェルまで失うことになるとは思わなんだ。私はあのとき、妻に頭を下げて、ミシェルを我が子として育てようと』
やはり私は、望まれぬ子どもだったのですね。
あら?
『だが妻は、元からそのつもりだと言って私を叱った』
まぁ、叱られて。
え?お母さまは元からそのおつもりで……?
『今まで伝えなかったことは申し訳ない。誰に聞いても答える者はなかっただろう。領内で妹夫婦の話をすることは許さんと私が厳命していたからだ』
妹夫婦?
『だが私は彼を追い詰めながら、そのうえ彼からミシェルのパパとしての役目まで奪ってきた。ミシェルの顔も拝めず亡くなった彼を思えば……』
『しかし私は、どうしてもミシェルのパパでいたかったのだ。ミシェルには何も知らせず、ずっとパパだと信じて欲しかった』
『人の口には戸を立てられない、いくら厳しく取り締まってもいずれ伝わる、妻が言っていた通りになった』
『私には妹と同じく、あれは可愛い弟なのだ。妹のように失いたくないと思えば、なおのこと可愛がろうと決めていた。それが弟には望まぬことだったなどと……』
可愛い弟は、叔父さまのことですよね?
では妹とは……。
『母のことだけ伝えたな?どうしても父のことは言えなかった』
『恨んでくれてもいい。憎んでくれてもいい。家を出るその日まで、何も伝えられなかった弱い父を許してくれ。だが今も、私はミシェルを想っている。可愛くてならないのだ。本当は嫁にも……』
『あの小僧がこんな手を使ってくるとは。いいか、ミシェル。いつでもパパを恨んで報復に帰ってきなさい。それからあの小僧のことは信用してはならん。しかしあいつの二の舞には出来ぬと……』
…………。
「お母さま」
「分からないのでしょう。説明するわ」
是非お願いします。
お父さまが私に謝罪をしたがっているということはなんとなく分かりましたけれど。
感情的に書かれたようで、内容は支離滅裂。何が何だか分かりません。
大人しくなった従姉妹たちもまた、何も分からない様子で戸惑った顔をして私を見ておりました。
ミーネは涙目でこちらを睨み付けておりますが、先ほどの興奮は収まったようで、顔を赤くしてはおりませんでした。
お母さまが近付いてこられまして、私はジンの膝の上に座ったまま、それを受け取りました。
これは何かしら?
とても分厚い紙の束ですが……まさかっ!私にも訴訟に関する書状が!
「あなたがどうして他家から訴えられるのです?」
「あ、そうですね」
お母さまに言われて気が付きましたが、生まれてから嫁ぐまで領地に引き籠っていた私が他家の方々から訴えられる理由は見当たりませんでした。
交流もないのに訴えられるとしたら……何でしょう?生まれが卑しいから?
いえ、そんな理由でよそ様の家の事情に口を出す貴族はないでしょう。
調べて訴えて何をしたいのか、という話です。
はっ!まさか隣国の──。
「ミシェル。まずはそれをお読みなさい」
「はい!」
恐ろしく分厚い紙の束は、麻紐でまとめられておりました。
まずはその紐を解きまして、そして折られた紙を開いていけば。
あら、知った字があらわれたではありませんか。
「お父さまがこれを?」
「えぇ、本当にうじうじと……読んであげなさい」
「はい!」
うじうじとしていたのは、お父さまということかしら?
うじうじとしながら、こんなに長い文章を書けたのは不思議です。
一体どういうことかしら?と気になりますが、まずはお父さまの手記?の内容を確認することに致します。
『愛しい、愛しい、可愛い、可愛い我が娘ミシェルへ』
そう始まっているからには、これは手紙なのかしら?
けれども何故二度ずつ同じ言葉を繰り返しているのかしらね?
…………。
読み始めて五行くらいで、私は疲れました。
そんなつもりではなかった。
あんなことにはなるとは思わなかった。
申し訳ない。
どうかこれからもパパと呼んでくれ。
……パパとは?
どうしましょう、私はパパと呼んだ覚えがないのですが。
これももしや、父を騙る叔父さまの手紙だったり……。
「ミシェル。それは間違いなく伯からの手紙です」
「あ、はい」
「ですが……そうですね。前半はすっ飛ばして構いません。あとで余程時間が有り余っているときに、じっくり読んであげなさい」
私もそうした方が良いと思っていました。
父が何について書いているのか、まったく理解出来ない内容だったからです。
『……であるからして、私は今も後悔しているが、過去は変えられない。だからミシェルを娘として大切に育てようと……』
まだ分かりそうもありませんね。
もう少し先に進んでみましょうか。
『ミシェルの父親の死を望んだことなどなかった。本当だ。ただ結婚のための試練として……』
私の父親?
『愛する可愛いレイチェルにどれだけ嫌われようと……』
レイチェル?
もしかしてこれがお父さまの愛した方のお名前でしょうか。
そうすると、この方は私の──。
『まさか愛しいレイチェルまで失うことになるとは思わなんだ。私はあのとき、妻に頭を下げて、ミシェルを我が子として育てようと』
やはり私は、望まれぬ子どもだったのですね。
あら?
『だが妻は、元からそのつもりだと言って私を叱った』
まぁ、叱られて。
え?お母さまは元からそのおつもりで……?
『今まで伝えなかったことは申し訳ない。誰に聞いても答える者はなかっただろう。領内で妹夫婦の話をすることは許さんと私が厳命していたからだ』
妹夫婦?
『だが私は彼を追い詰めながら、そのうえ彼からミシェルのパパとしての役目まで奪ってきた。ミシェルの顔も拝めず亡くなった彼を思えば……』
『しかし私は、どうしてもミシェルのパパでいたかったのだ。ミシェルには何も知らせず、ずっとパパだと信じて欲しかった』
『人の口には戸を立てられない、いくら厳しく取り締まってもいずれ伝わる、妻が言っていた通りになった』
『私には妹と同じく、あれは可愛い弟なのだ。妹のように失いたくないと思えば、なおのこと可愛がろうと決めていた。それが弟には望まぬことだったなどと……』
可愛い弟は、叔父さまのことですよね?
では妹とは……。
『母のことだけ伝えたな?どうしても父のことは言えなかった』
『恨んでくれてもいい。憎んでくれてもいい。家を出るその日まで、何も伝えられなかった弱い父を許してくれ。だが今も、私はミシェルを想っている。可愛くてならないのだ。本当は嫁にも……』
『あの小僧がこんな手を使ってくるとは。いいか、ミシェル。いつでもパパを恨んで報復に帰ってきなさい。それからあの小僧のことは信用してはならん。しかしあいつの二の舞には出来ぬと……』
…………。
「お母さま」
「分からないのでしょう。説明するわ」
是非お願いします。
お父さまが私に謝罪をしたがっているということはなんとなく分かりましたけれど。
感情的に書かれたようで、内容は支離滅裂。何が何だか分かりません。
大人しくなった従姉妹たちもまた、何も分からない様子で戸惑った顔をして私を見ておりました。
ミーネは涙目でこちらを睨み付けておりますが、先ほどの興奮は収まったようで、顔を赤くしてはおりませんでした。
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