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59.母は強しです
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「とりあえず、座っていただいてはどうだろう」
と言ったのは、この屋敷のお客様であるハルでした。
そういえば、ハルも立たせたままです。
なんてことっ!
それなのに私はジンの膝の上にいただなんて。
「身内の恥を収めるまでは、このままで結構。殿下はどうぞ、お座りください」
「……僕も仕事が終わるまではこのままでいよう」
え?今、何か不思議な声掛けが──。
「あら、そう。では失礼ながらこのまま進めさせていただきますわ。あぁ、そちらは座ったままで結構。座り心地の良いソファーなどあなたたちには最後の楽しみになるでしょうから、とくと味わっておくといいわ」
さ、最後ですって!
このソファーが最後に……大変だわ。ソファーに座っていませんでした!
「あなたではないわ。可愛い我が姪たちに言っているのです」
従姉妹たちはソファーに座ることが出来なくなるのですか?
「うふふ。わたくしの愚かな義弟、あなたたちの父親が王都で捕まったことは、あなたたちも知っていますね?」
「えぇ!!!」
驚いて声を上げたのは、私一人です。
え?皆さん、ご存知で?
え?ジンも?
気になって振り向けば、答えが返ってきました。
「少し前に聞いたばかりだ」
「まぁ」
私だけ知らなかったなんて。恥ずかしいわ。
ジンが「伝える暇がなかったからな」と耳元で囁きましたが、私はそれほど忙しく過ごしていたのでしょうか?
三日分の記憶喪失がありましたので、どのみち教えてくださっていても、きっと私は忘れてしまっていたのでしょう。
「罪状のひとつに過ぎませんが、伯を騙り方々に手紙を送っていたことが判明したのよ。それがこちらにも届いていたようだから、回収に参りましたわ」
伯を騙り?
つまりお父さまが書いたものだと嘘を付いて、どこかに手紙を送っていたと?
え?どうして叔父さまがそのようなことを?
「王家にまで偽りの手紙を送るだなんて、あの愚かな義弟は何を考えていたのかしら。ねぇ、そこのお二人?」
「……し、知りませんわ」
「そ、そうですわ。わたくしたちはお父さまからこちらに嫁ぐよう言われて来ただけです!」
レーネはまだ震えていましたが、ミーネは怒った顔をしていました。
いつの間にか、小さかったミーネもこんなにも立派になって、母に歯向かうなんて……無謀だわ。
「そう。ではこれはどうかしら?王都ではあなたたち二人に対しての訴訟が起きているそうね?」
そしょう……?
「それもひとつやふたつではないと聞いたわ。あなたたち一家は、我が家の顔にどれだけの泥を塗る気でいるのかしらねぇ」
バシン。
強い音と共に扇が閉じます。
私の背筋がまた一段と伸びましたが、ジンはよく避けてくれました。
応接室の空気がぴりぴりと張り詰めていて、さすがお母さまだと思いました。
私も夫人としてあの扇を持ちたいです。
失くしたことを正直にお詫びして、もうひとついただけないかしら?
その前にどんな雷を受け止めなければならないか……想像するだけで身体が震えました。
驚いたジンに後ろから抱き締められてしまいます。
一瞬震えただけです。もう離して、離してください。
と言ったのは、この屋敷のお客様であるハルでした。
そういえば、ハルも立たせたままです。
なんてことっ!
それなのに私はジンの膝の上にいただなんて。
「身内の恥を収めるまでは、このままで結構。殿下はどうぞ、お座りください」
「……僕も仕事が終わるまではこのままでいよう」
え?今、何か不思議な声掛けが──。
「あら、そう。では失礼ながらこのまま進めさせていただきますわ。あぁ、そちらは座ったままで結構。座り心地の良いソファーなどあなたたちには最後の楽しみになるでしょうから、とくと味わっておくといいわ」
さ、最後ですって!
このソファーが最後に……大変だわ。ソファーに座っていませんでした!
「あなたではないわ。可愛い我が姪たちに言っているのです」
従姉妹たちはソファーに座ることが出来なくなるのですか?
「うふふ。わたくしの愚かな義弟、あなたたちの父親が王都で捕まったことは、あなたたちも知っていますね?」
「えぇ!!!」
驚いて声を上げたのは、私一人です。
え?皆さん、ご存知で?
え?ジンも?
気になって振り向けば、答えが返ってきました。
「少し前に聞いたばかりだ」
「まぁ」
私だけ知らなかったなんて。恥ずかしいわ。
ジンが「伝える暇がなかったからな」と耳元で囁きましたが、私はそれほど忙しく過ごしていたのでしょうか?
三日分の記憶喪失がありましたので、どのみち教えてくださっていても、きっと私は忘れてしまっていたのでしょう。
「罪状のひとつに過ぎませんが、伯を騙り方々に手紙を送っていたことが判明したのよ。それがこちらにも届いていたようだから、回収に参りましたわ」
伯を騙り?
つまりお父さまが書いたものだと嘘を付いて、どこかに手紙を送っていたと?
え?どうして叔父さまがそのようなことを?
「王家にまで偽りの手紙を送るだなんて、あの愚かな義弟は何を考えていたのかしら。ねぇ、そこのお二人?」
「……し、知りませんわ」
「そ、そうですわ。わたくしたちはお父さまからこちらに嫁ぐよう言われて来ただけです!」
レーネはまだ震えていましたが、ミーネは怒った顔をしていました。
いつの間にか、小さかったミーネもこんなにも立派になって、母に歯向かうなんて……無謀だわ。
「そう。ではこれはどうかしら?王都ではあなたたち二人に対しての訴訟が起きているそうね?」
そしょう……?
「それもひとつやふたつではないと聞いたわ。あなたたち一家は、我が家の顔にどれだけの泥を塗る気でいるのかしらねぇ」
バシン。
強い音と共に扇が閉じます。
私の背筋がまた一段と伸びましたが、ジンはよく避けてくれました。
応接室の空気がぴりぴりと張り詰めていて、さすがお母さまだと思いました。
私も夫人としてあの扇を持ちたいです。
失くしたことを正直にお詫びして、もうひとついただけないかしら?
その前にどんな雷を受け止めなければならないか……想像するだけで身体が震えました。
驚いたジンに後ろから抱き締められてしまいます。
一瞬震えただけです。もう離して、離してください。
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