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27.侯爵家には凄い秘密がありそうです
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「あぁ、すまない。すまなかった」
「え?」
何を謝っているのかしら?
さっぱり分からなくて侯爵様を見詰めます。
「いや、うん。その──ただな」
昨夜もこのように、とても言いにくそうにされていることが何回もございました。
私は良き夫人らしく待つことに致します。
すぐに動くな、機を待てるようになれ。
母もよくそう言っていましたものね。
「その、つまりな──その──昨夜のように呼んで欲しいと思ってな」
「あ!」
そうでした。
ぐっすり眠ったら、忘れてしまったようです。覚えが悪くて申し訳ありません。
いえ、覚えてはいるのですよ。
それを完璧に活用出来ないことは私の欠点で、貴族令嬢としてこのように劣る娘が嫁いでしまい、侯爵様には王命とはいえ申し訳なく思います。
「──君は」
「はい。ユージーン様」
「うん──ミシェル」
あら?
お顔色が良くないような?
また昨日と同じ、癖のせいでしょうか?
これも癖と言っていましたが、本当に心配になりますね。
顔色が変わる癖なんて他の人にもあるのでしょうか?
でも侍医曰く侯爵様は優れた健康体だそうですからね。
その侍医の方は侯爵領でもかなりの腕前をお持ちだから、診断を信用していいそうです。
「私の心配は本当に要らないぞ。今朝も完全な健康体だと言われたばかりだ」
「まぁ、毎朝診て頂いて?」
「いや。たまたま会ったから診てくれてな」
それは凄い偶然ですね。
たまたま会える場所に侍医の方はいらっしゃると。
「今朝は少し散歩をしていたんだ。侍医も珍しく同じでな」
「もしかしてお食事をお待たせして──」
「それはない。昨夜はよく食べていてお腹が空いていなかったから朝に歩いておいたのだ。君の用意が終わる頃に、ちょうどお腹が空いてきてタイミングが見事だと思っていた」
それなら良かったです。
お腹を空かせている相手を長く待たせることは、よくありませんからね。
あえてそうする戦法もありますけれど。
「君は──ミシェルは、今日はどうしたい?」
「え?」
「昨夜言った通り、私は今日を含めて三日間休暇を取っている。意地でも働かない気だ」
確かに昨夜も同じように仰っていましたね。
何が何でも働きたくないそうです。
緊急時以外、仕事の話を振るなとまで配下の皆様に伝えているのだとか。
「もし希望がないようなら、まずは邸を案内するが」
「是非お願いします!」
安息を得るには、まずは空間への理解を深めなければなりません。
この場所がどこで、どんな逃げ道があり、どのように敵を追い込む道があるか、知っているからこそ安心して日々暮らせるというもの。
……ここに来てから毎日ぐっすりと眠っておりますけれどね。
だってこの邸では敵の気配を感じないんですもの。
侯爵様のくしゃっと柔らかく笑ったお顔は、室内の明るさに照らされてきらきらと輝いておりました。
また手を捕獲されまして食堂を出る前にシシィがさっと発言します。
「まだ足りないものがおありではありませんか?」
え?
お腹が空いて見えましたか?
そんな物欲しそうな顔をしていたつもりはないのですが。
食べようと思えばまだ入りますけれどね。
「奥様ではなく旦那様のお話です。せっかくの好機を逃されませんように。ちなみに奥様、あとでおやつの時間がございますので、お楽しみになさってください。本日からおやつもこちらの土地で馴染まれているものをお出しする予定です」
シシィのそれは敵という獲物を前にした強い軍人の瞳でした。
やはり素敵です……。
それにおやつの予定も素敵……。
扇もありませんし、シシィと同等の目力を得られるよう頑張ってみましょうか。
シシィがこちらを見て微笑んでいるときに、旦那様が何か言われます。
「うっ──いや、それはこれから──おいおい──怖がらせてもあれだし──だから焦らずにだな」
小さな声で抵抗するように言っていましたけれど。
何がなんだか分からず手を捕獲されている私は首を傾げるしか出来ませんでした。
「時間を掛けるほどにかえって出来ぬようになることもございますよ」
シシィはにっこり微笑みます。
侯爵家には何か凄い秘密がありそうです。
まさか。影の支配者は……。
ごくり。
またしても喉を鳴らしてしまいました。
ここでの暮らしにわくわくしてきましたね。
「え?」
何を謝っているのかしら?
