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57.従姉妹たちを苦しめていたようです
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「どうしてよっ!」
ハルの笑い声を止めたのは、ミーネの叫び声となりました。
あまりに長かったので、私もそろそろ止めた方がいいのではないかと思っていたところです。
ひぃひぃとハルの息は苦しそうでしたからね。
「こんなのおかしいわ!卑しい生まれのくせして、結婚してもまだわたくしたちより上にいるなんて!」
胸がきゅっと痛みました。
ジンにはちゃんと話したつもりでしたけれど……あれで伝わっていた……のよね?
心配になって振り返れば、ジンもまた私の顔を覗き込もうとしていたところでした。
視線が交差すると、不思議と胸の痛みが和らいでいきます。
「どうしてわたくしたちばかり下にいて、我慢しなければならないの?何を願ってもミシェルお姉さまがまだだから、ミシェルお姉さまがお持ちでないから──いつもいつもミシェルお姉さまが先に来て!」
「そうね、おかしいわ」
ミーネとは違い落ち着いた声で言ったレーネは、もうハンカチを噛んではいませんでした。
けれどもそのお顔は、いつもの令嬢らしさを失い、酷く歪んでいます。
「正当な生まれのわたくしたちを差し置いて、ミシェルお姉さまが優遇されるなんて許されることではないわ。それでも結婚するまでの辛抱だと思って耐えてきましたけれど。せいぜい領内の騎士か文官のどなたかに嫁ぐのでしょうと思っていたら。あなたのような人が、侯爵夫人ですって?あり得ないわ」
「そうよ、そうよ!あり得ないのよ!領地に帰ると、ミシェルお姉さまを見習えなんてうるさく言われるわたくしたちの身になったことがあって?生まれが卑しいうえに、田舎者で、野蛮で、令嬢のくせして鍛えてばかりの女のどこを見習えって言うのよね!何が、姫よっ!わたくしたちの方がずっと姫らしいじゃない!」
レーネの加勢を喜んだミーネは、甲高い声で捲し立てていました。
故郷には私を姫と呼んでくれる騎士たちが沢山いたのです。
けれども確かに、ミーネやレーネの方がずっと姫らしいと思います。
「そうね。こんな女が侯爵夫人なんて、どう考えても無理に決まっているわ。言いたくはありませんけれど、正直おじさまとおばさまにもがっかりですわよ。こんな女を嫁がせて他家に恥を晒すようなことをなさるだなんて」
それからレーネはにこりと微笑んで、ジンに言ったのです。
「侯爵様、わたくしたちにはミシェルお姉さまと共に夫人にしていただかなければならない、深い事情がありますの。それは侯爵様のためにもなりましてよ?」
すぐに謝罪をと思いましたのに、言葉が出ません。
こんなにも従姉妹たちに辛い想いをさせていたとは知りませんでした。
従姉妹たちの言ったように、私のような生まれのものが苦労を掛けていたのなら、それは大変申し訳ないことを──
「愚かな」
え?
その声に驚いて私は鏡の掛かる壁を見ました。
そこに気配はありません。
誰もいないようですのに、先ほどハルが入ってきた扉がすーっと静かに動いていることに気が付きました。
気配はまだ何も感じておりません。
ハルの笑い声を止めたのは、ミーネの叫び声となりました。
あまりに長かったので、私もそろそろ止めた方がいいのではないかと思っていたところです。
ひぃひぃとハルの息は苦しそうでしたからね。
「こんなのおかしいわ!卑しい生まれのくせして、結婚してもまだわたくしたちより上にいるなんて!」
胸がきゅっと痛みました。
ジンにはちゃんと話したつもりでしたけれど……あれで伝わっていた……のよね?
心配になって振り返れば、ジンもまた私の顔を覗き込もうとしていたところでした。
視線が交差すると、不思議と胸の痛みが和らいでいきます。
「どうしてわたくしたちばかり下にいて、我慢しなければならないの?何を願ってもミシェルお姉さまがまだだから、ミシェルお姉さまがお持ちでないから──いつもいつもミシェルお姉さまが先に来て!」
「そうね、おかしいわ」
ミーネとは違い落ち着いた声で言ったレーネは、もうハンカチを噛んではいませんでした。
けれどもそのお顔は、いつもの令嬢らしさを失い、酷く歪んでいます。
「正当な生まれのわたくしたちを差し置いて、ミシェルお姉さまが優遇されるなんて許されることではないわ。それでも結婚するまでの辛抱だと思って耐えてきましたけれど。せいぜい領内の騎士か文官のどなたかに嫁ぐのでしょうと思っていたら。あなたのような人が、侯爵夫人ですって?あり得ないわ」
「そうよ、そうよ!あり得ないのよ!領地に帰ると、ミシェルお姉さまを見習えなんてうるさく言われるわたくしたちの身になったことがあって?生まれが卑しいうえに、田舎者で、野蛮で、令嬢のくせして鍛えてばかりの女のどこを見習えって言うのよね!何が、姫よっ!わたくしたちの方がずっと姫らしいじゃない!」
レーネの加勢を喜んだミーネは、甲高い声で捲し立てていました。
故郷には私を姫と呼んでくれる騎士たちが沢山いたのです。
けれども確かに、ミーネやレーネの方がずっと姫らしいと思います。
「そうね。こんな女が侯爵夫人なんて、どう考えても無理に決まっているわ。言いたくはありませんけれど、正直おじさまとおばさまにもがっかりですわよ。こんな女を嫁がせて他家に恥を晒すようなことをなさるだなんて」
それからレーネはにこりと微笑んで、ジンに言ったのです。
「侯爵様、わたくしたちにはミシェルお姉さまと共に夫人にしていただかなければならない、深い事情がありますの。それは侯爵様のためにもなりましてよ?」
すぐに謝罪をと思いましたのに、言葉が出ません。
こんなにも従姉妹たちに辛い想いをさせていたとは知りませんでした。
従姉妹たちの言ったように、私のような生まれのものが苦労を掛けていたのなら、それは大変申し訳ないことを──
「愚かな」
え?
その声に驚いて私は鏡の掛かる壁を見ました。
そこに気配はありません。
誰もいないようですのに、先ほどハルが入ってきた扉がすーっと静かに動いていることに気が付きました。
気配はまだ何も感じておりません。
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