さっぱり分からなくて侯爵様を見詰めます。
「いや、うん。その──ただな」
昨夜もこのように、とても言いにくそうにされていることが何回もございました。
私は良き夫人らしく待つことに致します。
すぐに動くな、機を待てるようになれ。
母もよくそう言っていましたものね。
「その、つまりな──その──昨夜のように呼んで欲しいと思ってな」
「あ!」
そうでした。
ぐっすり眠ったら、忘れてしまったようです。覚えが悪くて申し訳ありません。
いえ、覚えてはいるのですよ。
それを完璧に活用出来ないことは私の欠点で、貴族令嬢としてこのように劣る娘が嫁いでしまい、侯爵様には王命とはいえ申し訳なく思います。
「──君は」
「はい。ユージーン様」
「うん──ミシェル」
あら?
お顔色が良くないような?
また昨日と同じ、癖のせいでしょうか?
これも癖と言っていましたが、本当に心配になりますね。
顔色が変わる癖なんて他の人にもあるのでしょうか?
でも侍医曰く侯爵様は優れた健康体だそうですからね。
その侍医の方は侯爵領でもかなりの腕前をお持ちだから、診断を信用していいそうです。
「私の心配は本当に要らないぞ。今朝も完全な健康体だと言われたばかりだ」
「まぁ、毎朝診て頂いて?」
「いや。たまたま会ったから診てくれてな」
それは凄い偶然ですね。
たまたま会える場所に侍医の方はいらっしゃると。
「今朝は少し散歩をしていたんだ。侍医も珍しく同じでな」
「もしかしてお食事をお待たせして──」
「それはない。昨夜はよく食べていてお腹が空いていなかったから朝に歩いておいたのだ。君の用意が終わる頃に、ちょうどお腹が空いてきてタイミングが見事だと思っていた」
それなら良かったです。
お腹を空かせている相手を長く待たせることは、よくありませんからね。
あえてそうする戦法もありますけれど。
「君は──ミシェルは、今日はどうしたい?」
「え?」
「昨夜言った通り、私は今日を含めて三日間休暇を取っている。意地でも働かない気だ」
確かに昨夜も同じように仰っていましたね。
何が何でも働きたくないそうです。
緊急時以外、仕事の話を振るなとまで配下の皆様に伝えているのだとか。
「もし希望がないようなら、まずは邸を案内するが」
「是非お願いします!」
安息を得るには、まずは空間への理解を深めなければなりません。
この場所がどこで、どんな逃げ道があり、どのように敵を追い込む道があるか、知っているからこそ安心して日々暮らせるというもの。
……ここに来てから毎日ぐっすりと眠っておりますけれどね。
だってこの邸では敵の気配を感じないんですもの。
侯爵様のくしゃっと柔らかく笑ったお顔は、室内の明るさに照らされてきらきらと輝いておりました。
また手を捕獲されまして食堂を出る前にシシィがさっと発言します。
「まだ足りないものがおありではありませんか?」
え?
お腹が空いて見えましたか?
そんな物欲しそうな顔をしていたつもりはないのですが。
食べようと思えばまだ入りますけれどね。
「奥様ではなく旦那様のお話です。せっかくの好機を逃されませんように。ちなみに奥様、あとでおやつの時間がございますので、お楽しみになさってください。本日からおやつもこちらの土地で馴染まれているものをお出しする予定です」
シシィのそれは敵という獲物を前にした強い軍人の瞳でした。
やはり素敵です……。
それにおやつの予定も素敵……。
扇もありませんし、シシィと同等の目力を得られるよう頑張ってみましょうか。
シシィがこちらを見て微笑んでいるときに、旦那様が何か言われます。
「うっ──いや、それはこれから──おいおい──怖がらせてもあれだし──だから焦らずにだな」
小さな声で抵抗するように言っていましたけれど。
何がなんだか分からず手を捕獲されている私は首を傾げるしか出来ませんでした。
「時間を掛けるほどにかえって出来ぬようになることもございますよ」
シシィはにっこり微笑みます。
侯爵家には何か凄い秘密がありそうです。
まさか。影の支配者は……。
ごくり。
またしても喉を鳴らしてしまいました。
ここでの暮らしにわくわくしてきましたね。
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